007 久しぶりでもないような久しぶり
エミを宿のベッドに寝かし、まずは自己紹介から始める。
「俺の名前は松本武人、武人って呼んでくれ。今日から君の主人ってことになる。よろしくな」
なるべく優しく話しかけたつもりだが、正直上手くできている自信はない。コミュ力って大事。
「…………ぁ……ぃ」
エミは何かを必死に言おうとしているが声が掠れて聞き取れない。
「あー、無理に喋らなくていいよ。エミ、でいいよね? ゆっくり話せるようになればいいから。焦らずに、ね?」
「……」
エミは頷きながらも困惑しているようだ。困ったような顔になってしまっている。
一体どうしたのだろうか。別に変なことは言ってないはずなんだが……。ん! なるほどわかったぞ。
「ごめん、驚かせちゃったね。俺はスキルで相手のステータスを見ることができるんだ」
「ぁ……い」
表情はまだこわばっているが、納得してくれたようだ。
「今、エミの身体は内側から外側までボロボロになっている。治療をしたいんだけど許してくれるかな?」
「っ!?」
エミは体を強ばらせた。きっと今までの経験から酷いことをされると思ったのだろう。こんな可愛い子にそんなことできる訳ないじゃないか!
「そんなに驚かなくて大丈夫。痛くしないから」
暫くしてエミは首を縦にふる。俺はまず服を脱がして、エミが仰向けのまま楽な体勢になれるように身体とベッドの間にタオルを設置した。枕はエミにとっては高かったのでこちらもタオルで適切な高さに調節した。
「変なことはしないから安心して。眠たくなったら寝ていてもいいよ」
そう。今俺の目の前にはベッドに寝かされた可愛い美少女の素肌が晒されており、理性を保つので精一杯なのである。
気を抜けば視界に入らんとするその双丘や、傷はあるが綺麗な小麦色の肌。人生で初めての女性の裸体が俺の前に存在しているのだ。
だがしかし、俺は耐えていた。まずは治療に専念しなければ、この子の命の灯火を消してしまう可能性もある。
(ええい煩悩よ、沈まれえええええ!!)
絶賛童貞中の俺には少々ハードルの高い治療が始まった。
まずは内臓から優先して治していく、とはいっても流石に今日だけでは無理だろう。少なくとも回復魔法をかけ続けて完治まで一週間はかかる。それだけ酷い有様なのだ。
「よし、始めようか。……『ハイヒール』……『ハイヒール』……『ハイヒール』……」
治療開始からわずか数分でエミは寝てしまった。それもそうだろう。回復魔法をかけられている方は優しい光と暖かさに包まれた感覚を覚える。疲弊しきった体が睡眠を求めるのは当たり前だ。
回復魔法をかけ続けて、気付けば夜になっていた。
「よし、今日の治療はここまで。ってそういや寝てたんだったな。やべ、ご飯食べさせようとして忘れてた」
俺はエミに布団を二重にかけてやり、急いで宿の夕食を2人分用意してもらった。
部屋に戻っても、エミは未だに寝息を立てていたので仕方なく起こすことにした。
「エミ、エミ、起きてくれ。ご飯にしよう」
「……ぅ」
どうやらお目覚めのご様子。俺はとりあえずエミの上半身を起こしてそこに用意したタオルと枕を積み上げる。簡易背もたれの完成だ。
まだ腕は治療できてないため、上手く動かせないだろう。ここは仕方なく俺が食べさせることにした。ここは仕方なく、仕方なくだ。
女の子に食べさせるのってちょっとエロいとか、熱くてはふはふしながら食べると可愛いとか、そういうのを考えているわけではないのだ。
ないのだ。
「お願いしたらお粥を作って貰えたんだ。はい、あーんして?」
俺はやけどしないようにしっかりと冷ませてから、お粥をエミの口へと運ぶ。飲み込むまでに少し時間がかかったが口に合ったらしい。口元が少しだけほころんだ様に見えた。
ぎこちなく咀嚼するエミが可愛らしくてこっちまで笑顔になる。
「……ぁう」
突然、エミは泣き出した。かすれ声で、少し荒い呼吸で泣いていた。自分の涙を拭おうとするが思ったように手が動かなかったようで、一層泣きだしてしまった。
「な、泣かせてしまった!」
俺は何をしていいか分からず、しばらくオロオロしていたが、片手で手を握り、もう片方の手でタオルをとり涙を何度も拭ってやった。
エミが落ち着いてから、再びゆっくりと食べさせることにした。
