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004 非リアの悟り

 先程と同じように石を投げゴブリンの注意を逸らし一体目を吹っ飛ばす。というより蹴っ飛ばす。


 今回は頭でなく腹を蹴っているため気絶させるよりも時間稼ぎが目的だ。

 さっきは運良く気絶させられたが今回は安牌でっていう方針だ。


「おらああぁ!」


「ぎゃああああああああ!」


 すぐ残った片方のゴブリンの武器を持った腕を切り落とす。同時にゴブリンの悲鳴が上がる。そのまま首を切り落とそうとすると横からの衝撃に阻まれた。


 フリーになっていたゴブリンの攻撃だ。


「がぁっ!? っいってえええ」


 もう片方の攻撃は横腹に当たったが鎧のおかげでダメージは酷くない。


 ここで二体にしておかないと後がきついだろう。


 未だ吹っ飛んで辛そうにしているゴブリンに向かって走り先に仕留める。


「これで何とかなりそうだ。よし、来いよお前ら!」


 片方は腕を切り落としているため戦える状態ではない。そのため怪我のない元気な方が俺に向かって突っ込んで来る。


 奴らの知能が低くて幸いした。攻撃にフェイントなどはなく、ただ真っ直ぐに突っ込んでくる。


「っく!」


 俺は攻撃を落ち着いて避け、首を刎ねた。残り一体は、かなりの出血でぐったりしている。どうやら予想より深手を負ったらしく動く気配はない。


 何とかなった。さっきは何ともないと思っていたが案外こたえていたのか冷や汗が止まらない。


 これからは慣れていかなければならない。


 いずれ人を殺すことになるかもしれない手前戸惑っていては逆に殺される。


 死を悟ったのか、それとも深手を負ったことで意識が朦朧としているだけなのか。近ずいても反抗する素振りを全く見せない最後のゴブリン。


 こちらとしては都合が良いのでそのまま剣を振り上げた。


 俺は最初に吹っ飛ばしたそのゴブリンを見下ろして命を奪うと同時に無意識に呟いていた。


「悪いな」



 ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎



 ギルドに報告し終わって部屋に戻ってきた。報酬は死体の買取価格を含め二万円強だった。


 単純計算でゴブリン一体の駆除につき四千円の価値がある、という事らしい。


 死体から回収できる素材などはギルドが解体して、後日値段の交渉に入ると言われた。ただ値段に関してはゴブリンのような低級のモンスターだと殆ど一律な値段になるらしい。


【自動換金 ON】の効果で手持ちは五万近くにまで及ぶ。ゴブリン狩りだけでこの儲けようだ。


 個人的にはお得な気がするが、一人だと命を落とす危険が高い。そう考えると妥当な値段かも知れないと思えてきた。


「今日は疲れたな」

 

 どさっとベットに投げた体はひどく重く感じる。俺はエリンさんが夕食で起こしてくれるまで防具を装備したまま寝ていた。


 起こされた際にベッドのシーツにゴブリンの返り血が付着してしまったかもと焦って確認したが、乾燥してパリパリになっていたお陰で大丈夫だったようだ。


 俺は次の日から毎日ゴブリン狩りをした。一日に二つのゴブリン討伐依頼を受け続けた。


 ただし、【全てを見通す目】で確認したレベル10以下のゴブリンのみという条件を加えて。


 何度も考え直したが、やはりまずはお金とレベル上げだ。地道でもこれが最善だと思う。


 ゴブリン達との生活も二週間に差し掛かる程でようやくまともに戦えるようになった。理由は簡単、スキルを会得したのだ。


 それは恐らく俺の固有スキル【年功序列】の発動条件のひとつである『パーティー内の合計レベル』が上がったためだ。


 レベルが10、20になった時にステータス画面に【剣術】【体術】が増えていた。


 スキル【剣術】は剣の腕を高めることによってある程度剣を扱いやすくなるスキルらしい。スキルのレベルが上がる度に剣が軽く感じ、より鋭く捌けるようになった……気がする。


 とはいえ剣道を齧ったことすらない俺はひたすらゴブリン相手に剣を振り回していただけ。それだけで 【剣術】なる大層なスキルを手に入れ、レベルも上げられた。


 これは逆に考えるともっと上手くスキルを会得、向上できる方法があるのではないか?


