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アイドル 御堂刹那の副業  作者: 大河原洋
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事故現場

 刹那は亜矢の心霊ツアーが交通事故に遭った場所に来ていた。


 幸運にも人通りはほとんど無い、それでもタクシーを待たせてあるので運転手の視線が気になるが仕方が無い。


 これから霊に話しかけるわけだが、端から見れば誰もいないのに話しているアブナイ人以外の何者でもない。


 Y字路の間に大きな木が植わっており見通しが悪く、交通事故が起こりやすいのは明らかだった。


  大勢いる……


 数十人の霊がウロウロしている。


 見通し以外にも事故の原因が出来てしまったようだ。


 こうなるともう刹那がどうこうできるレベルではない。ここに来た目的だけ果たして次へ行こう。


 刹那は今回の事故のことを聞こうと辺りを見回した。一番いいのは亜矢のツアーで事故に遭った霊だ。


  ドルオタっぽい人は……


『み、御堂刹那……さんですよね……』


 振り返ると太った男性の霊が立っていた。


  ってか、何であたしの名前知ってンのよ?


 御堂刹那は超マイナーアイドルである、アイドル通の中でも知る人は少ない。


「はい……そうですが……」


 思わず引き気味で答えた。


『ああやっぱり! ブ、ブログ読んでいます。あ、あとネット放送のブレーブストリームもッ!』


  コイツ、真性DDだ……


 どうやら探す手間が省けたらしい。


 それにしても、霊感アイドルと海外SF・ファンタジー小説マニアアイドル、接点がまるでない。


 見た目も亜矢とは大分違う。亜矢は華奢で小柄だが、刹那はそれなりに身長もあり、それなりに肉付きもいい。


 更に刹那は、テレビに出演したのは深夜枠にたった一度だけ、ネット配信は事務所主催の『ブレーブストリーム』に定期的に出ているが番組自体がマイナーだし、アイドル雑誌に取り上げられたのは1回だけでしかもかなり小さくだ。


 会いに行く事はできても、滅多に見られない希少種アイドルなのだ。


 それを知っているという事は、こちらも筋金入りのDD(誰でも大好き)と言うことだろう。


 それにしても霊から話しかけてくるのは珍しい、余程アイドルに執着していたに違いない。


「あ、ありがとうございます……」


 刹那自身は霊に語りかけるとき、普通に声に出して話しかける。


 実際には声を出さなくても、ほとんどの場合、意思疎通はできるのだが、刹那は霊に対して生者と同じように接するように努めている。


 当然霊の声は耳から聞こえてくるわけではない。


 子供の頃は耳から聞こえる音との違いが判らなかったが、今ではその違いを判別できる。


 意識すれば霊の声を閉め出すこともできるし、積極的に聴くこともできる。


『よければ握手を……』


「その前に教えて欲しいことがあるんです」


『え、何ですか?』


「あなたがここに来たときの事を教えて」


『ここに来たとき……』


「思い出して」


 先ほどまでの上気したような表情は消え、霊は戸惑ったように黙り込んだ。


『ここに……来たとき……?』


 震えた声で同じ事を呟いた。


「何か思い出した? あなたは鳴滝亜矢の心霊スポットツアーに参加していたはずだけど?」


『そう……だ……あの時……クルマが……クルマが……』


 霊はおののき絶句した。何が自分の身に起こったかを理解したのだ。


「あたしはその事故を調べに来たの、鳴滝亜矢に頼まれて」


『え……』


 人生の最後に会ったアイドルの名前が出て、霊は再び驚いた顔をした。


 これだけ感情が豊かな霊も珍しい、人の多くは亡くなったときに色々な物を失ってしまう。


「事故に遭う前後に、何かおかしなモノを見るか感じるかしなかった?」


『そんなもの……

 あ、そう言えば女が……ヘンな女を見た気がする……』


「何が変だったの?」


『うまく言えないケド……とにかくヘンだった。いや、見たかどうかもあやふやで……』


「どんな小さな事でもいいから、その人について覚えている事はない?」


「う~ん……暗かったし……影のように見えた気がするだけで……」


 霊の記憶が全て事実に基づくのか、勘違いもあるのか、これも刹那には判断しかねる。


「ありがとう、それじゃあ……」


 刹那は霊に手を差し出した。


「ゴメンなさい、できれば亜矢ちゃんと握手したかったでしょうけど、あたしでガマンしてくれる?」


 一瞬キョトンとしていた霊だが、かすかに微笑み刹那の手を握ろうとした。


 だが、それはすり抜けてしまった。


 今度は泣き笑いの顔をする、本当に生きているように表情が豊かだ。


 その分だけ刹那は、目の前に近づいている別れが辛くなっていた。


『握手できないや……刹那ちゃんの手を握れない、これが死ぬってことなんだ……』


「いつかあたしもそっちへくから、その時は改めて握手してくれる?」


『もちろん! こんどは刹那ちゃんの……刹那ちゃんだけのファンになるよ!』


「ありがとう」


 霊の存在が消えるのを感じた。


 刹那は待たせているタクシーに向かった、次の場所へ向かわなければならない。


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