回復魔法と言えども万能ではない。治癒院でも薬と併用して治療している。つまり栄養のあるものを摂取すれば体も早く治るだろう。
「早く治してやらないとな」
お腹を満たしてか、泣き疲れてか、エミは寝息を立てている。そんなエミを見ながら彼女の完治を切に願った。
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翌日から、エミに飯を食べさせる時と睡眠時間以外を治療の時間に当てた。幸いMP回復増進ポーションを溜め込んでいたため、ハイヒールぶっ続けはできずとも休憩でヒールをかけて間断なく治療する方法を編み出せた。
その甲斐あってか、治療開始から8日目にはほとんど完治していた。
エミはもう手も動かせるし、少しずつではあるが話せるようにもなってきた。
「『ハイヒール』……よしっ! これで一応終わりだけど、まだ辛いところがあったりしたら遠慮なく言ってくれよ?」
「……ぁりがと……ござぃ……ます」
ちなみに俺はエミの治療をし続けたおかげで遂に【上級回復魔法】であるオールヒールまで扱える様になった。まだMP消費的には難しい部分があるので使い道は考えないといけないけど。
オートヒールについてククリさんに聞いてみるとどうやら欠損部分を治すことができるらしい。しかしこの魔法の難しくところは欠損部分によってMP消費に差が生じる所だ。何度も言うが使い道が肝心になる。
ただ、エミにかかっている異常状態である成長抑制、魔法使用不可、魔力枯渇については未だ治せていない。そもそも治す方法すら見当がつかない。
「流石にずっと部屋に篭っていたから、ちょっと外の空気をすってくるよ。エミ、大人しくしててね」
「…いって……しゃい…せ」
エミは笑顔で送り出してくれる。俺にも懐いてきた兆候かな? うんうんいいことだ!
ここ最近は治療で手一杯だったため全く働いていない。銭を稼がなければ、銭を。何をするか熟考した上でやはりゴブリン狩りをすることにした。
泣く泣くゴブリン狩りをすることにしたんだ。安全第一と言うことで。
この後に悲劇が待っているとも知らずにーーーー。
<名前> タケト=マツモト
<種族> 人族
<年齢> 17
< LV >39
<HP>790/790
<MP>790/790
<攻撃力>790
<防御力>790
<素早さ>790
<命中率>790
<会心率>790
<魔攻力>790
<精神力>3280
装備:下着一式、私服一式、、アイテムポーチ
所有金額:590666エン
スキル:【全てを見通す目】【剣術Lv.89】【体術Lv.68】【初級回復魔法Lv.99】【中級回復魔法Lv.99】【上級回復魔法Lv.22】
固有スキル:【年功序列】
簡易設定:【自動換金 ON】
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「ふぅ、とりまゴブリン数十体は仕留めたか? 伊達にゴブリンキラーやってませんわ」
前までゴブリン狩りばかりしていた俺を他の冒険者が大層な名前をつけてくれたのが「ゴブリンキラー」という名前。
俺はただ単にレベリングできて小遣いも貰えるという点で効率化を測っていただけなのだが。思うよりもダサい二つ名にため息が出そうだ。
さて、帰ってギルドに報告しに行くか。
俺は残りのゴブリンをアイテムポーチに収納し、のんびりと街に向かって帰り始めた。
ギルドで報酬を受け取り、疲れ果てて歩いているとすれ違いざま肩にぶつかってよろけてしまった。
悪気があった訳では無いので即座に謝罪する。
「すみません、前が見えて無かったです」
「いや、こっちも悪かった……ってお前……」
向こうも謝ってきたし、悪い人じゃ無さそうだ。
「タケトくんじゃ〜ん!! 久々〜」
「え? マジ!? モノホンじゃんかよ!」
「あららら、こんな所でも湧いてでるなんてホントに不快な奴だな」
前言撤回。悪い人たちでした。
俺の目線の先には5人。学校で俺にいつもちょっかいをかけてくるメンバーだ。
リーダーの北沢高陽、信条正木、堀内健人、高梨優、九条徹がニヤニヤと楽しそうに立っている。
確かこいつ等固有スキル全員Aでしたよね? 詰みましたわぁ……。