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032 お風呂回ってやつか悪くねぇ(ry part2

 宿につくと先ずは状況把握のためアリスについて教えてもらうことにした。主にアリスの口調が変わった原因についてだ。


 だが、ひとつ懸念されることがある。それは――


「迷宮の時のアリスは説明長かったからなぁ。エミ、寝ちゃいかんぞ」


「ご主人様の“命令”がなければ難しいかも知れません……不甲斐ない私をお許しください」


 アリスは話が長い。説明しようにも設定が面倒臭いのだ。あ、設定って言ってしまった。


 そんな芝居がかった俺達の演技にアリスは顔を茹でダコみたく真っ赤にして反論してくる。


「今の私はそこまで饒舌じゃないのよ! 面倒くさいから簡略化して話すわね。賢者であるアタシが宮殿の設計に携わるにあたって問題があったの。それが人間の限界ってやつ。人間は脳の容量が限られているからある程度以上の知識······具体的には複雑な魔法陣を考えるための基礎知識の量が膨大でとてもアタシ一人じゃ限界がきたわけ」


「別に一人じゃなくても良かったんじゃないか?手伝って貰ったりしてさ」


「言葉で言うのは簡単だけど、普通の人間、つまり賢者でない人間には手伝いなんて務まらない。魔法陣の基礎も理解してない奴らが私ですら理解出来なかった複雑な情報を処理できると思う? アタシたちのような特殊な体質を持つ者が纏めてやった方が効率がいいのよ」


 そこで一度区切るアリス。その顔には悲哀が写っているように見えた。


「と、とにかくそういう理由で単純な解決策を考えついたわけ。それが一人が無理なら二人でいいやってものなのよ」


「さっきまで手伝い不要とか言ってなかったか?」


「普通の人なら無理。でも他ならぬ賢者のアタシ自身をもう一人用意できればって考えたわけ」


 それは世にいうホムルンクスやクローンとかの類いのものなのか。やはりこの世界には······。


 生唾を飲み込み、続きを待つ。

 エミも先程から真剣に聞きている。


「現実問題、人間を創り出すなんて禁忌とされてるくらいだからどれだけ頑張っても不可能。考えなかったわけじゃないけど。だからもう自分の中にもう一人の人格をつくればその分脳の容量増やせるかなって軽い気持ちで試してみたら、上手くいったって感じ。やった後で気づいたけど、脳に人格を書き込むんだから寧ろ脳の容量が減らなかったことが不思議でならないわよ」


「凄い結果論ですね」


 エミよ、俺も同意見だ。

 激しく頷く。


「まぁ、そういうこと。簡潔だったでしょ?」


「「全然長い」」


「嘘?!」


 いや、校長超えるまであるからな。


「ちなみにもうひとりの口調の違ったアリスはどうなったんだ?」


「もう消えちゃったわよ」


「さいですか」


「あの人格を維持するのには膨大な魔力が必要でね。宮殿の中でしか存在できないの」


 なるほど。電池で動くラジコンみたいなものだったのか。

 ならどうして、その人格に宮殿を任せてたんだ?

 そもそも宮殿を作る為の人格だった筈だ。


 疑問を口にすると、端的に返された。


「え、だって自分で管理するの面倒じゃない。魔力をある程度無尽蔵に使える空間の演算と調整だけでも疲れてるのに、そこから果ても知らない無期限の管理職なんて無理ね」


 最もな回答だ。


 そして堅苦しい話は終えて、宿の夕食を平らげる。アリスもここの食事を大層気に入ったようだ。


 部屋に戻り、エミが魔法で風呂の準備をしてくれた。エミって魔法でなんでも出来るんだよね。


 物凄く久々に感じるが、昨日ぶりに風呂に入る。


「え?! アタシはあとでいいわよ!」


「駄目です。奴隷はご主人様への奉仕を絶やしてはなりません。勿論お風呂でもです」


 それは初めて聞いたなぁ。


 なんやかんやありながら三人で仲良く浴槽へ。流石に少し狭いためエミより小柄なアリスは俺の上に密着した形で入る。


 エミはアリスを睨みつけていたが、歯を食いしばって耐えている。


「エミはハーレムを推奨する割に嫉妬深いのね。私にメロメロになっても恨まないでね」


「ぐぬぬ。私の方がご主人様のことを理解し、尊敬し、愛しているのです! それに私はご主人様の傍に居られるだけで幸せなのです。嫉妬なんてしていません」


「なら傍で見守っててね。アタシがお嫁さんに行くまでの輝かしい日々を」


「させませんよ! させるもんですか!」


 風呂場で睨み合う両者。

 そんなギスギスした空気の中で全く的外れなことに気付く。


(あれ? アリスの属性はツンデレじゃないの?!)


