040 森の中心で恥を叫ぶ
予約投稿の日程を間違えてました。
毎日投稿を楽しみにしている方がもしもいるなら、謝らせて下さい。申し訳ありませんでした。
オークに不意打ちの閃光を喰らわし、怯んだ隙に間合いを詰める。俺は正面、アリスは背後に回り込む。
「エミ、頼む!」
「任せて下さい。【煉獄】」
後衛を任せたエミが後方の離れた位置から、得意な火力な大きな魔法を放つ。
渦巻く大きな炎の球体が、オークの左肩に衝突する。
骨の髄まで響く轟音に混ざって、オークの唸り声が聞こえた。
肌に吹き付けてくる熱風を無視して、オークへ斬りかかるために【縮地】を使って一気に距離を詰める。
「アリスも攻撃を頼む!」
「わかったわ!」
大きく飛び跳ねて、まだ軽傷で済んでいるであろう左肩に全体重を乗せて突き刺す。
オークの後ろから沢山の細かい氷柱を放つアリスがオークの肩の上から見えた。
このまま体力を削りたい。
俺は剣とオークの腰の窪みにしがみつく様にして、魔力を込める。属性は、雷。
「ゴォォォオオオオオオ‼︎」
HPをスキルで確認する。残りは、三分の二ってところか。
これならエミの火力で押し潰せるか。
「よし、アリスは目眩しを! 一旦離れる!」
「了解よ!」
再びの閃光。この間に剣を抜いて距離をとりたい――が、肩から剣が抜けない。
思ったより深く刺さってしまったのか。
「クソ!」
視界が戻って目にしたのは、左半分が焼き爛れたオークの姿。ギョロリと目玉をこちらに向け、ニタリと笑う。
一瞬の隙に腕を掴まれる。
『喰われたいのか?』
そんな幻聴が脳に響いた。
『なら壊されたいんだな?』
違う。そんなわけないだろ。
俺は掴まれた腕に持っていた鞘に魔力を込め、顔に向けて炎魔法を放つ。
しかし、威力は想像の半分にも満たないものだった。
「っな⁈」
MP切れか? そんな馬鹿な。有り余るほど十分に残っているはずだ。
『なら壊してやろう』
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛クソがぁあああ」
鈍い音と共に俺の腕はあり得ない方向に曲がっている。
そのまま地面へと投げつけられた。
土が口に入る。
どうして体が動かない?
どうして魔法が放たない?
どうしてこうなった?
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――
うつ伏せの状態で視線をずらし見えたのは、頭に向かって降りてくる巨大な足。
「【上位煉獄】させるわけ無いでしょう!」
「コイツは絶対に許さないわ。マスターをお願い! コイツはアタシが!」
今日何度目かの轟音と共にエミの顔が見える。
「ご主人様、しっかりしてください!」
あぁ、俺抱えられているのか。
オークから十分に距離をとった位置まで運んだところでゆっくりと降ろされる。
「今、アリスが足止めしています。回復魔法はご主人様の【超回復】が一番効きますので、ご自身にかけて下さい!」
「……っ、わかっ……た」
全身が燃えるような痛みを噛み締めて、なんとか了解の意を示す。
「骨の位置を戻しますので、そのタイミングでお願いしますね。我慢して下さいね。一、ニ、三!」
また不快感のある鈍い音と共に猛烈な痛みが押し寄せる。
だがここで踏ん張らないと、もっと痛いのは目に見えてわかる。
痛みの原因、俺の腕に意識を集中させて唱える。
「ハ、ハイ……ヒール」
スッと痛みが消えていく。しかし、まだ完治はしていない。俺はもう二回【超回復】を腕にかけて、立ち上がる。
「すまなかった、もう大丈夫だ。アリスの援護に回ろう」
大きな失敗をしてしまった。まだ心臓の音が煩いが、失敗は取り返さなくては。
「無理しないでください」
エミは泣きそうな顔で訴えてくる。
「大丈夫、もう腕は治ってるさ」
明るく振る舞うと、もっと顔をくしゃくしゃにして優しく言葉をかけてきた。
「ご主人様、体はまだついていけてないんですよ。ここは私達に任せて、少し休んでいて下さい」
そう言って、エミはオークの方へかけていった。
「俺はそんなに役立たずってことか?」
悲壮感が俺を襲う。
少し遠くに二人が見える。エミとアリスは適度に距離を保ちながらオークに着々とダメージを負わせていく。
「そりゃ、一般人なんだからできないことのが多いかもしれないけどさ」
俺は誰に対して喋っているんだ。
「少しずつでも三人で――」
――超えて行きたかった。
恐怖も、困難も、悲しみも。
「っく⁈」
突然、足の力が抜けて頽れる。
訳もわからず木に縋り体を確認すると――
膝が笑っていた。
手が震えていた。
こんな状態で戦うだって?
それは只の足手まといでしかない。
さっきのエミは俺の安全を考慮して、休ませてくれたんだろう。
『休んでいて下さい』
俺のことを第一に考えてしまうエミはその言葉を放つ時、どんな気持ちだったのだろうか。
そういえば、エミが俺の意見と違うことを言うなんて初めてじゃないか?
