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003 とある異界の冒険始動

 朝目が覚めると地面に寝ていた。起き上がると首が痛い。

 ここは一体どこだ? 貯め撮りしていたアニメを見なくては……。


 すると横から声が掛かる。


「よぉ、お目覚めかい」


「はぁぁぁぁ……」


 声の発生源である兵士を見て思わず溜息をついた。

 そうだった、昨日【異世界】であるこの地に地球から飛ばされて来たことをすっかり忘れていた。


 俺の溜息に気を悪くしたのか兵士が睨んでくる。


「な、なんでもないですよ。ただ目覚めたすぐ横にガチムチのおっさんとなるとテンションも下がるってもんですよ」


「っな! ひでぇなおい! お前がここで寝るって言い出したくせによ」


 あ、本音が漏れてしまった。


「昨日の俺と今の俺を殴りたい……」


「俺が殴ってやってもいいぜ?」


「遠慮しときます。ところでーー」


 ここで兵士にこの世界の常識を話してもらった。記憶喪失という名目上、疑われてはいないと思う。情報収集大事。


 まずは金銭面。

 おおよそ銅貨=一円、大銅貨=十円、銀貨=百円、大銀貨=千円、金貨=一万円、大金貨=十万円、白金貨=百万円、大白金貨=一千万円の価値になる。


 ただこれはあくまで目安だ。こちらの世界に円という単位はないらしい。ものの相場を聞いて大体こうなっていると予測がつく。

 つまりはステータスの円単位は俺たち異世界人にわかりやすいように換算してくれているっぽい。

 

 次にステータスについて。

 どうやら普通の農民の平均は約200、兵士自身は約900、冒険者のAランクが4500、伝説の勇者ともなると1000000以上になるらしい。とはいえ、何かしらの特価型になることが多いためそれよりも大きい数値になることも少なくないということ。


 ここで重要な点二つに気づいてしまった。


 まず、ステータスの数値で人間の能力を図るのがこの世界では当たり前だということ。まるでゲームだ。


 次に俺は農民よりも能力が低いという事実。これはなんというか……うん、もういいや。


 最後に周辺地理。

 ここはケルキトラという街でこの辺りでは大きい方らしい。

 他にもいくつか街を聞いたが覚えるのは厳しかったので近いうちに地図を買うことにしよう。


「ではありがとうございました」


「おう! 俺達はもうすぐ他の奴らと交代するけどなんかようあったらまた来いよ」


「交代する方にここに来て寝る奴がいるかもしれないことをお伝え頂くことは?」


「……はぁ、わかったよ。話しとく。」


 やはり優しい人だ。

 今度あった時にはきちんとお礼をしよう。


「宿を借りれるだけのお金を稼げれば来ませんよ」


「ま、今日はベッドで寝れるように頑張れよ」


 礼を言ってから、まずはギルドに向かう。

 金が無くては何も出来ない。

 今から当面の目標は『衣食住を充実させる』事にしよう。他のことは後回しだ。


 ギルドに着くと受付嬢におすすめの依頼を聞く。


「そうですね。Fランクでしたらまずは薬草採集など容易なものをこなして行くのが一般的ですね」


「そうですか、そういったのを見繕って貰えませんか?」


「それでしたら掲示板に張り出されている依頼書をこちらに持ってくるようになっております」


 早速見に行くと成程依頼内容はだいぶ楽そうな物がある。

 ここまでくればわかるのだが、どうやら異世界の言葉や文字の理解に苦しむことはないらしい。


 最初は定番の薬草採集の依頼を受けることにした。

 


 ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎



 町外れの森で薬草探すこと一時間、手持ちのアイテムポーチには薬草✕99のストックが4つ出来ていた。

 

