050 これはアクムですか?
冒頭に残虐な表現があります。
最近私生活が忙しくて執筆が間に合っていないです。
明日から本気出す(本気出すとは(ry)
「やめて、やめてってば!」
心からの願いは叶わない。
大きな、身体にそぐわない程大きな黒く鋭い爪を持つ手足。
そして“それ”の本体の胸に、その娘は埋まっていた。
ただ埋まっていればまだ良かった。首から上だけは胸から突き出ている形で埋まっていたのだ。
「あぁ、お願いよ……」
それは地獄に等しい。
目の前の地獄が嫌でも目に入ってしまう。
その鋭い爪で、次々と人々の灯火を刈り取っていく。
共に笑い合った友人たち。
共に支え合ってきた知人。
そして、共に愛した両親でさえ――今娘の目の前に。
否、“それ”の目の前で命を奪われようとしていた。
「お父さん、お母さん! 早く逃げてっ!」
娘は分かっているのだ。
このままだと二人を殺してしまうこと。
自分にはどうすることもできないこと。
そして何より、もう遅すぎるということも。
「あぁ、アリス。どうしてこんなことを……」
「きっと何かの間違いだわ。悪い夢に決まっているもの」
娘の忠告も虚しく、二人は最早現実を見ていなかった。
理解できていなかった。
何故自慢の娘が、こんな醜い姿になっているのか。
何故自慢の娘が、村の人を殺しているのか。
この場所にはもう、正常な精神を持つ者はいない。
恐怖で人は逃げ惑い、立ち止まり現実を放棄する。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
呪文のように謝り続ける元凶となってしまった娘も、また異常であった。
“それ”の感情に支配され、頭では悲しいと分かっていても、殺しの愉悦に浸ってしまっていたのだから。
多くの人々を殺め、両親に手をかけようとしているこの状況で泣かずに笑顔を咲かせているのだ。
そして遂に、両親の首が空を舞った。
「あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″ぁぁぁ」
獣のような号哭を辺りに撒き散らしながら、それでも止まらない。
鏖殺と笑顔が。
そして娘は村人たち全員を、殺した――
かつて多くの人々が愛したその村に残っていたのは、むせるほど鉄臭い残り香と、破壊され尽くした家々と、大量の肉片と、娘だけだった。
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「おい! どうしたんだアリス!」
「しっかりしてください!」
「アリス、起きるッスよ!」
俺達三人は、アリスを揺さぶりながら各々声をかける。
「…………何よ、騒々しいわね」
ようやく目を覚ましたアリスが起き上がった。
目が涙に滲んでいるように見えた。
「みんなしてどうしたの? こんな夜中に」
何も知らないのか、そんな疑問をアリスがぶつけてきた。
「どうしたもこうしたもないよ。寝てたらアリスがうなされ出して、大声で叫びだしたんだぞ? 大丈夫なのか?」
俺はアリスを叩き起こした経緯を伝える。
うなされ出したと思ったら、急に辛そうに叫び出したんだからな。驚いたよ。
「全く、心臓に悪いですよ」
「どこか悪いとこあるッスか?」
「……あぁ、また……ごめんなさい。たまにすごく怖い夢を見てしまうのよね。まさか叫ぶなんて。体が悪いわけじゃないから心配しないで」
アリスは少し疲れた様子で、そう告げるとまた布団に入ってしまう。
「アタシは大丈夫だから。明日に備えて寝ましょ?」
アリスが大丈夫というなら、大丈夫なのか。
本当にたまに見る悪夢みたいなものだったのか?
「まぁ、どの道寝ることで回復するし俺達も寝るか」
少し心配だが、アリスにしてやれることもない。
できることがあれば力になるが、今はそっとしておいてやろう。
気のせいかもしれないが、触れないでくれと伝えているように感じたしな。
俺はアリスに従って再び寝るように提案すると、エミとミーシャの回答を待たずして布団に潜る。
「ちょっと待ってください!」
そこに待ったをかけたのはエミだった。
「ご主人様はアリスのことを心配されているのですよ? なのにその素っ気無い態度はなんですか! 貴方らしくもない……」
エミがこんなに声を張り上げたのは久々だ。
多分、ケルキトラの町で誰も信じられなくなった時以来じゃないか?
「ちゃんと謝ったじゃない」
「そういう問題ではありません。ご主人様もミーシャも、私自身も貴方が心配なんです! 私達を頼って、信じて何か言いたいのなら言ってくださいよ!」
「言えるわけないでしょっ‼︎」
アリスの猛反発に部屋がしんとなる。
アリスがここまで声を荒げるのは珍しい。よほど触れられたくないのだろう。
誰にだって人に言えないこともあるしな。
「まぁまぁ、落ち着けって二人とも。そりゃアリスが何か抱えてたとして、俺達を頼ってくれる分には嬉しいけど。急に解決できない物事だってある」
このままエスカレートして貰っては困るし、一旦落ち着いてもらおう。
「それに、夜中にこんな大きな声で騒ぐなんて迷惑だろ?」
その言葉に二人はハッとしたようだった。
「申し訳ありませんご主人様」
「マスター、アタシも悪かったわ。ごめんなさい」
二人の謝罪を受け取る。
まぁ、頼られた時は全力で助けになってやる。俺は主人だからな。
その時までは、待っていよう。
「エミ、ごめんなさい。久々に見た夢だったから、気が動転していたわ」
「いえ、私も強く言いすぎました。反省します」
二人も仲直りしたってことで寝ますか。
目は覚めてしまったけど、明日もある。
何はともあれ、仲間内で軋轢が生じるのは勘弁してほしい。いつでも仲良くいたいじゃないか。
三人にもう寝ようと声をかけようとすると、ヒックヒックとすすり泣く声に気がつく。
声の方向を探してみると、泣いているのはまさかのミーシャだった。
「どうしたミーシャ? なんで泣いてるんだよ」
「こ、怖かったッス。いつもの二人はすごく優しいから……。こんなに怒った二人見たことなかったッスもん……」
まぁ、そうだよな。
ミーシャより長い付き合いの俺がこれだけ驚いたんだ。ましてやミーシャにとっては衝撃が大きかったんだろうな。
「大丈夫だよ。二人とももう仲直りしたって。喧嘩くらいたまにはあるさ」
頭を撫でながらミーシャを宥めると、泣きながら抱きついてくる。
「怖かったッスぅ。もうこんなのは嫌ッスよぉ」
「わかったわかった。今日は手を繋いで寝ような。そしたら落ち着くだろ?」
「はいッスぅ!」
やはりミーシャにはショックが大き過ぎたようだ。
落ち着くまでは寝かしつけてやろう。
エミとアリスも大好きなミーシャを泣かせてしまったのがよほど嫌だったのか、物凄い勢いで謝っていた。
もしかしたら、エミとアリスはミーシャによってもっと絆を深めていくのかもしれない。
それがきっかけでアリスの悩みも吹っ飛んだりするかもしれない。
きっかけはなんであれ、いつかはアリスが気にしている問題を解決してやりたい。
もしミーシャにもあるのならミーシャも。
かつてエミが笑顔を取り戻せたように。
この仲間達だけは必ず幸せにしてやる――そんな誓いを再認識した夜であった。
気付いたらもう50話も投稿してました。
とりあえず100話目指して頑張ろうと思います。




