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028 脳トレ

「ご主人様?」


 急にハグされたことに動揺を見せるエミに即謝罪する。


「すまん、なんか危機に追い込まれた雰囲気だったから落ち着こうとした」


「そうですか。しかし私は逆に気が動転してしまいました。正常な判断を下すため、然るべき処置を所望します」


 すぐにタコさん唇に尖らし、俺に突きつけてくる。

 キス顔は普通顔が崩れて見えるものだが、エミぐらいの美少女になると全く平常時と遜色ないのだ。寧ろ可愛らしさが上がっている勢いだ。


「っん」


 再度口付けをして互いに見つめ合う。


「ってこんな事してる場合じゃねぇ!」


 完全に思考を放棄してエミを愛でる行為に逃げていた。俺をここまで堕落させるなんて······エミ、恐ろしい子。


「ご主人様、すみません。壁に記されたのが答えに必要な鍵だった様です。もう少し考えていれば」


「もう扉は閉まってしまったし、大体読めないもんは仕方ない。面倒だから俺なら読めても読もうともしなかっただろうな。だから気にすんな」


 再度机上に置かれた冊子へと向き合う。


 多分あの莫大な量の暗号を解読して答えを導き出すのが正攻法なんだろうが、元々頭が冴えているわけでもない俺では到底太刀打ちできないのは目に見えてわかる。


「とりあえず、見てみるか」


 俺たちは冊子の前へと進み、覗き込むと――


「な、なんだこれは?!」


 思わず声を荒らげてしまう。何故なら、冊子の表紙を見るとこう書かれていたのだ。


『やわらか脳を目指せ! クロスワードパズル大量105問 中級編』


 そうだ。どんなに難しい内容かと思えばただのクロスワードパズルじゃないか。

 この禍々しい建造物といい、なんて紛らわしいんだ。


「エミ。今回は楽勝っぽいぞ」


「さすがご主人様! 私には読めない文字だらけで何をすればいいのかすら分かりません」


 確かに、ルールと言語が分からないのでは正解のビジョンすら見えない。俺達は勝手に翻訳されるから意識しないが、異世界人にとっては超難関な問題になるわけか。


「やり方さえ分かれば誰でも分かるんだがな」


 よく見るとクロスワードの冊子の横には羽ペンが立ててある。これで埋めればいいんだな?


 俺は一般人ながら悪くないだろうペースで空欄を埋めていく。クロスワード中級編って、普通の人はこれくらいだよな?


「凄いです! どんどん埋まっていきますね。流石ご主人様」


 瞳を輝かせながらはしゃぐエミを軽くスルーしてラストスパートにかかる。ここまで埋めてしまえばあとは簡単だ。


 そしてようやく埋め切った。


「ふぅこれで終わりかな」


 羽根ペンを元の位置へ戻す。すると開かれたクロスワード冊子は輝きを放ち、文字盤へと変化する。


「これもやはり初めて見る言語です」


 エミは今回は活躍する場面がないためかしょんぼりとしているようだ。

 恐らく日本語で書かれているのだろう。俺も読んでみる。


「なになに······『 ふぁいなるあんさー? いぇす おあ のぉう』なるほどな」


 若干コックリさんを連想させる堪えさせ方ではあるが、俺はスルーを徹底するのだ。呪いなんてないもんっ!


 勿論なんのツッコミも入れず『 いぇす』の文字に触れた。


 思えば異世界(こっち)にきて半年近くも経過している。まさかそんなタイミングでクロスワードをする日が来るなんて、非常に不思議な感じである。


「よし多分これで解決かな」


「お疲れ様です、ご主人様」


 勝手に自己解決した俺に戸惑うことなく頷くエミ。

 ええ子やな。


 突如先ほどと同じような輝きが目の前いっぱいに広がり、視界が阻害される。


「クリア画面、ボーナスステージ、あるいはラスボス戦突入って所かな。エミ、警戒を強めろよ!」


「はい!」


 エミの姿は確認できなくとも、横から彼女の声がしっかりと聞こえた。




 ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎




 〖その誉れ高き叡智に賞賛を送ろう〗


 例の声が響いたことで俺達の命は救われたことを知る。それと同時に、視界も戻ってきた。

 内心では死ぬかもと思っても実感なかったから、これといった恐怖はなかったけど。


「すまん、一応聞いとくけど選び間違えたら俺ら死んでたりする?」


 〖その場合、この宮殿の記憶を消した上で元いた場所に返していた〗


「あ、そうなんだ」


 最後になるかもと、エミの前で強がっていい格好を見せようとしたのに。それを聞いてしまうと無性に恥ずかしく感じる。


「ご主人様、それでもかっこよかったですよ」


 心を読んだのか?! エミ、君は全て分かった上でリアクションを取っているのか?!

