一斉なる罵倒
玄人が上ると、馬鹿共が俺に一斉ににじり寄って俺を罵倒をし始めた。
「あんた、絶対に娘作るな。男湯に平気で胸の出た子供連れて行く馬鹿親父になるからな。娘も周りの親父達も不幸よ、不幸。」
独身の金髪ピアス野郎が偉そうに講釈をたれた。
「せっかく仲間外れではねーて、「一人で入るもん。」を演出してやったてんがに、台無し。あんた、台無しられ。普通にいとうしげな体で、俺らはこれからどんな顔して玄人をからかえばいいんられ?もう、弟じゃなくて普通に可愛い妹らねっかね。妹のお風呂を覗いたスケベ兄ちゃんみたいで、俺は自分がおやげねぇれ。」
久美は顔を両手で覆って嘆きだした。
「普通にからかえばいいじゃねぇか。」
「もう!百目鬼は!俺だっていたたまれなかったよ。下をタオルで隠していたからさ、尚更普通の女の子の体じゃん。平気なお前がちょっとおかしいよ。」
「お前は全裸の婚約者に迫られてもいなせる男だろ。あっちこそ成熟した女の体をしていただろうが。思春期前の小学生程度の体に何を発情してんだよ。実はロリコンだったのか?」
楊は頭の天辺から耳まで真っ赤に染めた。
「う、うるせえよ。それとこれは違うだろ。あっちもガキ同然でこっちもだけどよ。こっちは、あぁ、もう。」
ばしゃんと楊は湯に頭を突っ込んだ。
楊がぶくぶくと湯船に沈んで退場したからか、白波アミーゴズは一斉に俺に非難の眼差しを送ってきた。
「うるせぇよ。せっかく俺が肉体の変化なんかどうでもいい、を実践して奴を慰めているというのに、この大馬鹿野郎共。てめぇらも、いい大人なら少女の体ぐらい見て見ない振りくらいしやがれ。」
俺の言葉に、白波の二人は黙り込んだが、ざぶんと頭を出した男は彼らとは違う顔つきになっていた。
先程の照れもない、判ったという嫌な顔つきだ。
「どうした?」
「判っちゃった。お前はさぁ、髙がちびの胸が綺麗だったって言っていたから、自分もって、ただちびの全裸を見て見たかったんだろ。このどすけベえ。」
「悪いかよ。半裸でふらふらしている癖に、あの体になってからあいつは俺から肌を隠していたからね。実際に見て知らなければ、奴の悩み具合にどう慰めていいかわかんないだろ。あの体に自分がなったと考えてさ、辛いか苦しいかってね。俺はあの顔であの綺麗な体ならばね、自分が気に入ればなんとかなる気もしたがね。お前はどうよ。」
楊は再びざぶんと湯に頭を突っ込んだ。
こいつは本気で玄人を女として見てしまっていたようだ。
モデルのような大人びた外見の婚約者に迫られても、子供でしかない相手に性欲がわかないどころか辛いと逃げ回っている男が不思議なことである。
精神年齢でいえば、玄人もその婚約者と変わらず幼いのだ。
俺は彼の精神遅滞が親の虐待と小学校時の虐めによるものと思っていたが、XXYという遺伝子異常に伴うこともある障害であると知った。
人は第一次、第二次と、性の成熟への段階を得ながら精神も成長するのであるから、彼がそこで成長できなく幼いままでいるのは仕方がないだろう。
しかし、知能に何の遅れもないどころか賢ければ賢いほど、自分と他人との差異を認識するだろう。
体だけではなく、中身の自分自身にさえ、ネガティブな感情を抱くのではないだろうか。
彼はあの体になる前も、きっと成長しない自分の体と心を知って苦しんでいたのである。
それは誰にも共感できない事柄の悩み。
彼にはいかほどの絶望と苦しみであったのだろうか。
「まぁ俺もさ、見れて良かったれって、思いましたけど、ね。」
ぽつっと久美が言うと由貴が相槌を打った。
「傷跡がなくて安心したよね。俺らさ、玄人がいじめに遭ってて辛いのを解っていながらさ、夢だからってアメリカ行っちゃってたからね。玄人が五年生の夏からまともに会ってないのよ、今まで。」
由貴が涙目になって告白することには、アメリカ留学中に玄人と沙々の訃報を聞いて彼らが帰国してみれば、玄人の記憶喪失のために武本の許可なく白波の者は会うなと武本より通告されたと、憤慨する祖父に知らされたのだという。
「俺らの事を親戚として知っているだけでね。俺らは再会禁止だろ、辛いよ。これじゃあ弟が死んだのと同じられ。あん時、行かないでって、成田で俺らに泣いて縋るオコジョが忘れらんねえて。」
「それに、新潟で久しぶりに会った玄人は会話も出来ないくらいの死に掛けだっただろ?あの時は長柄のヘリも押さえられていて、俺達は指咥えて見守るしかなかったからね。」
玄人が殺されかけた事を受けて、周吉が玄人の新潟への帰還を願ったのだ。
そこでは孫が確実に死ぬ、からと。
クミちゃんの新潟弁
語尾に「られ」や「ねっか」などがつく。語尾に「が」がつくのは長岡弁なのでクミちゃんの語尾には「が」が基本つかない。
やったてんがに→やってあげたのに
いとうしげ→うつくしい、かわいい
おやげねぇ→情けない