なら、今は、今だけは甘えよう。
カッコ悪いのも、ダサいのも分かってる。
失敗して二人に心配をかけたことも。
なら、次だ。
俺は二人の奴隷に相応しい主人になろう。
二人が安心していられるように。
二人がいつでも頼れるように。
二人が誇りに思えるように。
何故、こんな失敗をしたのか。
何が足りないのか。
何が余分なのか。
自分で自分を分析して、二度と繰り返さないように綿密に計画する。
ドシン!!
大きな音を立ててオークが倒れる。
アリスが氷柱で足を抑え、エミが魔法を連打する。
今の二人の中で恐らく最善の策。
自慢の仲間だ。
「ご主人様!」「マスター……」
駆け寄ってくる二人に、今は言わなければならないことを伝える。
「迷惑かけたな、二人ともありがとう」
「気にしてないわよ。アタシ達もフォローに回るのが遅れちゃったし、敵の正確な強さも把握してなかったもの」
「その通りです。それにアリスが確認したところ、オークではなくハイオークだったそうですし、ご無事でなによりです」
課題の一つ目が見つかったな。鑑定を怠っていた。
一度HPを確認する際に使用したが、名前までは確認していなかった。
「そうだったのか。次から気をつけないとな」
それにまだ疑問が残っている。
「俺が腕を掴まれた時、魔法が正常に機能しなかったんだけど。あれは一体何だったんだ?」
「そうですね。それに迷い人であるご主人様が、初めて見る魔物に影響を受けることも考えておいた方が良かったかもしれません」
「マスターって迷い人なのね。言わないだけでそうだろうと思ってたけど」
アリスには教えてなかったな。こう言うことはしっかり伝えていかないと。
「待ってくれ。迷い人と魔法の不発に何か関係があるのか?」
「ええ、文章でに少しですが読んだ記憶があります。迷い人や転生者が、前触れなく魔法が放てなくなる現象があると」
それについては原因がわからないのであれば対策しようがないな。
「そんなこと、理由ははっきりしてるでしょ」
アリスがふふんと鼻を鳴らした。
「魔法はイメージ、想像と強く結びついているわ。元からこの世界に住むアタシ達は魔物の存在にある程度慣れているの。だから異質な魔物に遭遇しても、頭の何処かにこれくらいのレベルの存在はいるんだって思ってしまっていて、そこまで影響を受けないの」
なんとなく理解できる。
「だけど迷い人と転生者は、少し魔物を見ただけで慣れた気になるけど実際は慣れていないの。実力があって勝てる相手にも、体が今までの経験から勝てないって判断して警鐘を鳴らしてしまうわ。そこでイメージが崩れて……」
「思うように魔法が放てない時があるってことか」
なるほどな。
俺がニュースで人工衛星が木星に着陸できたなんて聞いても、凄いとは思っても何処かでやっぱりかなんて思いそうだ。
だけど月に着陸したことがない時代の人たちの、月面着陸の知らせはきっと信じられないものだったろう。
「だけど、もしそうだとしたら、俺はハイオーク以上の魔物に遭遇したら必ず負けるってことじゃないか?」
「確かにそうなりますよね。慣れると言っても一度染み付いた常識を塗り替えるのは長い年月がかかりそうです」
「その辺は一度体験すればよほど格上の相手に対してじゃないと起こらなくなると思うの。正確な情報はないけどね。それに……」
「「それに?」」
「対策はあるわ」
まさか。格上の化け物に慣れるなんて、対策方法があるのか?
「そんなのあるわけないって顔をしてるわよ、マスター」
「いや、そんなんあったら」
「マスターの持ってるものでできるわよ」
俺の持っているもの?
そんな対策ができるものなんて……ない気がするけど。
ここでエミが口を開いた。
「もしかして、所有しているという点で宮殿のことを言っているのですか?」
「その通りよ!」
ビシッとエミに指差すアリス。
「宮殿で強大な魔物の容姿、威圧感を完璧に再現して実践的な慣れと先頭の訓練をしましょうか。そうすれば、この世界に恐れるものなんてなくなるわ」
「それに時間もかからないという利点もありますね。私はやりますよ。もうこんな心臓に悪いことはごめんです!」
それってつまり、また地獄が始まるってことだよな。
でもエミにそう言われては、俺がやらないわけにわいかない。
さっき決意したばかりだしな。
エミとアリスの主人として相応しくなるって。
「もちろん、宮殿内ならピデアルに出てきてもらうこともできるわよ」
「本当ですか⁈」
嬉しそうなエミ。俺も久し振りに会いたい。
「なら、さっさと死体回収してギルドに報告に行くわよ」
「なんでアリスが仕切っているんですか。ご主人様!」
二人が俺を見つめてくる。
あぁ、俺も頑張って頑張って頑張って、強くなるから。
「よし、まずはギルドに報告しに行くか!」
「はい!」「ええ!」
二人の元気の良い返事を合図に、俺達は準備をするのだった。
次回からしばらく水曜日、日曜日には確実に投稿していこうと思います。
それ以外の曜日にも投稿することがありますが、先述した曜日は変わらず投稿する予定です。
次回の投稿は4月14日の日曜日です。
よろしくお願いします。