 実際のアリスはたまにツン、大体デレである。


 


 ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎




 風呂場から上がり湿った肌で二人とくっついたままベッドへダイブする。


「今更なんだけどなんて呼ぶべきなの? 奴隷だからタケトってのは変よね?」


「本当に今更だな。敬語使ってない時点で拘らなくていいと思うが······好きに呼んでくれていいよ」


「名前で呼ぶなんて許しませんよ!」


 いやエミくん。甘えん坊モードの時はよがりながら俺の名前叫んでんじゃん。膨らませてる頬が可愛いから何も言わないけど。


「“ご主人様”はありきたりね。ピデアルの呼び方とと同じで“マスター”にするわ」


「な!ありきたり」


「エミ、気にするな。その呼び方俺は好きだぞ」


「ご主人様――」


「あ、マスター! 私にも構いなさいよ」


 二人とも可愛いなぁ。


 それにしてもアリスの赤髪を間近で見ると惹き込まれそうになる。それ程に深い紅。

 思わずなぞるとアリスは顔も真っ赤に染め、エミはこちらを睨みつけてくる。癒されたいだけなんだがなぁ。


「今晩は可愛がって頂けますか?」


 まだ完全に乾いていない髪を背中に貼り付けてきながらエミが尋ねてきた。


「いや、疲れてるだろうからゆっくり休もう。アリスもいるしな」


 振り返り頭を撫でながら答える。一瞬不満げな表情を見せたエミだが暫く撫で続けるとその表情は和らぎ体重をこちらにあずけてくる。


 可愛くてチョロいのがエミの良さだな。


「ご主人様、いまチョロいって思いました?」


「ソンナコトナイヨー」


 エミは読心術のスキルを獲得したらしい。


「マスター、アタシに気を使わずにしていいわよ? 宮殿で寝てる間も盛ってたくらいだし」


「いや普通に疲れただけだから! 万年発情期を目撃したかのような目線で見るな!」


 ジト目でこちらを見るエミに思わず抗議の声を上げる。


 忘れていたが宮殿内の記憶もアリスは持っている――迂闊だった。親にエロ本を発見されたかのような恥じらいを感じる。


「アタシも奴隷でマスターの所有物なんだから、エミに飽きたら欲望の捌け口にしてくれて構わないわよ」


「ご主人様への夜の奉仕は今のところは私一人で事足ります! アリスは無理せず寝て下さい」


 こいつらはもう少し仲良くできんのか。

 今度親睦会でもするか。


「何はともあれアリスに強要することはないよ。そういうことは“本当に好きな人”とする事に意味があるからね」


「アタシはマスターのこと好きだし、【忠誠の腕輪】をしてるくらいだから構わないけど、でもアタシは······」


 アリスは目を背け、何か言いたそうにするが諦めて俯いてしまった。


 この行動は宮殿内の頃からちらほら見られる。

 俺に言いたいことがあるのに、言いたくない。そんな感じだ。


「多分吊り橋効果って奴かな。何はともあれ今日は普通に寝るし。それに俺にはアリスは何か決めかねてることがあるんじゃない? それを先に解決した方がいいよ」


 そう。たまにまだ何かに悩んでいる姿のアリスを何度か目撃した。口では自由になったし楽しみ、なんて言いながらまだ割り切れてない何かに縛られているかのような。


「そうね。もう少し時間を頂戴。主にも相談するかもしれないけどその時は宜しく」


「まぁアリスみたいな美少女の相談事なら何でも全力で解決してみせるよ」


「口だけは達者なんだから。でもありがと」


 そう言い終わると反対側を向いて寝る体制に入るアリス。


「ご主人様も早くお休みになられて下さい」


「さっきまで運動する気満々だった人の発言とは思えない思いやりに満ちたアドバイスありがとう。二人ともお休み」


「「おやすみなさい」」


 こうして長かったような、いや長った二週間のトレーニングから開放された心地良さに包まれて久々(に感じる)眠りに落ちた。


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