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武本昔話

 武本の家は古くて藪の中にある。

 古いがこれは武本にとって、武本が守る村にとって、戦利品であり勝利の旗印なのだ。


 戦後、連合軍は日本の金持ちの家屋を持ち主から奪い取り、家屋の中の財も女達も一切合財奪ったのだ。

 大きく古い武本の家は確実に狙われて奪われる。

 男達が戦場に消えた田畑は荒れ、村が戦後を生き抜くには武本の持つ財は奪われてはいけないものであった。

 憲兵が来ると聞いた村民と武本は一丸となって、一晩でこの家を藪の中に引き摺って隠したのである。


 昔の家は土台に乗せてあるだけなので、引っ張れば家ごと動かせる。

 そして、武本の蔵の財もまとめて家に隠し、村の若い娘達も藪に隠したこの家に隠れた。


 ジープに乗ってやってきた男達は荒れた田畑と老人だらけの村に唖然とし、狙っていた武本の屋敷が焼失した様子に呆然とするばかりだった。

 彼らはそのまま何もせずに、失意のまま空手で帰って行ったのである。

 今や武本町という名になったこの村は、敗戦した日本においてささやかな勝利を挙げたのだ。

 そして、隠した財により村は復興し、武本家も武本物産として再興した。


「凄く良い話だけど、無理。少しは整備しようよ。」


 玄人が長々と武本の屋敷の説明をする中で俺達は山道に近い道を歩いていたのだが、一番体力があるはずの楊が弱音を吐いた。

 格納庫もある発着場に六人乗りの軽飛行機が舞い降りたまでは良かったが、その快適な空の旅の次は武本邸まで歩いて一時間の苦行が待ち構えていた。

 地図上は直ぐそこだが、実際は起伏の激しい獣道が武本家と発着場をつないでいたのだ。


「この辺りはうちの私有地だけじゃなくて国有地が混ざっているので開発できないんです。でも、そのお陰でこの辺りはかわちゃんの好きな鷹や鷲も生息していますよ。フクロウも。」


 つまり、開発できない土地なために徒歩オンリーで、車も自然を破壊するという事で乗り入れられないということらしい。

 そういえば青森は、世界遺産指定の自然が多く残るところだった。


「飛行機が発着場でおかしくなったらどうするの?」


 由貴が当たり前のことを聞くと、玄人は胸を張るようにして答えた。


「町から発着場への道はありますから大丈夫です。とにかく武本家は「辿り着きにくい」を目的で藪に隠された家屋なので、町からも発着場からも遠くて辿り着きにくいのです。まあ、町側から武本家に向かった方が車移動が出来る分楽ですけどね。」


 玄人の説明に楊は空を見上げて、大きくため息をついた。

 空は青々と澄んでいて、夏でも青森の空気は清々しく涼しい。


「軽飛行機だったらあっと言う間に武本町だけど、獣道を歩いて一時間。三沢から車だったら二時間ね。そりゃ法事に帰りたくもなくなるよ。」


 由貴も久美も楊の言葉にうな垂れて、歩く足が一段と重くなったようだった。


「車で町方向に行って、町から発着場に向かうのはどうだ?」


 俺の言葉に、馬鹿が「あ。」と立ち止まった。


「おい、もしかして武本の人間、今まで誰も気づかなかったのか?」


 俺は「そんなことはないだろう。」と思いながらも、「武本だから。」という思いと共に玄人に聞き返した。

 玄人は凄く明るい顔になっている。


「流石です。良純さん。そうですね、そうすれば十五分くらいで発着場に行けますね。ユキちゃん達の帰りはそうしましょう。」


 バシッ、バシッ、バシッと、三人の愚連隊に馬鹿は囲まれて叩かれた。


「酷いです!無理矢理連れて来たくせに!叩くなんて酷いです!」


 叩かれて憤慨した馬鹿は、獣道を勝手知ったるからか、凄い勢いで駆け出して彼一人で行ってしまった。

 俺達を置いて。


「すげぇ、キジムナーかよ、あいつ。」


 変な走り方で消えた玄人に、久美が妖怪の名前をポツリと呟いた。


「やめて、クミちゃん。だめ。腹が痛くて、俺歩けないよ。」

「俺も。やめて、かわちゃん笑いすぎだって。どうしよ。」


 腹を抱えて座り込んで大爆笑する愚連隊ども。

 楊はすっかり彼らに溶け込んでいる。

 ここまで歩いて十五分。


「おい、お前ら、発着場に戻って車を呼ぼうか?それとも歩くか?」


 笑っていた楊が、俺は歩くよ、と立ち上がった。


「だってさ、キジムナー一人置いていくわけに行かないでしょ。絶対どこかで俺達を待って伺っているって、あの馬鹿ちび。」


 ぶーと由貴が吹き出した。


「いるいる。絶対どっかで俺達を待っているはず。今日だってさ、もっと違う所に逃げれば良いのに、わかりやすいあんな所に隠れちゃって。」


「見つかる前に君達に叫んじゃうしね。ちびとかくれんぼは楽しいだろうな。探さないと泣きながら出てきちゃうの。」


「かわちゃん、大当たり。」


「やめて、お前らやめれって。」


「じゃあ、そろそろ行こうか?」


 愚連隊に声を掛けて前方を見たら、戻って来たらしきキジムナーが木陰からこちらを伺っていた。

 俺は思わず妖怪写真を撮ってしまった。

 それから自分の行為を打ち消すようにして、少々乱暴に玄人を呼んだ。


「おい、発着場に戻るぞ。お前はさっさと発着場に迎えの車を呼べ。」

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