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アイドル 御堂刹那の副業  作者: 大河原洋
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亜矢のマンション

「お待ちしていました」


 亜矢が笑顔で出迎えてくれた。


 と言っても、やつれた顔にムリヤリ貼り付けた愛想笑いだ、見ていると痛々しくなる。


 刹那の視線は自然と亜矢の背後に向けられた。


 相変わらず〈影〉がそこにいる。


 リョータが入院していた病院を後にして、亜矢のマンションに着く頃には陽が傾いていた。


「変わったことはない?」


「ええ、あれからは……。ただ、御堂さんが来る前に取材が来ました。事故に関してです……」


「そう」


 亜矢に招かれるまま部屋に通された。


  この匂い……


「取材に来た記者って、何とかミチルとかミツルだとか言わなかった?」


「芦屋満留ですか?」


「そう、それッ、そいつ!」


「ええ、その方ですけど……」


 どういうことだろう、まるで先回りしているようだ。


「彼女、何か関係あるんですか?」


「ううん、以前あたしも取材を受けてね。この匂い……」


 亜矢も気になったのだろう自分の部屋の匂いを嗅いでいる。


「そう言えば、そうですね。白檀でしょうか……言われるまで気付きませんでした……」


「そ、なんか色々鼻につく女よね」


「そうですね」


 亜矢は苦笑した。


 このマンションは練馬にある三階建てで、亜矢の部屋はその三階にある。バス、トイレも別だし、オートロックで閉め忘れもない、それに部屋自体かなり広いし、なんとベランダまである。


 電化製品も一通り有り、四十インチはあるTV、オーブンレンジ、エアコン、冷蔵庫、それに洗濯乾燥機まである。


 ちゃんと整頓されており、ぬいぐるみや、かわいい小物などもあってオシャレな空間だ。ファンからのプレゼントだろうか。


 ベッドもセミダブルでゆったりしていて、ふかふかの布団とマクラが、これまたかわいいシーツやカバーでコーディネイトされている。


 思わず溜息が出てしまう。


 雑然として余り片付けられていない刹那の部屋とは大違である。


 しかも刹那がファンからもらうプレゼントのほとんどが、マニアックなSF小説やファンタジー小説、そしてそれに関連したフィギアやグッヅだ。


 属性が海外SFファンタジーマニアなので仕方ないが、正直欲しくない。


 といっても、捨てるのはさすがに忍びない。


 よって狭い部屋が少しずつ浸食されて行く。


 あんたんたる気持ちになって亜矢の部屋を眺めていると、ふと違和感を覚えた。それは霊的な物ではない。


「わたしの部屋に何かあるんでしょうか?」


 部屋の中を見回してる刹那に不安を感じたのだろう、亜矢がたずねた。


「ごめんなさい、かわいい部屋だなと思ってつい見とれちゃった」


「そんな事ないですよ」


 安心したように表情を緩めた。


「さっそくだけどいくつか質問させてもらえる?」


「ええ、でも起こったことはほとんど昨日話してますよ」


「うん、確認の意味も込めて聞きたいの。それに今日リョータさんにも会ってきたから」


「具合はどうでした?」


 責任を感じているのか表情が曇った。


「もうすぐ退院できるみたい。それに、この事件はただの偶然で霊現象とは思ってないって」


「あの後、わたしに起こったことを知らなかったんでしょうか?」


「ううん、その話もしたけど、もともと霊なんて信じてないみたい。あたしもけんもほろろに追い返されちゃった」


「あ……すみません……」


「何も鳴滝さんが謝ることじゃないわ、この仕事をしているとよくある事だから。逆にその方が助かることもあるしね」


「はぁ……」


 亜矢は罪悪感をぬぐえないのか、まだ申し訳なさそうにしている。


「で、本題に入りたいんだけど」


「はい」


 伏せていた視線を亜矢は刹那に向けた。


「申し訳ないけど、除霊に関わることだから鳴滝さんのことを調べさせてもらったわ。霊感アイドルとして活動を始めたのも、リョータさんのネット放送がきっかけだったのよね?」


「はい、同じ事務所の先輩の代役で」


「篠原珠恵……さんだっけ? もう引退しているのよね、体調不良が原因で」


「ええ……それでレギュラーでやっていた『リョータの都市伝説検証』っていう番組に穴が開いてしまって、わたしが急遽代役に選ばれました」


「それから一年近く仕事をしていて、心霊関係のネット放送が二六本、イベントを四回やっている。で、初めて霊体験をしたのが一ヶ月前の……」


「『都市伝説探訪』の収録です」


「たしかディレクターも、ネット放送で一緒だった?」


「はい、『都市伝説検証』の評判がよくて、それで地方局での放送が決まったんです。それで制作会社も一緒で、タイトルを『検証』から『探訪』に変えて再スタートしたんです」


「ディレクター以外のスタッフも一緒なの?」


「規模が違いますから人数は増えてますし、局のスタッフも加わっています……。それが何か?」


「う~ん、ごめん、まだ何とも言えない。実際、何が起こっているかを調べている途中だから」


 亜矢の背後の〈影〉、それ以外はこの部屋に霊的に異常な所はない。


「鳴滝さん、この部屋で何か怪現象って起きたことある?」


「いいえ、一度も……」


  やっぱりね、でもこの違和感は……


 改めで亜矢の部屋を眺めていてその原因に気がついた。


 なぜすぐに気がつかなかったのだろう。


「ありがとう、それじゃお邪魔しました」


「もう、いいんですか?」


「うん、この部屋で何も起こっていないのがわかったから」


「わたし、これからどうすれば……」


 刹那は立ち止まり一瞬考えた。


「まだ断定はできないけど、この部屋にいる限りは大丈夫だと思う」


「でも、わたしは取り憑かれているんですよね?」


「あたしに視える〈影〉は、今のところ直接手出しができない。でも、この部屋で今まで怪現象が起きていないなら、他のところ、もしくは他の誰かといるよりは安全なはずよ」


「『はず』ですか……」


「昨日も言ったけど、あたしも今まで視たことのない状態だから断言ができないの。ごめんなさい」


「いえ……」


 不安そうな亜矢を一人残し、刹那は次の調査へ向かうことにした。

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