 下を見ながら歩いていればスキル【全てを見通す目】により薬草が視界に入った瞬間に分かるため、笑ってしまう程に楽だった。

 どうやらこの辺りは取り尽くしてしまったらしい。

 依頼達成には薬草✕40が必要だったが気付けば超えていた。

 ギルドに報告しに帰ると受付嬢が勢い良く頭を下げてきた。


「すみません説明を忘れていました」


「はい? どういう事でしょうか?」


 おいおい、依頼は既に達成されていましたなんてやめてくれよ。


「初めて薬草採集される方には薬草の見分け方をこちらが説明するようになっております。最近新しく冒険者になられる方がいなくてすっかり忘れていました」


 どうやら新人には薬草の講習を施す決まりがあるらしい。


「それは別にいいんですけど、依頼は達成しましたよ?」


「薬草がどれか分かったのですか!?」


 この話の流れだと【全てを見通す目】の様な鑑定スキル持ちは珍しいのだろう。面倒だし適当に誤魔化す。


「なんとなく勘でわかりました」


 ちょっと適当過ぎたか。


「凄いですね。普通初見では見分けが付かないはずですが……。では確認させて下さい」


「思ったより多く取りすぎたので他の薬草採集の依頼も同時に受けれますか?」


「一体どのくらい取られたのでしょうか」


「大体五百弱ですかね」


 受付嬢は口を開けて唖然としたまましばらく固まっていた。面白いものが見れたな。


 受付嬢曰く、一般的に素人が薬草✕40集めるのには朝から夕方までかかるということ。ちなみに俺は朝出発して現在昼前だ。


「本当は学者か錬金術師だったりします?」


「いえ、田舎から出てきた冒険者見習いです!」


 シラを切り通すことにした。

 結局他の薬草採集の依頼を十個程受けることができ、採取系の依頼は掲示板から綺麗に消えることとなった。

 報酬も四千円程のつもりが約5万円にも達し、受付嬢におすすめで格安の宿を教えてもらいテンションMAXでギルドを後にした。


「アイテムボックス持ちなんですね!」


 薬草をアイテムポーチから取り出した際、また驚かれた。もう、田舎者で隠し通すのは無理なんじゃないか?


 紹介して貰った宿は『星の館』。一泊に三千円で朝食と夕食まで付いてくる。ギルドから歩いて数分の立地よしサービスよしときている。ここをしばらくの拠点にすることにしよう。


「すみません、部屋空いてます?」


「いらっしゃい! 何泊されますか?」

 

 奥から美人な黒髪ロングヘアーの女性が尋ねてくる。スタイルはわかりやすく表現するならボンキュッボンって感じだ。

 異世界だからかこの街だからか、美しい女性が多い気がする。


「とりあえず七泊で。延長は後からでも?」


「はい。七日目までに言ってもらえれば大丈夫ですよ。部屋は二階の奥にあります」


「わかりました」


 彼女は頭を下げるとこちらを向いて微笑んだ。


「私はエリン・フルート。気軽にエリンとお呼びください。分からないことがあれば聞いてください」


「わ、分かった。じゃあエリンさん、宜しく。俺のことはタケトって呼んでくれ」


 気品溢れるエリンの振る舞いに少しどもってしまった気もするが、まあいい。


「タケトさん、これ部屋の鍵です。無くさないように気をつけてくださいね」


「了解」


 鍵を受け取り、部屋に向かおうとすると朝から何も食べてないことに気づいた。

 依頼が早く終わって忘れていたがまだ午前中なのか。


「エリンさん、朝食って頂けますか?」


「時間は過ぎてるんですけど聞いてみますね」


 エリンさんはどうやら厨房に行って話してくれた。どうやら大丈夫だったらしい。


「今から作れるそうです。こちらに」


 食堂に案内されると、待っている間この宿のことについて話してくれた。

 エリンさんは両親と家族三人で営んでおり、両親はどちらも優しいのでいつでも頼りにしていいと言われた。


 出てきたのはオムライスでとても美味しく、褒めちぎってしまった。


「ふふっ。お父さんに伝えておきますねっ」


「ええ、エリンさんのお父さんの腕はピカイチだな」


 スキップで戻るエリンさんを見送ると自分の部屋に向かう。中は以外に大きく綺麗だった。

 ベットにダイブするとふかふかで心地いい。そのまま睡魔が襲ってきて、目蓋を閉じてしまった。


 昼過ぎに目を覚ますと、また空腹。


 腹は減ったが食べるものもないし、外に食べに出ようか……まて、そういえば弁当が残ってたはず。


 アイテムポーチから弁当箱を取り出し中身を確認。なんと今まで放置していたのに腐っていない。

 水筒の中身に至っては氷も溶けておらず冷たいお茶のままだった。

 これは嬉しい。

 

