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008 ちゃんとした久しぶり?

  そもそも俺の天敵であるクラスメート(一部除く)に絡まれてしまったのにはいくつかの偶然が重なった結果であるとも言える。


 例を挙げるならばこんなものだ。

 ①同じ街に同じ時間同じ場所にいた事。

 ②久方のゴブリン狩りで疲れきってしまい重い鎧を宿ではなくギルドでポーチに片付けて素顔を晒していたこと。

 ③不注意によってお互いの肩がぶつかったこと。

 ④早く帰りたいが故、面倒事を避けようと下手(したて)にでた態度から俺自身を連想させるに至った事。


  俺は訓練もしてきたし、レベルもある程度はある。しかし、固有スキルにおいて圧倒的に不利。なおかつこの人数比で対抗するほど馬鹿ではない。


 というより単体でもボコられる自信がある。いや、ワンチャン殺されるまである、冗談じゃなく。


  奴等が考えつかないとしたら俺が回復魔法を上級までなら使えるということ。ここはある程度ボコられた上で宿に帰って治療するのが最善だ。俺の本能がそう言っている。


  それに下手に歯向かえば金、武器、防具等の生活に欠かせない貴重品を取り上げられる可能性だってある。とはいえ、向こうは俺は何も持ってないと思ってるはずだが。


「俺たち見ちゃったんだぁ、お前が唯一のE持ちだってことをさぁ」


 俺も見ちゃったんだぁ、お前ら全員A持ちだってことをさぁ。さぞ異世界満喫してんだろうなぁ。

 俺は心で言い返した。


 え? 言わないよ。死にたくないし。


「まぁ、とりまこっちに来いよ」


  俺は言われるまま路地裏へとついていく。ステータスの数値自体は多少変わらないのかもしれない。でも固有スキルのランクの差でわかってしまう。此処でも結局学校のあの頃と『全く変わらない』という現実に。


「おい、とりま今もってる全財産寄越せよ」


「毎日ギリギリで生活してるんで、全財産はきついかなーなんて……っごぁ!?」


  言い訳なんて無理でした。即座にボディブロー頂きました。俺は地面に崩れ落ちる。ああ、この感覚は間違いなく学校生活だ。暴力こそなかったものの蔑むような彼らの目は見覚えがある。ククリさんに治療してもらわないとキツイですわぁ。


 つまり、斎藤さんがいないと毎日マゾに目覚めそうな激痛を浴びせられてたってわけですね。いや参ったな、はっはっは。


「なに笑ってんだ気持ちわりぃ」

「こっちでもこんなんとか、なるべくしてなったなEランクさんよぉ」

「俺らの女神である斎藤さんに気を使ってもらってるからって調子のってるお前がマジで気に食わなかったんだよなぁ」

「いや、ここなら少しくらい制裁を下してもよくね?」

「それもそうだ。堀内、あれやってみろよ」

「りょーかーい」


  リーダー北沢高陽に何かを命令された堀内健人は楽しそうに笑って俺を見下した。そして「【苦しめ】」と言い放った瞬間、俺の頭を割るような痛みが襲った。


「あがががががががぁ!?」


  俺がのたうち回るのを見て大爆笑の5人組。その状態で俺を蹴る、ける、ケル。


  正直こっちの世界の蹴りが半端じゃない。元の世界なら死んでるわこれ。多分こっちの世界に来て手加減を忘れちゃったんですね?


  俺は渋々全財産を取り上げられる『いつもの俺』を演じながら、予算より少めの金を出す。


「これだけか? すくねぇな」


「これだけです……ほんとです」


  すると北沢高陽が急に叫ぶ。


「おいタケトぉ! 嘘つくなやゴラぁ!!」


「ひぃっ!?」


  予定通りのセリフに滑稽に驚く俺。そして「ごめんなさい、騙そうとしました、ごめんなさい」と怯えながら追加で金額を上乗せ。まぁ、今日の稼ぎの10分の1くらいだし痛くはない、いや蹴られてるから痛いけど。


 こんな感じで思い通りにさせられる嫌いな奴はすぐ飽きてほうってくれるだろう!


 てか俺のこと嫌ってるのは知ってたけど、こんな暴力的な奴らだったか?

