027 イカイの秘宝伝
エミは異常状態が回復してからすぐに魔法を使えるようになった。
俺とは違い最初から殆どカンスト状態にある魔法を扱いなれるのにものの十五分程度だ。
俺は泣いた。才ある者とない者の差に。
訓練所としているより奥の森へ移動しながらエミに話しかけた。
「エミは最初から魔法が使えたんだな」
「いえ、こんなに沢山の魔法が使えると分かったのはご主人様に言われるまで気が付きませんでした」
「そうか」
でも普通生まれてからそのスキル保有数は明らかにおかしいだろう。エミのステータスの異常さは実験に起因していることは明らかなのだが、スキルに関してはまだなにか他の事柄が絡んでそうだな。
もしも既に実験施設でスキルが増やせる方法が見つかっているなら、魔力を材料に金を稼ぐことなんてせずに貴族に高値で売りつけた方が効率的だからな。
「ところでもう名前では······タケト様って呼んでくれないのか?」
「その、ふたりきりで甘えたい時に呼ぼうかな、と」
「なんか仕事と生活はしっかり区切りをつけてるって感じだな」
「そうです! そんな感じです!」
いつも呼んでほしいけど、エミの甘えん坊モードの判断材料になるしわかりやすくていいか。
「よし、着いた」
今日の特訓は俺自身とエミを同時に転移させる特訓をしている。
これに関しては何度やっても吐き気を催す。
複数人の転移の負荷は転移者である俺が代表して全受けするからだ。それは乗り物酔いの不快さを複数人分まとめて貰うようなものだ。
そのこともあり昨日のようなハイペースではなく少し落として安全にゆっくりと転移の練習をしていた。
「よし、小一時間程休憩しようかね。焦りは禁物。今回は特にね」
「わかった。エミ、お疲れ」
「ご主人様の方が疲れてますよ! お疲れ様です」
ピデアルから休憩の言葉を貰ってからエミに労いの言葉をかけたのだが、どうやらお気に召さなかったようだ。
「私が先に言いたかったのに······」
そうボソッと呟いていたエミは可愛かったが。
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日も暮れて、すっかり暗くなってしまった。訓練が思ったより進まず長引いてしまったからだ。
「いやぁ、マスターでも手こずることあるんだね」
「いや、俺は神様じゃないんだから何でもすぐにはできんわ」
軽口を交わしながら帰り道を歩いていると、パタンと音がして振り返るとピデアルが地面に落ちてーー動かなくなっている。外面は完全に置き忘れられた古本でしかない。
「ピデアル? おい、どうしたんだ?」
何度話しかけても全く反応がない。どうすればいいのかと途方に暮れていると、エミが肩を叩く。
「ご主人様、あれはなんでしょうか?」
エミの指差した方向には見たこともない大きなピラミッド型の建築物がある。
「は? なんだこれ」
さらに驚くべきことに俺の周囲は先程までいつもの帰り道だった筈が、見たこともない道へと変化している。
「一体どうしたってんだよ」
「幻術にかけられている可能性があります。注意してください」
エミの緊迫した表情に生唾を飲み込む。辺りを警戒するが、一向に敵らしき者はは現れない。
「どうやら入るしかないっぽいな」
もうこのピラミッド的な何かに入らないと先へは進めないんだろうなってなんとなくわかっちゃうもの。そうするしかないよね。
「甚だ遺憾ながら、賛成です。ご主人様、私の後に」
「いいや、これは命令だ。俺が先頭でこの建物に入る。自分の命を俺のために犠牲にするような行為は今後認めないからな」
「うぅ、はぃ」
項垂れたエミを尻目に、やはり言っておいて正解だったと安堵した。ホントにやりかねんからな。
入る前にピデアルをアイテムポーチへと収納する。
そして不本意ではあるが俺達はピラミッドもどきへ向けての一歩を踏み出した。
大きな石を積み重ね構成されるこの建築物だが、入り口はわかりやすい。正面に人ひとり分程の空間があるからだ。
中に入ると長い通路になっており、その壁一面に細かい文字や絵がぎっしりと刻まれている。
文字は見たことない文字で、絵は人や龍などだ。
「知らない文字だな。絵はわかりやすくていいんだけど」
「ご主人様! この文字見たことあります! 老婆さんの小屋に似た文字のほんがありました」
「読めるのか⁈」
「申し訳ありません。読むことはできません」
「読む気はないし気にすんな」
一瞬エミSUGEEEEと思ったが、読めたにしても解読する気はないので関係ないな。
そのまま奥へ奥へとひたすら歩く。ピラミッドに入って20分程たっただろうか。結構歩いたぞ。
外見よりも中が大きな気がする。もしかして永遠にこのままじゃないよな。無限ループって怖くね?
「お?」
まだ離れているが、進行方向の先に扉があるのに気付いた。
「おい、なんかラスボスいそうなオーラなんだが」
いや、どちらかと言えば名探偵コ〇ンのCM前後ってオーラかもしれない······なんてな。
「確かに。警戒した方が良いかもしれません。それに例え何が現れようと守って見せます!」
そんな頼もしい宣言が終わる頃には扉の前に着いていた。
「っうわ、すげえ」
そこには壁だけでは飽き足らず、扉にもびっしりと刻まれている。文字が、絵が。パッと見蠢く蟻に見えてくる位の細さに半ば呆れる。
「何がしたくてこんなにラクガキしたんだか。まあ、進まん事には始まらない。エミ開くぞ」
「いつでも大丈夫です」
エミの返答を確認してからゆっくりと扉を押し開け、中へ入る。
「でけぇな」
その部屋の大きさに驚嘆しつつ、エミと共に部屋の中央まで歩いていく。勿論、警戒は解かずに。
ギィィィィィィバタン!
「っひぃ」
エミは小さな叫び声を上げると、俺の腕に抱きついて震えている。
何この可愛い生物。今度お化け屋敷に連れて行ってやろう……といっても異世界にはないか。
安心させてやるために頭を撫で撫でナデナデnadenade……顔が蕩けてきたのでもう大丈夫っぽいな。
「密室殺人でも起こりそうな予感」
そんな馬鹿げたことを呟いていると、胸にズシンと響くような轟音で中性的な機械音声が鳴り響く。
〖汝、己が知恵を信じ異界の造物を成せ。先駆者の言の葉は道中に示した〗
ズズズズ――と目の前の床がダイニングテーブルのような形状に盛り上がった。机上には何やら冊子が開かれており、横には羽根ペン。どうやら謎解きみたいだな。
さっきの言葉から察するに、これ扉閉まる前に壁解読してそれをヒントに謎解きするパターンのやつですね。詰みです。
パニックになった俺は何をすべきかわからず頭は真っ白になっていた。取り敢えず落ち着くためにエミに軽いハグをする。
何がしたいのか自分でもよく分かっていない。
正午にもう一話投稿します。




