052 ダンジョン話
俺達が受け取った号外には『エルフと魔族が手を組んだ! 新しいダンジョン建設を共同で進めていた事を明らかに!』というニュースがでかでかと記載されていた。
そもそもこれの何がニュースなのかが分からない。
別にそんなこともあるんじゃない? って感じだ。
強いて言えば、ダンジョンって自分達で建設するものなんだぁという驚きはあるかな。
「これの何が凄いんだ?」
周りの人達はへぇだの、はぁだの、号外を見ながら感心している様子だが、俺には全く分からない。
「そうですね。これについての説明は一言では終わらないので昼食を取りながらにしませんか?」
「そうしましょ」
「その方が良いッス。ミーシャはお腹ぺこぺこッスよ」
エミの提案に賛成するアリスとミーシャ。俺も特に反対するつもりはなく、エミに従うことにした。
宿に戻り、追加料金を支払って昼食を購入する。
なになに今日は野菜炒め定食か。
実はこの宿、格安の夕食付きで部屋も大きいという良物件なのだが、昼食を購入することもできる。
この昼食がこれまた安く日替わりであるため、俺にとっては楽しみにしている一面がある。
もちろん、通常の平日は外に出かけているためにミーシャの弁当だ。しかし、定食というのもなかなか良いものなのである。
人数分の野菜炒め定食を受け取り皆が席に着くと、合掌をする。
「「「「いただきます」」」」
この合掌も最初は俺だけしかしていなかったが、エミが真似し出してから俺達のパーティー全員がするようになった。
感謝の言葉は、大事だろ?
うちの子達良い子ばっかだから、非常に良い気分だ。
食事を開始してからすぐに、エミから先程の話を振られる。
「ご主人様。号外の件について話を戻しますけどよろしいですか?」
「もちろんだ。教えてくれ」
話を続けるよう促す。
ちなみにアリスとミーシャは定食に関してはいつでも大盛りを食べ、お代わりもする。美味しそうに野菜炒め定食を頬張ることに夢中なようだ。
「そもそもですね、六つの大陸の主要都市は様々な理由で栄えています。この中の一つにダンジョンがあるんです」
ダンジョンって異世界って感じだなぁ。
ちょっと行ってみたいという興味が湧く。
「この王都にもあるのか?」
「はい、もちろんです。しかしここのダンジョンはそこまで大きなものではなかったと思います」
あ、そうなんだ。王都にあるんだから馬鹿でかいのかと思ったわ。
というかそもそもの話、俺がダンジョンについてあんまり知らないんだよなぁ。
「ご主人様は迷い人ですから、その辺りの情報は詳しくないと思いますので最初から説明していきますね」
さすがエミ。俺の困った表情から何を求めているのか正確に判断したんだな。
よっ! 俺の嫁!
エミに感心していると、思わず見つめすぎていたのかエミが恥ずかしそうに目をそらす。
おっとガン見はよくないな。話を邪魔しても悪いし気をつけよう。
「一言にダンジョンといっても無数に存在します。ただ多くの規模の大きなダンジョンの近くに町が発展しやすいというだけなんです。町によっては発展した後にダンジョンには目を向けずに過去の遺物として忘れ去られていることなんかが多いそうですけど」
「ならケルキトラの町の近くにもあったのか?」
ケルキトラとは俺が異世界転移で飛ばされてしまった人間の大陸の南端の方に位置する小さな村である。
「確認を取らないと断言はできませんが、恐らく探せば森の中に一つや二つ、小さなダンジョンはあると思いますよ」
「そうだったのか」
「はい。えっと、そもそもの話ダンジョンは大きく分けて二種類あるんですよ。一つが空気中の魔素が勾配の関係や、洞窟などに溜まることで自然発生するものと、人の手によって作られるものですね」
へぇ、人間でもダンジョンなんてもの作れるんだ。
「もちろん人の手によって作られるダンジョンは、自然発生したものと全くの別物です。模造品と思って頂けるとイメージしやすいかもしれません。商業目的の観光地を設立しているようなものです。配置しない限り魔物が出現することはない、迷路のようなものです」
「そういうことか。観光名所の一つのようなものなのか。となると自然発生したダンジョンには魔物がいて、危険ってことか」
「はい。そうなりますね。恐らくご主人様の想像通りのダンジョンはそちらになります」
へぇ、日本でいう夢の国みたいな役割のものなんだなぁ。なら自然発生したダンジョンの方がお宝とかもありそうだな。
「ここで重要なのは魔族とエルフの大陸にはどちらも大きなダンジョンは無いんです。いえ、今回を含めると無かったというのが正確でしょうか」
「エルフが住んでいるところは神聖な森なんかが多くてそもそもダンジョンができない上に、作るなんて森を汚すことに等しいって考えてる奴らばっかだからダンジョンのダの字も無いわよ」
お代わりを待ちながらアリスが補足する。
確かにエルフって固そうなイメージあるもんな。
「魔族に関してはそもそもダンジョンに用がないんです。食料は魔物を倒さなくても農業と酪農が盛んですし、お宝なんかも重視されていません。あそこは実力主義ですから」
「つまりそんなダンジョンに接点のない二種族が手を組んで設立したっていうのがこの騒ぎの原因か」
「そうです」「そうよ」
なるほど。特にエルフなんて魔族を嫌ってそうな偏見もあるし、色々とおかしい点があるな。
「面白そうだし今度行ってみたいな。結局どっちの大陸に造られたんだ?」
「エルフの大陸らしいッス。ここに書いてあるッスよ」
誰よりも早く定食を完食したミーシャが、満足げに号外を示した。
エルフか。美人さん多いだろうなぁ。
ん? なんだか急に寒くなったような。
ひぇ、エミさんとアリスさんがゴミを見るような目でこちらを見ていらっしゃる。
バレた? バレちゃったの煩悩まみれの考えが。
兎に角、なんだか別の大陸でも面白そうなことが起こり始めたってことか。
もしかしたらクラスの奴らが関わってたり。
「「ごちそうさまでした」」
アリスとミーシャが食べ終わる。
エミと俺は話に夢中であまり箸が進んでいない。
待たせるのも悪いしちゃっちゃと食べますか。
エミも俺の考えがわかったのか首肯して食べ始める。
結局、どこの世界も一緒で大ニュースに驚きはするけど関わることなんてほぼ無いんだよなぁ。
スカイツリーができたからみたいな感覚で行ってみたいな。エルフの大陸のダンジョンなんてさぞかし綺麗なんだろうな。
芸術的なものを期待してしまう。
何はともあれ観光名所が増えるのはいいことだ。
それだけ俺の旅が楽しくなるってことだからな。
明日は王都に来て初めての休日。行きたいところは大体絞れたし、どんなものか楽しみだ。
いつも通りに、のんびりと1日を過ごした今日この頃であった。
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余りにもこの世界に馴染まない沢山の白い部屋。その部屋の一室に少女はいた。
少女はベッドに腰掛けて、見慣れた景色に浸っていた。
自身の世界の全てだったこの部屋で、再び彼を想うことができる。
長かった。
時間を忘れてもなお、長いと感じた。
だがそんなことは良いのだ。彼を迎える準備は整った。
後は時が動くのを待つだけ。
「嗚呼、はやく会いたいですわ。私の夢がもうすぐ――」
少女の秒針はようやく、動き出す。
夢を成就させるために。
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