 躊躇いもなく人間に危害を加えるなんて。


「おいおい、俺たちを騙したのかよ?また喰らわずぞ俺の【絶対服従】をよぉ」


 どうやらさっきの堀内健人のスキルは【絶対服従】というらしい。流石Aランク、絶対チートだそれ。


「俺の【完全切断】で盗賊どもみてぇに千切りにしてやってもいいけどなぁ?やっぱ、北沢の【阿鼻叫喚】が最強にパネェ「おい何してる!」……やべっ!?」


  通りかかった人が俺の悲鳴を聞いて駆けつけたのだろうか。こいつ等強いんで上手にやられた方がいいっすよ……と経験者は語りたい。声は出そうにないが。


 リーダーの判断を待ってか四人は北沢を見る。


「もういい、行くぞ」


  大事になるのを避けたいのだろう。北沢に続いて四人も去っていく。ボロボロの俺をさっきの人が担いでくれているのがわかる。俺は限界だった。疲れている上に眠くて仕方がない。


「おい、大丈夫か? また随分派手にやられたな。仕方ねぇから送ってやるよ。家はどこだ?」


「すみません、星の館です。この礼は必ず……」


  その言葉を残して俺は意識を手放した。



 ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎



「やぁ、久しぶりだね!」


「お前は……エール!? ってことは俺死んだ? 嘘だろ確かに糞蹴られて糞痛くて糞腹たったけどHPは100も減ってないことも確認したし、そもそも力尽きたわけじゃなくて寝落ちしただけのはず……」


「あはは。よくそんなに早口で独り言を。地球ではどうせなら学校よりアナウンサー教育施設に通ってた方が有意義に時間を過ごせたんじゃないかい?」


「いや、それは無い。カーストが下の奴はどこに行っても底辺なのが世の常だ」


「ドヤ顔でそんな事言われてもね。ぼくはなんて反応すれば……」


「ってそんなことより、俺また転生!? 今度はチートスキルをお願「いや、死んでないから」……へ?」


  周りを見渡すとあの日の受験会場だ。つまり、死んだからここにきたんだろう? どういうことだ?


「勘違いしてるようだけど、君は死んでない! 忘れたの? お役立ちアイテムを渡しにきたのさ」


「暫くしたらくれるって言ってたやつか? 暫くしてもこなかったからめんどくさくなって無いことにされたのかと思ってたわ」


「僕のキャラそんなに酷い!? ねぇ、神なのに扱い酷いよね!?」


 そりゃ三ヶ月以上何もなかったし、そう思われてもしかたないだろ。


「まぁ、いいくれよ」


「はいはい、どうぞ」


  手渡されたのはチュッ〇チャプス、飴だった。


「神からのお助けアイテムがチュッ〇チャプスってどうよ」


「いやいやいや、それ今君に一番必要なものだし超級に役立ちアイテムだからね!?」


  【全てを見通す目】でチュッ〇チャプスを調べてみた。



 賢者の石〔Lv.1〕:超絶万能な石。どんな病や呪いも治してしまい、挙句の果てには寿命まで伸びると言われている始末。使用時間によってのみレベルが上がる。製作者不明。


 なるほど。エミの異常状態をこれで解くことができるのか。


「そうそう、まずはそうしてあげな。しかも石だからどれだけ舐めても減らない優れもの。ただ治すのには時間かかるけどね」


「だから心読むな怖いわ。まぁ、治るなんらどうだっていいさ」


「寿命まで伸びるしね。君たち生物にとっては願っても見ない夢だよね」


「でも伸びるって言われてるだけなんだか「いや、それ舐めてたら伸びます」……マジか!?」


「しかも若さ保てるから女性に人気出ること間違いないね! この僕が保証する!」


「このこと知られたら命狙われるのは必至。黙っておこう」


「あはは。それがいいね」


  奴等にボコボコにされた時は「なんて日だ!」なんて思ったが、それをきっかけにここに来れたのだから感謝しなくてはならないな。


「いや、その場合は寝てる時に招待できるんだけど」


「だから心を読むなよ……てかなんで奴等が一緒に行動してんだ? ランダムにこっちに送られる筈だろ?」


「そりゃランダムだからさ、たまたま仲良しグループが同じ場所に送られることもあるさ」


「その言い方だと他にも集団で送られた奴らもいるのか?」


「まぁ、君以外はほぼそうなんだけどね」


「そうか……」


 聞く限り絶対操作されてるじゃん。


 ここ最近そんなに傷つく言葉は誰からも言われなかったぞ。エールは神というより鬼だな。

 衝撃の事実に俺は落胆し、肩を落とした。


「んじゃそろそろ帰りたいのだが」


「また、こうやって会いに来ていいかな? 君は面白いからいい話し相手になるよ」


「たまにならな」


「言質は取ったよ? じゃ、またまたいってらっしゃーい!!」


  視界が歪む、本日二度目。


「久々に会っても騒がしい神だったな」


  目覚めるとベッドの上で寝ていた。安堵の息を漏らすのも束の間、俺は焦りを覚える。


  感じるはずの無い温もりを右側から感じる。いや布団がかけられているから暖かいのは分かる。でもこれは明らかに別の温もり。


「ギギギ」という効果音が相応しいぎこちない動きで首を曲げその原因となりうる所の捜索を開始する。


  そっと布団をめくるとエミが裸で俺に抱きついて寝ていた。


 チ ナ ミ ニ オ レ モ ハ ダ カ ダ ッ タ。

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