 穴があったら入りたいとはまさにこの心境のことか。


 〖汝の望みを何でも一つ叶えよう。地位、財産、女何でも良い。それが成功の報酬だ〗


 わぁお。大判振る舞いだな。


「その前に質問がある。ここはどこか、お前は誰か、俺の前の奴は何を望んだのか。これらについて答えてくれないか?」


 取り敢えず、最低限情報を引き出しておきたい。望んだものが最小規模のものだったりしたら大損だ。


 〖良かろう。まず最初に此処はこの世界に七つある神殿のうちの一つ、知の神殿である。古い文献で読んだことくらいあるだろう〗


「ないけどな」


 〖そうかそうかやはり……ってないの!?〗


「おい、キャラ崩れてんぞ」


 〖う、この喋り方は我が友に教えて貰ったものだ。正直話しにくくてやってられないのだ。それに久々の来客なので少々気が昂っておるのだ〗


 実は俺達が来たのが嬉しかったのか。少し可愛いところもあるじゃないか······性別がわからないからなんとも言えんが。


「なら好きな口調でいいんじゃないか?」


 〖しかし、我が友がこの話し方で威厳を示すことが出来ると〗


「もう威厳とか無くなりつつあるしいいんじゃ……」


 〖我を愚弄するか。正解したから敬意を払えばつけあがりよって〗


 ぼそっと呟くとどうやら聞こえていたらしく機械音は反論の声を上げた。


「いや、別にそういう訳じゃ······まぁいいや。お前は誰なんだ?」


 〖話を逸らしおったな。ふむ、我は偉大なる賢者アリス。全知全能、永久不滅の者である〗


 うわー、自分のこと賢者とか全知全能とか頭おかしいヤツだったのか。日本でいう厨二病みたいなものか。

 俺は何故か同情して優しく声をかける。


「そうか、凄いんだな」


 〖そうだ。我は偉大なる賢者だからな。もっと褒めても良いぞ〗


 もう可哀想過ぎて暫く褒めちぎった。これくらいしかこいつの心を癒せることはないだろうとそれはもう褒めて褒めて褒めた。


 後ろで黙って待機しているエミも何処と無く「うわぁ、ご主人様面倒な奴に絡まれてんなぁ」みたいな表情を浮かべている。気のせいかもしれんが。


 〖おっと、まだ最後の質問を答えてなかったな〗


 永遠に続くと思われた褒めちぎり大会は予想外にも賢者アリスの方から打ち切られる形となった。

 長かったなぁ。


 〖前回叶えた望みは確か、金であったな。金になりそうな宝石などを錬成して渡した筈だ。換金すれば白金貨十枚相当のな〗


「そうか。ならもう望みは一つしかない」


 そう、もう決めた。こんな宮殿にずっと閉じこもって年を重ねている時点でほぼ決定みたいなものだ。俺のパーティーに入ってもらうのが一番だ。


 しかも高価な宝石を創造する力を持っていると来たもんだ。迷う理由がない。俺の更なる安全快適ライフに近づくための礎になってもらおうか。


 その前に最終確認をしないとな。


「最後に一つ。賢者って言うくらいだからお前は人間なのか?」


 〖無論我は人間である。賢者でもあるが〗


「そうかなら俺が望むのは賢者アリスよ。俺の奴隷(もの)になれ」


 〖っな!?〗「そんな!?」


 おい待て、何でエミまで驚いてんだ。

 エミはズカズカと俺の元へ近づいて懇願してきた。


「ご主人様の奴隷は私だけです! あんな頭のおかしい者をご主人様の奴隷にするなど有り得ません。ええ有り得ませんとも!」


「エミ、落ち着けって」


 こないだ他の奴隷を持ってもいいって言ってたでしょうが。気分屋なのかな?


「これが落ち着いていられますか。私の不動ポジションである奴隷にご主人様好みの女性ならまだしも頭のネジの外れた変人が······こんなことって」


 あわあわと青ざめた表情で震え出すエミ。

 賢者アリスさんの言われよう半端じゃないです。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


  地面が揺れる。日本でも体験したことのないほどの地震に戸惑う。

 途端、爆音とともに閃光が走った。


「ご主人様!」


「これは?!」


 エミとふたりでしゃがみこみ衝撃に備える。しかし何も起こらない。

  徐々に揺れも引いていき、安堵の溜息を漏らす。


「ふぅ。終わった、か」


「一体なんだったのでしょうか」


 閃光にやられた視界が戻ってきてから俺達は立ち上がる。


「誰のせいだと思っておるのだ」


 急に第三者の声が聞こえ、振り返ると······赤髪で少し背の小さい、これまたどストライクの美少女がいた。

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