031 べ、別に、面倒臭い設定してんなって思われたって、な、な、なんともないんだからねっ!!
「じゃ、アリス様の了承も得たところで特訓ループ始めようかねぇ」
そんなピデアルの言葉から地獄は始まった。
宮殿の所有権は俺が持っているために使い放題。
つまりは人類の危機を救うために当時の最新技術を詰め込んだ傑作といっても過言ではない宮殿は、俺達の訓練所と化したのだ。
ところでタチの悪い宮殿内の特性がある。
・いくら過ごしても外界の時間はほぼ進んでいない。
・魔力は常時供給されており使い放題。
・人間の三大欲求を抑え込むことができる。
これらの特性を生かしピデアルは地獄の特訓メニューを生み出した。いや、生み出してしまった。
それはひたすら特訓、特訓、特訓。
疲労が無いために延々とひたすらスキルのレベルを上げる。それはもう淡々と。
無限の体力といえどもぶっ続けでは脳に負担がかかるというアリスの助言により、半日に一度休憩をとることになっている。
その貴重な時間に俺は宮殿についての情報や魔法の原理について教えて貰ってる。
自分でも勉強熱心だと褒めてあげたいレベルだ。
「てかピデアル。こんなんでレベル上がるなら宮殿をクリアする人達も、少しの害意を持ってしまえば脅威になり得たんじゃないのか?」
「それはないよ。なにせ此処で起きてるのは半分現実で、半分は夢のようなものだからね」
「ん? どういうことだ?」
「此処でスキルのレベルがいくら上がっても外に出れば初期のステータスに戻るのさ」
「待て待て。今までの俺達の苦労は水の泡だってのかよ」
もしそうなら、なんの為にこんな特訓してんだよ。
「そうじゃないよ。一時的でも上位の魔法の感覚を身につければマスターのような人外的なイメージ力を持つ人なら、外でも直ぐにものにできる。しかも時間もかからないし何しろ疲れない。無駄どころか物凄い効果を発揮するに決まってるよ」
なんか凄い都合良いな。
質問会に花を咲かせているとアリスもやってきた。
「ふぁぁあ、主らまだそんなレベルなのか。我も退屈故、早くスキル習得をしてくれんか」
「なんで封印されたはずの三大欲求の一つ、睡眠欲を発揮できてるんだお前は」
「それについては抑え込めるだけで意識すれば寝れるぞ。我は主らのレベル上げとやらが終わるまでしばし寝ておる。ピデアル、終了したら起こしてくれ」
「アリス様、了解しました」
「また寝るのか?!」
アリスはまたいつものポジション――部屋の隅に寝転び寝息を立て始めた。
「あいつの睡眠欲は異常だな」
「マスター、それは違うよ。アリス様は長く閉じ込められた体に慣れてないんだ。だから寝ることで本来の姿に近づけているんだよ」
「本来の姿ねぇ。なんか深刻な事情があったのか?
ただのグータラ娘だと思ってたけど」
スヤスヤと幸せそうなアリスの寝顔には年相応な、抱き締めてやりたくなるようなただの女の子にしか見えない。
賢者。普通の人とは違う立場である以上何か抱える問題はあるのだろう。言うなれば貴族や王様も一般庶民とは違う悩みを持つのと同じようなもの……なのだろうか。
「まぁ、色々あってねぇ。本来の姿といえば宮殿からでたアリス様は別人だから楽しみにしておきなよ」
「別人?」
「これについてはマスターに話してなかったねぇ。まぁ、楽しみにしときな。知らない方が面白いからねぇ。よし、そろそろ再開と行こうか」
訓練再開のため視線を落としぺちぺちとエミの頬を軽く叩く。
休憩中はエミへのご褒美として膝枕をしてやっている。そんなんで良いのかと甚だ疑問だが、現状満足そうなので何も言うまい。
え? 俺のご褒美だって?
