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あなたと同じところに逝けるのなら (馬8)  作者: 蔵前
一 僕、頑張るからね!
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エアコンの電気代!

「よし、完成だ。」


 嬉しそうな声に目を開けて彼を見つめると、彼は万人を虜にできる微笑を浮かべて、僕という自分の作品を鑑賞しているではないか。


 彼は嵌ってしまったのだ。

 お人形さん遊びに。


 まず、僕の肉体の変化で膨らんだ胸を隠す物が必要となった。

 けれども僕が嫌がってそのような品を何一つとして買わない為に、彼がパット入りの下着や衣服を購入して来たのである。

 最初は数枚の女性用のトップスだったが、そこからガウチョパンツやチュニックと自分が女性に着せたい服を見かけると買うようになった。


 次に、その服を僕に着せた後に僕が男の娘をしていた頃の化粧品で僕を化粧させてから、彼は「化粧」に嵌り、プロ使用の道具と化粧品を揃えてしまったと、そういうわけだ。


 実は仕事が無くても、このところ毎日、僕は彼の指示する服を着て彼に化粧をされているという有様だ。

 彼は非常識な程に研究熱心なのだ。


「俺は何をやっても凄いよなぁ。」


 自画自賛している人が手鏡を渡してくれたので覗くと、そこには憂いを含んだ絶世の美女が映っていた。


 僕の顔は死んだ母にそっくりだ。


 彼女は白波酒造を経営する白波家の娘であり、白波一族の女達はクローンのように似通っている。

 彼女達の人形のように整った顔や姿は、白波家が奉じる蛇神様の美しい姿なのだといわれている程なのだ。

 そして、男であるのに白波の女の顔を持つ僕は、自慢じゃないが、白波の女性の誰よりも可愛いのである。


「クロ、うまくやって物件が売れたらボーナスをやるからな。」


「頑張ります!」


 僕達は悪辣な共犯者の笑顔で微笑み合った。

 僕は彼が大好きだし、彼は何だかんだと僕を大事にしてくれるのだ。


 例えば、この部屋の空調を保つエアコンと隣の仏間にある神棚などは、その説明に良い証拠である。


 彼の家は彼を養子にした彼の師である俊明和尚の持ち家だった。

 良純和尚は俊明の死後はこの自宅を重要文化財のごとく変えないように手入れをして守っていたが、僕のために僕の祖父から送られた神棚を仏間に設置し、僕が殆んど自室にしている居間にエアコンまでも設置してくれたのだ。


 エアコンのある部屋は涼しく、彼もこの部屋で寝るようになった。

 良純和尚の部屋は二階の六畳間だが、そこにはエアコンがついていないからだ。

 夏の東京は暑いけれども、世田谷の住宅街にあるこの和風家屋は風の通りが良く、扇風機で凌げていたからか、エアコンが無い家であったのだ。

 でも暑さ寒さに弱い僕には、特に暑さに弱い僕には、実に暑さが辛かった。

 だからこそか、彼は僕という子供のために、大事な家に穴を開けてまでエアコンを設置してくれたのである。


 それも、炎天下の中で言葉通り自らの手で設置してくれたのだ。

 何て優しい父親なのだろう。


 ぷいぷいぷいぷいぷい。


 居間のケージの中でモルモットの「アンズ」が鳴きだした。

 良純和尚と同じ不動産屋の浜田はまだ善行ぜんこうから貰ったスキニーギニアピッグで、僕の愛娘のこの子は僕同様に暑がりで寒がりだ。

 体に毛が無い種で、彼女は頭にだけアプリコット色の毛が鬣のように生えている。

 メタルロックな外見どおり、彼女は傷つきやすくピュアな魂持ちである。


「僕達が仕事中でも快適な部屋にいられるよ。良かったね、アンズちゃん。」


「ふざけるな。モルモットのためにエアコンを点けっぱなしかよ。」


「熱中症でアンズちゃんが死んじゃったらどうするのですか?」


「経ぐらいは俺が上げてやるよ。」


「に、にじゅうはち度設定で、つ、点けっ放しの方が電気代がかからないって。」


 良純和尚は眉を上下させてから、計算高い目つきで僕を見下ろした。


「それは二十四時間家にいて、寒い暑いとエアコンを点けたり消したりする場合との比較じゃないのか?」


 あぁ、僕は今日頑張って、愛娘のために電気代を稼がないといけない。


「アンズちゃん。僕は君の電気代のために、頑張って男の人をたらしこんでくるからね。」


 鬼は僕の言葉に物凄く良い声をあげて大笑いしていた。

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