045 未来ずらー!
「皆さん、着きましたよ」
エミに声を掛けられ、外を確認すると――まさに王都だった。
「すげぇえええ!」
興奮のあまり声を漏らしてしまう。
ファ・ザーマク。ここ、王都である国名だ。
この世界で最も大きな城を中心に築き、高度な建築技術で栄えている。
そもそもこの異世界――名前をウィンクルム、という――は六つの大陸でできている。その大陸それぞれには種族別の大陸と名が付けられている。今俺たちがいるのが『人間の大陸』と言うように。
それぞれの大陸には王都が存在するのだが、ここファ・ザーマクの様に大陸の中心に位置しているのは大変珍しい。
何故なら普通は、大陸間の貿易で栄えるといえば海に近くなるからだ。
ではファ・ザーマクはどうして大陸の中心にも関わらず、こんなにも栄えているのか。
答えは高い建築技術にある。
人間以外の種族にもこの街並みを観光名所として認識されており、そのおかげで商売繁盛ガッハッハというわけである。
それに街に大きな川が通っているため、国全体に水も行き渡っているらしい。
なんなら上下水道も通っているとか。
「非常に美しい景色ですね」
「そうだな。ここまでとは思ってなかったよ」
城の存在する中心部に向けて標高が高くなっているため、ここからの距離でもはっきりと分かる。
とにかく巨大な城。
その周りには屋根は青、壁は白で統一された建物。
そしてその街並みの外側には大きな城壁が築かれている。
そう、ここファ・ザーマクは城郭都市である。
ファンタジーって感じだろ?
――それだけ聞くととんでもない完璧都市なのだが、もちろん貧富の差も大きい。
城壁で見えないが、そのすぐ内側にはスラム街がいくつも存在している。観光客に見せない様に中心部までの道は舗装して誤魔化しているらしいけど。
要するに、行こうと思ってわざわざ行かない限りは目にかからない場所にあるということだ。
まぁ、全てミーシャの情報なんだけどな。
その辺はどこの国も同じだと思うし、今はこの美しい街並みを眺めることにしようか。
「ではまず、街への入国審査を受けに行きます。城壁まで五分もかかりませんからもう少し待ってくださいね」
「久しぶりでワクワクするッス!」
アリスも黙っているがそわそわしている。みんな楽しみなんだな。俺もだ!
まずは城壁へ向かって、そこから王都探索である。
◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎
「まずは馬車を預けられる所と、宿を探そうと思うけどいいか?」
「ええ、でも馬車を預けるなんてできるのかしら?」
「ならギルドが良いッスね! 王都のギルド組合は馬車の預かりをやってるッス。ちょっち値段は張るッスけど、安全性は一番ッス」
「そうですね。馬車を盗まれたりしたら、大損ですから」
ということで、そのままギルドを目指すことに。もちろん馬車で。
いやぁ、馬車って便利だなぁ。こっちには車もないし、移動は基本馬車になるのかな。エミ、頑張れ! なんでもしてやるから。
「ん? ご主人様、何か言いましたか?」
「え?! なんでもないよ。なんでも……」
なんで『ん?』って言うの?! エミのキャラ的に聞き返すときは『はい?』でしょ!
怖い。この子怖いよ。ネタ知ってんのか。
「着きましたよ」
「ありがとう。皆降りるぞ!」
馬車から降りてギルドを見上げると、これまた大層なギルドだった。
でけぇ。
それが第一印象である。
「やっぱり、王都は何もかもが大きいわね」
「王都って感じッス!」
なんでそんなに順応してんだよ。
え、俺だけ?
こんなでかい建物なかなか見ないぞ。
あれか。ド田舎住まいの奴が初めて東京に行ってビル見てはしゃいでるあれか!
「ご主人様、行きますよ」
わかったよ! 置いてかないで。
ギルドは中も綺麗だった。ケルキトラの町のギルドは中が居酒屋みたいにわいわいしてたし、ちょっとボロかった。
しかしここはどうだ。
俺ホテルかと思っちゃったわ!
酒飲んでるやつがいねぇ! 騒いでるやつもいねぇ!
