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あなたと同じところに逝けるのなら (馬8)  作者: 蔵前
十二 自分を好きでいればよい
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僕の周りは破壊的な人ばかり

 僕は良純和尚の乱暴な考え方に驚き、笑ってしまうほどだった。

 彼はお人形さん遊びも好きだったが、一応目的も有ったのだ。


 彼が僕をあれほどまでに着飾らせたのは、僕から「男であるべき」という固定観念を振り払い、肉体に左右されない自分自身に戻れるようにする為だったのか。


 自分の変わった姿を恥じるのではなく、男でも女でもある姿を誇り楽しめと。


 確かに子供を持てない体だと知っていた自分の体だ。

 彼の言うとおり、繁殖できない体ならどちらでもいいし、美しいと自分が思うのなら自分を愛せば良いのだ。


「ほら、さっさと風呂に行くぞ。お前の家は温泉だって本当か?」


 感動している僕に鬼はどうでもいいのか、彼は既に風呂支度だ。


「温泉ですよ。武本家は遠すぎるので遠方のお客用に迎賓館として改築されていますから、内風呂だけでなく露天風呂もありますよ。」


「露天かよ、すごいじゃん。ちび、さっさと入りに行こうか。」


 楊は嬉しそうに部屋に置いてあった浴衣を取り上げた。


「何でも揃っていて、出張鞄も要らなかったね。」


 僕は風呂場に向かう二人の後を追いかけながら、なんだか楽しくなってきた。

 アミーゴズにも声をかけて、全員でぞろぞろと風呂に向かうなんて、まるで修学旅行のような感じだ。


 否、本当の修学旅行に参加したことも無かったから、例えにするのはおかしいのかもしれないが、この行列は物凄く楽しい修学旅行以上のものであろう。

 でも、矢張りか、その高揚感は風呂場の脱衣所までだった。


「ごめん。無理。ちびは俺達が上がった後にして。」


 僕がズボンとシャツを脱いだ途端の楊の言葉である。

 僕は下着姿のまま、両腕で体を隠すように俯くしかなかった。


「え、何言っているの?かわちゃん。オコジョを仲間外れにしたら可哀相でしょうよ。」


 聞きつけた由貴が楊を批判する姿を見て、僕は彼らには自分が子供の頃のままにしか見えないのが本当で、嘘でも僕を気楽にさせようと心を砕いてくれているのだと思い至った。

 悪辣な奴らだと心底考えていた事に対し、彼等に少しだけ申し訳ない気持ちが湧いた。


「そうだよ。俺達がオコジョの裸体を拝むためだけに、仕事を放ってまで此処まで来たのに何言ってんの?かわちゃんにはがっかりだよ。」


 久美の言葉に、やっぱりとがっかりしたが、僕はアミーゴ達に安心してがっかりさせてもらったと喜ぶべきか。


「ユキちゃんもクミちゃんも、いつも僕を苛めてばっかり。酷いよ。」


 ボソっと呟いたら、アミーゴズが想定外に怒り出した。


「苛めた事ないでしょ。俺達は蝶よ花よとお前を可愛がってきたのに、お前こそ俺達の事を嫌うばっかりじゃないの。悲しいよ、兄さん達は。」


 僕の頭をわしゃわしゃと撫でながら由貴が出す声は、本気で怒っている風だ。

 久美は手の甲で僕の頬をそっと撫で、そして半分呆れた様な声を出した。


「そうだれ。七つも年下の子供を苛めるわけないろ。」


「嘘ばっかり。僕を田んぼに落としたし、部屋は虫だらけにするし、夏休みの宿題の朝顔は葉っぱだけにしちゃったじゃないか!それに。」


 顔を見合わせたアミーゴズが「えー。」と大きく情けない声を出したので、僕は続けられなかった。

 お前等から逃げるのは、以前に花火大会で幼い僕を置いてきぼりにしたからだ。

 由貴の兄の麻友まさともが会場警備のバイトをしているからいいだろうと、適当さにも程がある。


 だから僕は彼らを見ると逃げるのだ。

 人間は学習するものである。


 そして人非人のアミーゴの一人が、彼らの所業に何の罪悪感もなかった事を告白した。


「犬のウンコ踏むより田んぼの泥の方がいいねっかさ。」


 馬鹿だなぁという風に当時と同じ言い訳を久美は言うが、僕は人でなしの同じ言葉を聞いて、あの当時には幼くて言い返せなかった自分の代わりに言い返していた。


「全身泥まみれよりも足がウンコの方がマシだよ!ヒルが背中にくっ付いていて、ヒルを取るために病院にも行ったじゃないか!」


 泥を落として着替えさせて、泣く僕を自分の自転車に乗せて病院に連れて行ってくれたのは久美だったが。


「部屋は本当に悪気がないぞ。お前は暗い部屋が怖いって言っていただろ?それで蛍のいる空間をプレゼントしてあげたんじゃないか。」


 由貴がとても残念そうに僕に言い聞かせてきた。


「昼間に光っていない蛍が部屋中を這い回るのは、気持ちが悪いだけだったよ!昼寝から起きたら虫だらけで、僕は死んじゃうと思ったよ!」


 楊はブフっと吹き出していた。


「ねぇねぇ、朝顔は?」

「オコジョに沢山花をプレゼントしようと肥料を入れただけられ。」

「そうそう。花が一杯咲くかなってね。葉っぱばっかり育つとは思わなかったよ。」


「そのせいで僕だけお花が一個しか咲かなかった日記で、観察サボったって先生に叱られたのに。」


 僕はしゃがみ込んでわぁっと泣く。まぁ、僕は成人だし、泣くマネね。


「ごめんて。悪かったって。あの頃は俺らも子供らっけに。わざとじゃないって。」


 久美が慌てて僕を宥める様に下手に謝ってきた。


「僕の捕まえたフナが、水蟷螂に全滅させられたけど?」


 ちょっと僕はいい気になって、ここぞとばかりにアミーゴを責める事に決めた。

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