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029賢者タイム、なんちって

「……誰?!」


 突然の登場に驚く。何せここには俺とエミのふたりしか居なかったはずだ。そこに急に現れた第三者。

 敵か味方かも分からない。


「我は賢者アリス。今をもって貴様の奴隷(もの)となった。その要求は予想外であったが約束は約束、誠心誠意尽くさせて貰う。アリスと呼んでくれ」


 俺の前で膝をつき、敬服の体制をとるアリス。


「ダメです! ご主人様、考え直してください! 過ちを諫めるのも私の務め。賢者などとのたまう怪しい輩を近くに置くのには反対です!」


「······本音は?」


「街を出る際にも奴隷を購入される予定ですのでこれ以上の奴隷の追加で私の立ち位置が危うくなることを懸念しています」


「正直でよろしい」


 ネコミミ奴隷を愛玩用――ではなく案内役として購入する目処を立てて楽しみにしていたのは事実だ。


 奴隷商人のファンツにも訳ありだったエミを購入して次は割引してくれると約束しているため、ここでアリスが奴隷になったとしても折角だから購入することに変わりはない。


「待てよ、奴隷になるには必要な手順とか契約とかあるんじゃなかったか?」


 疑問に思って口にすると、


「我は賢者である故に契約はもう済ませておる。ほれ見よ」


 アリスが手の甲をみせてきた。複雑な紋章のようなものが刻まれていた。美しい紅のその紋章は同系統のアリスの髪と相まって魅力的に感じる。


「綺麗なもんだな。しかもとても複雑だし」


「この紋章は我の力によって創り出したもので一般的には知られておらん。更に其処らのありふれた奴隷なんぞと違って『忠誠の腕輪』三つを装備した状態、すなわち 【絶対忠誠】を発現させた状態なのだ」


「っな?!」


 エミが驚くのは無理もない。


【絶対忠誠】は奴隷が主への忠誠を誓った場合得られるスキルであり、僅かな迷いなく『心』、『体』、『命』を差し出す覚悟を要求される。


 その条件を満たせさえすれば、奴隷が主に助力する際、全ステータスが3倍になるというとんでもスキルだ。


 エミはだいぶ前からこの【絶対忠誠】のために『忠誠の腕輪』を三つ装備したいと考えていた。

 だいぶ前の買い物でそんなことを口走っていたのを覚えている。


 ずっと憧れていた【絶対忠誠】を急にでてきた奴隷が発現したという事実は、エミにとって決してプラスの感情になり得ないだろう。

  よく「最初に【絶対忠誠】を認めてもらうんです」と意気込んでいたからなぁ。


「しかしアリス。条件も揃ってないのにどうしてそんなことができるんだ? 発動条件は万人共通で不可侵なものの筈だろ?」


「勘違いしておるが、我は主に『心』、『体』、『命』を捧げておる。唐突に言われても信じられんかもしれぬがな。それに我は賢者故に、多少の制約を緩めることも出来る。命に関わるようなことは無い」


 スキル発動の条件はこの異世界において神以外変えることはできないだろう。でなければいちいち条件なんてつける必要も無いし、世界のバランスを取れない筈だ。


 多分アリスは真実を語っている。


「なんでまた」


「それは主に感謝しておるからだ。我は知の宮殿(ここ)でいつまでも時を過ごすより外にでて色々なものに触れたかったのだ。しかしここの管理を任されている手前、自ずから知の宮殿(ここ)を放棄するわけにもいかんかった。そんな中久々にこうして出てこれたのはどんな理由であれ主のおかげだ。それ位躊躇せずとも捧げられるほどには感謝しとる」


「俺達についてくるのに迷いはないと?」


「無論。我はこんななりでも賢者故にその知識は膨大である。必ず主らの役に立てると自負しておる。ただ我の知の宮殿(ここ)での活動の前の知識······かなり昔の知識である故に若干の齟齬があるかもしれん。それに今は完全体ではないから無理であるがいずれ魔法等も使えるようになろう」


 アリスもなんだかんだ閉じ込められていたのか?


 賢者とである以上深い理由もありそうだがやぶさかに聞くことでもないだろう。役に立つなら問題は無いし、あるのはエミだ。


 先程からorzの体制で死んだ目をしているエミにも話をふる。


「頼りになりそうな助っ人なんだ。エミ、仲良くしてくれよ」


「うぅ、ご主人様の決定には逆らえないですよ」


 なんとも可愛らしい涙目でこちらを睨んでいる。本人は睨んでいるつもりなのだろうがその可愛らしい表情は心を和ませている。


「ところで、俺達がここに迷い込んだ時迷い混んだ時に喋る魔道具······みたいなもんなんだが、そいつが急に動かなくなったんだが」


「おお、それはの『範囲内・範囲時間における魔法・魔法具の使用禁止』であろう。この宮殿には様々な細工がしてあってな、知の宮殿というくらいだ。頭のみで突破せんと意味無いであろう?」


 悪戯好きの子供のような笑を浮かべ、アリスは続ける。


「この範囲内では試練を成功または失敗するまでは俗に言う〝不正〟というやつを防ぐことに全力を注いでおる。その為の対策に引っかかったまでよ」


 アリスはカラカラと笑い更に続ける。どうやら解説に熱が入ってしまったようだ。


「ちなみにお主らは出口から出ん限り此処での時間は外の時間に比べて止まっておる。といっても厳密には挑戦者が存在している間だけ莫大な魔力を使って時を歪めて中の時間を早めているだけなのだが。それに魔力に囲まれておるから今ならいくらでも魔法が放てるぞ。常に体に魔力が供給されておる状態であるからな。それにしても主ら運が良い。全ての宮殿の出現条件は特異体質のある者のうち有望な者。更には出現の可能性は低く、場所も完全に無作為であるからな」


 アリスはどうやらお喋りが好きらしい。スラスラと雪崩のような物量で話してくる。止めないといつまでも続きそうだ。


「わ、わかった。わざわざ講義してくれてありがとな。とりまピデアルでも呼ぶか。こんな空間見たらアイツきっと喜ぶだろうし」


「それは名案ですね!」


 すっかり切り替えたのだろうエミも俺の意見に賛成してくれた。俺もエミも、日頃の特訓で苦楽を共にしてきたピデアルとは物凄く仲良く、親友のような関係になりつつある。


「ん? ピデアルとな?」


 アリスが神妙な面持ちになってピデアルという名前に反応した。


「ん? どうした?」


「すまぬ、思い違いだろう。続けてくれ」


「じゃ、久々に師匠に会いますか」


 そしてアイテムポーチから取り出すとピデアルは想像もしない反応を示す。


「急に動けなくなって焦ったよ······あれ、アリス様じゃないかい?! え、本物······お久しぶりです!」


「これまた予想より早い邂逅となったの、ピデアルよ。すぐにでも主らの役に立てそうだ」


 何故かアリスとピデアルは知り合いらしい。ピデアルに関しては敬語で様付けである。あのぶっきらぼうな口調のピデアルが。


 エミも同じことを考えているらしく口を大きく開けて唖然としている。


 恐らく、俺もエミのような顔になっているのだろうと確信した。


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