 アイテムポーチ内は時間が止まっているのか……しかも温度も一定のままだ。これは相当便利。


 弁当を食べてまずは武器屋に行くことにした。


 討伐ものの依頼も受けないとお金は溜まりそうにない。まずは武器調達だろう。


 やはり俺も男なのだろう。胸に期待を膨らませ武器屋に入る。


「へいらっしゃい! 見ない顔だな!」


 店にいたのは確認せずともドワーフ。身長の低い毛むくじゃらのおっさんだった。


「冒険者になったばかりなので初めてでも扱い易いものが欲しいんですが」

「ロングソードとか片手剣、槍なんてあるけどどんなのがいいんだ?」

「太刀とかありませんかね」

「タチ? 聞いたことないが……」


  あれ? 太刀はないのか……。ちょっとショックだ。モン〇ンでは太刀使いだったからな。


 一応太刀のイメージをドワーフのおっさんに伝えてみたが「そんなすぐ折れちまうような武器使うならレイピアの方がいいだろ」と言われた。


 普通の剣とそこまで太さは変わらないと思うのだが。


 ロングソードを見たが持ち上げるのも一苦労だったため、結局一般的で少し軽めの剣と初心者の防具一式を購入。


 残金はほとんど残ってないが今日から稼ぐことになる。前向きに頑張ろう。


 これから夕方まですることもないし、ササッとクエストでも受けようか。早速ギルドに向かいゴブリン五体の討伐の依頼を受け、森へ急いだ。


「初めての討伐依頼だ。落ち着いて安全第一でいこう」


 そう自分に言い聞かせる。


 森の手前で自分のステータスを確認した。



<名前> タケト=マツモト

<種族> 人族

<年齢> 17

< LV >1

<HP>170/170

<MP>170/170

<攻撃力>170(+200)

<防御力>170(+300)

<素早さ>170

<命中率>170

<会心率>170

<魔攻力>170

<精神力>1700

 装備:下着一式、防具一式(☆)、短剣(☆)、アイテムポーチ

 所有金額:18エン

 スキル:【全てを見通す目】

 固有スキル:【年功序列】

 簡易設定:【自動換金 ON】



 思ったより装備が強くて驚いた。これなら安全にゴブリンを狩れそうだ。


 森を歩くこと十分、早速ゴブリン四体を発見した。

 初めて見るゴブリン達は緑色の肌に原始人の様に下半身に毛皮を巻いており、手には石と骨で作られた鈍器のようなものを持っていた。

 身長は俺の胸あたりくらいだ。


 まずは【全てを見通す目】で情報収集だ。



<名前> ゴブリン(♂)

<種族> 魔物

<年齢> 8

< LV >12

<HP>110/110

<攻撃力>110(+40)

<防御力>60(+3)

<素早さ>16

<命中率>10

 装備:ウルフの毛皮、ハンマー(自作)



<名前> ゴブリン(♂)

<種族> 魔物

<年齢> 10

< LV >15

<HP>120/120

<攻撃力>100(+40)

<防御力>69(+3)

<素早さ>19

<命中率>18

 装備:ウルフの毛皮、ハンマー(自作)



<名前> ゴブリン(♂)

<種族> 魔物

<年齢> 5

< LV >5

<HP>60/60

<攻撃力>50(+40)

<防御力>20(+3)

<素早さ>3

<命中率>3

 装備:ウルフの毛皮、ハンマー(自作)