もう何から何までレベルが違うのだ。
オラこんなギルド嫌だぁ。ケルキトラへ帰るだぁ。
「あ、でも受付嬢がめっちゃ可愛いやん。痛っ⁈」
アリスが横腹をつねってきた。
はいはい、後でヨシヨシしたげるね。
「ようこそ、ギルドへ。どうかされましたか?」
受付へ向かうと早速対応された。
「馬車を預かって欲しいんですけど」
「かしこまりました。すぐに手配いたします。ギルドの近くに停められていますか?」
「はい」
「ではギルドの前でお待ち下さい。担当の者が向かいますので、馬車までの案内をお願いします」
「はい」
あっという間に馬車を預けられることに。書類も担当者が持ってくるという。
なんともできたギルドだ。
これが都会か。
トントン拍子に馬車の手続きが進み、預けるまでに30分もかからなかった。
思ったよりも早く終わってしまったので、だいぶ時間に余裕ができた。
「先に宿を確保しようか」
「はい! はーい! ミーシャはいいとこを知ってるッスよ!」
「なら案内してくれ。場所は覚えているか?」
「もちろんッス。一度来た場所はなかなか忘れないのが自慢ッスから。こっちッス」
元気に案内してくれるミーシャに一同ついていくことに。なんか張り切ってるなぁ。
「それにしてもミーシャは元気ね。その宿ってどんなとこなの?」
アリスが質問する。
「安くて、食事に魚料理が多い所ッス! 『銀魚』っていう宿ッス」
「そういうことでしたか。ご主人様、よろしいのですか?」
あぁ、なるほどねって表情のエミとアリス。
「まぁ、いいんじゃないか? 猫は魚が好きだから仕方ないな」
ネコミミっ娘はそのまんま魚が好きなそうです。
その流れで今度マタタビ試してみるか。
「マスターってミーシャに甘いの?」
「そんなことはないぞ、アリス。俺は安いって聞いて行ってもいいと判断したまでだ」
安い宿なら貯金も捗る。貯金が溜まれば可愛い奴隷が買える。こんな世界だし、男だし。別にいいよね?
「ご主人様の考えてることがわかりました。でも、王都まで一番頑張ったのは私です。何かご褒美があってもいいんじゃないですか?」
「もちろん。何して欲しいか決めておいてくれよ。欲しいものがあれば考えておいて」
「ありがとうございます!」
最初は遠慮ばかりだったエミがご褒美のおねだりなんて。随分悪い癖は改善されつつあるようだ。
「エミ、良かったわね」
「羨ましいッス」
二人もご褒美に反応する。
「まぁ、エミは『最近ご主人様からの寵愛が少なくて……飽きられてしまったのでしょうか?』みたいなことばっか言ってたからちょうど良かったんじゃない?」
「っな! アリス! それは言わない約束でしょう!」
「別にいいじゃない。今更よ。い、ま、さ、ら」
「むぅ」
エミが久し振りにご立腹である。
「貯金で忙しかったんだから許してくれよ。今日からは何回戦でも付き合ってやるからさ」
二重の意味でなぁ。ぐふふ。
「本当ですか? 約束ですよ」
「ほら、ね?」
問題解決、と言わんばかりのドヤ顔をかますアリス。
「それとこれとは話が別です」
エミのチョップがアリスを襲う。
ちょっと痛そう。
「あ! アタシの天才頭脳によくも! お返しよ!」
アリスのくすぐり攻撃!
エミに大ダメージ。
エミはくすぐりにめっぽう弱いからな。
効果は抜群だ、と言ったところか。
そんな風に駄弁っていると宿である『銀魚』に着いた。
「うわぁ。久々久し振りッス!」
ミーシャが飛び跳ねんばかりの勢いではしゃぎ出す。尻尾もブンブン振り回して。
あれ? 犬の獣人じゃ無いよな。ちゃんと猫だよな?
「宿っていうより旅館だな」
「そうですね。落ち着いた雰囲気ですし、部屋さえ空いていればここに決めてしまっていいんじゃ無いですか?」
「そうだな。まずは入ってみるか」
スライド式のドアを開けて中に入る。
扉の開く音を聞きつけてか、奥から宿主と思われる女性が駆け足で向かってきた。
「ご宿泊でしょうか?」
「はい。三人部屋でお願いしたいんですが」
「大丈夫ですよ。どれくらい滞在される予定ですか?」
え、そうだなぁ。とりあえず来たって感じだから滞在期間とか決めてなかったな。
観光もしたいし、お金も稼がないとだし。一体どれくらい滞在するのか俺が俺に聞きたい。
なんとなくで行動するとこういうことになるのな。
迷っている俺にアリスが挙手してくる。
「とりあえず、一週間過ごしてみたらどうかしら。先のことは先に考えてもいいんじゃない?」
「それもそうだな。一週間でお願いします」
「はいかしこまりました。こちらが部屋の鍵でございます。無くさないようにご注意下さい」
そして二階の部屋へと案内される。
「三人部屋なのに十分広いッス! あるじ! お風呂も大っきいッス!」
「ほんとね」
確かに五人部屋くらいありそうな広さだ。
後でぼったくられたりしないよな。
「三人部屋が無いので、三人以上の方達にはこちらの部屋を使っていただいているんですよ。料金は変わりませんのでご安心下さい」
めっちゃ神対応じゃん!
もう王都にいる間はここでいいや!
「食事の時間になりましたら、お知らせします。何かご不明な点がございましたら何なりとお聞きください。私達は一階にありますので」
そうして宿主は去って行った。
王都に来て、宿は確保した。
ここにくるまで結構大変だったし、皆も疲れてるだろう。
一旦休憩かな。
「晩御飯まで自由にしてていいぞ。今日は疲れたしな。明日から色々していこうか」
「ご主人様、了解しました」
「マスター、わかったわ」
「あるじ、らじゃーッス!」
これからこの三人と王都で生活していく。
どんなことが待ち受けているのか楽しみである。
そして王都のあれこれを堪能し尽くしてやろう。