ピデアルに許可を得て宮殿内の二日に一度、エミと愛の営みをさせて頂いております。これだけが俺のモチベーションだからね。エミにとってもご褒美になるから、二人とも訓練はちゃんと取り組めている。
「おーい、エミ。そろそろ時間だよ」
「もうですか? ご主人様の膝枕は至高です。このまま死んでも良いです。我が人生に一片の悔いなしです」
「おい、エミが死んだら誰が俺の相手するんだ? 俺の世話は?」
「すみません! 私はご主人様の奴隷。生きるも死ぬもご主人様と共に······愛してます」
「俺もだよ」
エミと見つめ合い、どちらともなく近づく。エミの瞳に、唇に吸い込まれるようにして――
「そういうのは二日に一度。つい昨日したばかりじゃないかい、マスター?」
ピデアルに説教を喰らいました。
舌打ちしてるエミさん、滅茶苦茶怖いんです。
◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎
「上位のレベルのスキルもおおよそ身につけたようだし一旦終了だねぇ。アリス様を起こしてくるよ」
長かった。本当に長かった、約二週間(宮殿内)。
地獄の特訓は身体的に疲れないため、精神的にガリガリ削られる。
知ってるか? 動き続けるのって頭を使うんだぜ。
欠伸をしながらこちらへやってくるアリスと······あれ? ピデアルが居ない。
「ピデアルは?」
「我の身体に戻ったぞ。もう役割は果たしたと言ってな」
「そんな!」
エミがショックを受けたような顔で叫んだ。
いや、その気持ちわかる。俺もピデアルにお礼とか言いたかった。
ピデアルのことだ「アタシは湿っぽいのが苦手でねぇ」とか考えてたんだろうか。
「アリス、ピデアルに俺とエミが感謝してたって伝えてくれ。ずっと世話になったしな」
「ご主人様の奪い合いをした良き仲間ですから、直接さよなら言いたかったです」
暗い表情をしている俺達にアリスはきょとんとする。
「なんか誤解しているようだが、ピデアルは消えた訳では無いぞ。ピデアルが主らに抱いておった感情、つまり好意も共有しておる。思い出もな。口調が変わった我がピデアル、口調の変わったピデアルが我。まぁ、そういうことだ」
「「··········」」
「疑っておるのか?まぁ良い。そうだな。風呂場での特訓はなかなかに面白いものであっあったな」
ニヤリと笑うアリスは挑発してくるピデアルを彷彿とさせた。
どうやら本当らしい。
エミも安堵の表情を見せた。
「居なくなった訳では無いのですね?」
「そうだ。主の世界の言葉を借りると我はパーソナルコンピュータ、ピデアルはメモリースティックといったところである」
なるほど、わかりやすい。
「では改めましてとこれからもよろしくお願いします。アリス様」
「そうだな、よろしく」
アリスとアリス(ピデアル)に挨拶をする。
「うむ。エミよ、同じ身分の奴隷である故に呼び捨てで構わんよ。最初は反発的出会ったのに急にどうした?」
「ピデアルのことを聞いたらもう仲良くした方が良いかなと思いまして。それにいつまでも喧嘩腰だとご主人様に迷惑がかかりますし、多少の我慢は一番一番奴隷の私の役割ですからね」
「むむ。そこを強調してくるとはなかなかに手練れだな。忘れるでないぞ。ピデアルの向けておった好意はそのまま受け継いでおる我もまた、タケトのことを想っておることを」
エミとアリスの言い合いは一向に終わる兆しが無いので途中で無理矢理シャットダウンさせて宮殿を出る。
宮殿にある扉をくぐるといつもの帰り道に戻っていた。時間は夜で暗い。
「【光よ(ライト)】」
本当は使えない筈の聖魔法Ⅲの【光よ(ライト)】は問題なく使える。ピデアルのいう感覚さえ掴めばなんとかなるという言葉は事実らしい。
「エミとアリスも無事か?」
「はい! ご主人様!」
後ろからエミが抱きついてくる。エミの決して大きいとは言えない可愛らしいお胸が背中に押し付けられるのを感じる。これは宿に帰ってハッスルするしかないな。
「アリスは?」
「べ、別に心配されなくても無事に決まってるじゃない!」
そうして俺の手を掴んでくるアリス。
「ん?」
「なによ」
「ご主人様、このお方はお知り合いですか?」
はて、見た目は完璧にアリスはなんだが知らない口調だ。
知らない天井だ的なノリになりそうだ、といかんいかん。頭がショートしかけている。
「いや、知らない」
「なんでよっ! アリスよ! タケトの奴隷のアリスよ! 忘れるとか有り得ないでしょ!!」
「いやその口調なに?」
「ピデアルから聞いてないの? どうでもいいけどこっちが本当のアタシよ!」
えええええええ。また面倒な設定追加しやがったな。
エミも俺の手を引いて宿に向かって歩き出す。
「ちょっと、無視しないでよ!」
「とりあえずエミに従って帰ろう。話はそれからで良いだろ? 先ずは休みたい」
「そうです。私は夜伽の準備があるので」
「ぐぬぬぬ。またそうやってわたしを除け者にして······」
何故かエミのアリスに対する態度が戻っている。さっきまで温厚だったのに。
原因は分からんがアリスの口調が変わった。手を繋いで歩いてるぶんには俺に対する好意はそのままなんだろう。
俺はポーカーフェイスのまま心の中で叫ぶ。
『ツンデレっ娘キタコレ!』
ツンデレって死語なんですかね······そんなことないですよね??