 きっと異世界に飛ばされた剣道部に所属していた奴らはとっくの昔に【剣術】、柔道部に所属していた奴らは【体術】を会得し、使いこなしている筈だ。


 金に関しても【自動換金 ON】のおかげでゴブリンを倒しただけ小遣いも入ってくる。


 昼はほとんどが外で食べているがそれでもこれから金銭に関して困ることはないだろう。


 いや、寧ろ貯まるのが早すぎて怪しまれるんじゃないかと心配になる程だ。


 この点は財布ではなくアイテムポーチ(こちらの世界ではアイテムボックスというらしいが)に金銭は収納され俺の異常な貯金システムに気づくのは不可能だろう。


 ただ、懸念されるのはこの【自動換金 ON】で得た金は元々存在しない筈の金であるということだ。

 それを利用して大金を得れば市場に影響が出るかもしれない。


 まぁ、俺一人が使うだけなら大したことにはならないはずだ。恐らく。


「他の奴らも使ってたらいつか使えなくなるだろうなぁ」


 あんまり無茶な使い方して廃止とかにさせないでくれよ。めっちゃ便利だから。



<名前> タケト=マツモト

<種族> 人族

<年齢> 17

< LV >23

<HP>530/530

<MP>530/530

<攻撃力>530(+200)

<防御力>530(+300)

<素早さ>530

<命中率>530

<会心率>530

<魔攻力>530

<精神力>3060

 装備:下着一式、防具一式(☆)、短剣(☆)、アイテムポーチ

 所有金額:26056エン

 スキル:【全てを見通す目】【剣術Lv.12】【体術Lv.5】

 固有スキル:【年功序列】

 簡易設定:【自動換金 ON】



 そして、異世界で過ごすこと約一ヶ月。忘れ去られていた『あれ』を手に入れる。



 ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎



「おらああぁぁ! 三十体目ぇ!」


「ぎゃっぁ!?」


 俺はいつもの『雑魚ゴブリンをヒットアンドアウェイでレベル上げ大作戦』でレベル上げをしていると久々に機械音が脳内に響いた。


 《新たなスキルを獲得しました》


「お? ってことはもうレベル30か。なかなか高くなったなぁ」


 レベルが10上がるごとにスキルが貰えるのはレベル20の時に予想ていたために、そこまで驚きは無かったがステータスを確認して目を見開いた。



<名前> タケト=マツモト

<種族> 人族

<年齢> 17

< LV >30

<HP>630/630

<MP>630/630

<攻撃力>630(+200)

<防御力>630(+300)

<素早さ>630

<命中率>630

<会心率>630

<魔攻力>630

<精神力>3180

 装備:下着一式、防具一式(☆)、短剣(☆)、アイテムポーチ

 所有金額:285632エン

 スキル:【全てを見通す目】【剣術Lv.19】【体術Lv.15】【初級回復魔法Lv.1】

 固有スキル:【年功序列】

 簡易設定:【自動換金 ON】


 