<名前> ゴブリン(♂)

<種族> 魔物

<年齢> 8

< LV >4

<HP>55/55

<攻撃力>45(+40)

<防御力>14(+3)

<素早さ>2

<命中率>3

 装備:ウルフの毛皮、ハンマー(自作)


 見た目は同じなのにここまで能力に差が出るのか。単純計算だと一番強い奴の攻撃を二度受ければ死亡。


 だが、兵士のおっさんの話だと『攻撃力』とはあくまで最大火力を表しているのであって常にその数値ではない。


 また受ける攻撃は、動きで受け流した分、防御力、受けた場所によって大きく変動する。


 このゴブリン達に突っ込んでも怪我は免れ半分始末し、逃げ出すこともできるだろう。


 待て、浮かれるな。今回は初めてで武器を試すだけなんだ。百パーセント安全に行動って決めただろ。


 ファンタジーなこの世界にやや浮き足だった自分に叱責する。命は一つしかない。どの世界においても自分の命の安全は最優先事項にすべきだ。


 しばらくゴブリン達の様子を伺うことにした。


 少しすると幸運な事に強い方二体が離れて行き、残った二体は座り込み話し出した。


「ぎゃぎゃぎぎぎゃぐぐえ」

「がぎがぐぅ!」


 言語は理解できないが、武器も置いてくつろいでいる。


 二体が戻ってきて囲まれないよう数分間待機。その間に近くにある大きめの石を一つ拾った。

 単純な作戦だが数回イメージを重ねる。緊張で手には汗が滲む。剣に少し歪んだ自分の顔が写っていたが酷い顔をしている。


 俺は生きるんだ。生き延びていずれは地球に帰りアニメの続きを見る。そのためには此処は引けない。


 そして俺は改めて【異世界】で初めて生き物を殺す覚悟を決めた。


 三、二、一。よし、行けっ!

 石を視界に入らないように大きく反対側に投げる。石が茂みに突っ込んだ音に反応した瞬間……今だっ!


「ううおおおぉぉぉりゃあああああ!!」

「ぐげぇっ!?」


 全速力で走り片方のゴブリンの顔面にクリティカルキックをお見舞いする。

 ゴブリンは吹っ飛び木にぶつかりぐったりしている。


「もういっちょぉぉおお!」


 そのままターンし残っているゴブリンの鈍器を広い上げ思い切り遠くへ投げる。武器を持たれては厄介だからな。


 ここまでくれば落ち着いて対処できる。喉元をめがけて剣を振るう。スパッと綺麗に首が落ちる。青色の血が舞った。


 《レベル上昇を確認しました》


 脳内の音声は無視。すぐに振り返り剣を構える……が吹っ飛ばされた方はどうやら気絶しているようだ。


「ふぅ」


 一旦落ち着きこちらも首を落とす。気分のいいものではなかったがそこまで精神的苦痛は感じられない。


 死体をアイテムポーチに収納し、狙うゴブリンは残り三体となった。


 ここでさっきの二体を追うことにした。音を立てないことに細心の注意を払いゆっくりと移動。


 すぐに追いつく。いつの間にか一匹増えていたが様子を見ながらステータスを確認する。



<名前> タケト=マツモト

<種族> 人族

<年齢> 17

< LV >4

<HP>200/200

<MP>200/200

<攻撃力>200(+200)

<防御力>200(+300)

<素早さ>200

<命中率>200

<会心率>200

<魔攻力>200

<精神力>1720

 装備:下着一式、防具一式(☆)、短剣(☆)、アイテムポーチ

 所有金額:698エン

 スキル:【全てを見通す目】

 固有スキル:【年功序列】

 簡易設定:【自動換金 ON】


 命中率は100が越えてるがどういうことなのか。とりあえず三匹目のステータスも残り二体と大差ない。


 作戦はおおよそさっきのままで大丈夫だろう。要領は大体掴めている。


 俺をゴブリン達を見据えながら深呼吸をし、再び剣を強く握りしめた。


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