「か、回復魔法だって!?」


 最近では一日に倒せるゴブリンの数も増えてきて順風満帆な……波乱万丈な日々を送っていた。


 そのために失念していた。此処は俺や彼女の夢見たファンタジー世界だということを。


 魔法の存在なんて頭の隅っこに隠れていた。


「はは、なんてこった。俺はずっとファンタジーにオール物理で挑んでたのかよ」


 その晩、俺は枕を濡らした。異世界に来て一ヶ月パーティも組まず、色恋ごともせず、ひたすらゴブリンをソロで狩ることだけの生活をしてきた自分を責めた。


 初めは冒険者という職業に胸をふくらませ、かっこよさを求めていたんだ。それが今ではゴブリンを狩るという作業だけの日々に満足していた自分が恥ずかしかった。


「なんて悲しい生活をしてたんだ」


 魔法というヲタクの夢を手にして初めてわかったのだ。この生活で満足していてはいけない。


「俺はこのままでいいのか?」


 地球にいた頃では有り得ない可能性を手に入れた今、何をすべきか。何をしたいのか。


 思えば此処最近の生活は狩っては寝ての繰り返し。高校生活と何ら変わりないように思える。


「異世界でも学生並、いや社畜以下じゃねーか」


 学校で授業を受け、家に帰ってアニメを見て、飯を食い、風呂に入り、寝る。繰り返される日常を当たり前だと思っていた。そして今も。


 なら、今からでも遅くないのではないか。

 異世界(ここ)でしか味わえない刺激を、感動を、ロマンを……やり尽くしたい。


 よく考えればこの世界にはかつての俺がのどから手が出るほど憧れていた、獣耳っ娘にエルフ、女王様なんてのもわんさか居る筈だ。


 それに……。


 この時眠っていたヲタク魂が再び燃え上がった。

 見れないために考えても辛くなるだけだと思い出さないようにしていた、大好きだった魔法少女系統のアニメ。


 あの麗しく尊い姿でステッキを振るい悪と戦う魔法少女達がこの世界には存在するかもしれない。


 なぜならこの世界は二次元や想像の生き物ですら平然と存在するような世界だ。可能性はゼロではない。


 いつも画面越しでしか見ることの出来ない彼女達に三次元(リアル)で会えるかもしれない。


 そう思うと心が熱くなる。

 会いたい。会ってみたい。


 作業ゲーにも等しいゴブリン狩りに夢中になっていた繰り返しの日々に、今、終止符を打とう。


 アニメが見れないならそれに相当する程のファンタジーストーリーを自らが楽しめば良いだけだ。


 充実した日々を送りたい。そして俺はリア充(リアルに充実した日々)を満喫してやる!


「どうせならリア充(リアルに充実した日々)に俺はなるッ!!」


 その呟きは暗い部屋に飲み込まれ静かに消えた。


 その時一人で盛り上がってた事に気づいて急に恥ずかしくなったりはしていない。絶対にだ。


 ーーーーーーーーーーーー

 一、魔法少女に会う

 二、ファンタジー世界を満喫する

 三、安全第一

 四、リア充になりたい(願望)

 ーーーーーーーーーーーー


 ちなみにこれは俺が掲げる目標だ。いつ決めたかって? もちろん今だ。


 思い立ったが吉日ってね。


 とはいえ現実問題、これらをクリアするにはある程度の敵に抗える力が必要だ。圧倒的な力となると難しいけれども。


「今手に入れなければいけないのは、力に変わるものか」


 そこで重要になってくるのが異世界特有のスキルの存在だ。


 スキルについてある程度わかっているのは、そのスキルを使用し成功すればするほど経験値を得る。

 よって成功した試行回数によってレベルは上がるということだ。


 実際、剣術を得てから剣でゴブリンを殺せばその分【剣術】スキルは伸び、ゴブリンから逃げたり体を鍛えるほど【体術】スキルも伸びた。


 地球と違うのはスキルのレベルが上がるほど効果があるということだ。つまり、超人的な動きができるようになるということ。


 地球ではどんなに身体を鍛えようと一般人には限度がある。特に身体能力には運動神経が大きく関わってくる。


 しかし、この世界はそうではない。


 むしろスキルが全ての根幹を成していると言っても過言ではない。


 根拠は俺、松本武人が剣を扱える様になったことにある。剣道部に所属でもしてない限りまともに剣を振るうなど不可能に近い。


 だが、【剣術】スキルを得てからというもの剣の太刀筋が変わった。


【剣術】スキルを得る前はバットを振り回すようだったのが、得た瞬間から構え、振り方が変わったのだ。


 まるで最初からこうするのを体が知っているように。


 ここで確かなのは地球では鈍臭く、無能だった俺でも頑張ればそこそこできるようになることが保証されているということ。


 この事実はもとぼっちの能無しには物凄いモチベーションとなる。


 ん? 今もぼっちだろって? 何も聞こえないぞ。


 初めて魔法スキルを手に入れたこの日は、俺のターニングポイントだな。色々とやらなきゃならない事が見えてきた。


「これから忙しくなりそうだな」


 しかし今日も今日とてゴブリン狩りで疲れた。

 つまり最初にしなければならないことは――


「寝るか」


 今晩はすっかり馴染んだこのベッドでいつもより深い睡眠がとれそうだ。

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