025 YDU(やれば できる子 羨ましい)
恐ろしい子っ!!
ギルドで報酬を受け取り宿に帰ると、俺はピデアルに質問した。
「ところで空間魔法のレベルがⅢに上がったんだけど何ができるようになったの?」
「「え!?」」
ピデアルに加えエミも驚いた。
あんな特訓でレベル上がるんだから、緊迫した実践での経験値なら上がっても不思議じゃないだろ。
「多分さっきの【即死】で物体の転移はマスターしたんじゃないのか?」
「こんなに短期間にレベルⅢ······呆れた。マスターは今までの誰よりも才能があるのかもね」
「マジか?!」
褒められると慣れてない分テンションが上がる。
すると両者の上にクエスチョンマークが浮かんでいた。
なるほど、こっちにはこの言葉がないのか。
「本当にって意味だよ」
「ご主人様の故郷の言葉ですか?」
俺が頷くとエミの表情が少し曇ったように見えた。
「エミ、どうした?」
エミは「いえ、なんでもありません」と首を横に振った。俺の勘違いだったらしい。
「少し早いけど、特訓を始めようかね。今日は風呂場での特訓だよ」
ピデアルの提案に賛成して俺とエミは服を脱いで風呂場に向かった。
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言われるままに半分ほどの湯船を張り、エミと向かい合って入ると丁度腰辺りまで浸かった。
美しい裸体を目の前にしてどうしても湯船より熱くなってしまう体の一部を意識して恥ずかしい気持ちでいっぱいである。
「マスターも男だから仕方ないけど、ふたりで鎮めるのは後にしてくれよ」
「わかってるよっ!」
「今日やるのは転移よりも難しい、空中操作ってやつだよ。水を触手のように操って相手の身体を思うがままに蹂躙する。これによって男性の性的興奮で集中力を高めつつ、空中で自在に無機物を操る感覚を養えるんだよ」
おい無視して説明モードに入ってんじゃねぇ、と心の中で毒づく。
「質問いいですか? ご主人様の転移を見る限りではあちらの方が難しい魔法のように思えるのですが」
エミがピデアルに聞いた。
「そうだな。俺も物を浮かせたり移動させたりするよりも、転移の方が上級の魔法な感じするわ」
「はぁ〜、最近の若いのはそんなことも知らないのかねぇ」
「いや、その言い方。お前はいくつなんだよ」
「そうだねぇ、一万年は優にすぎてるよ」
「超年配?!」
人だったらパーティー組んで大幅に強くなれたのになぁ。【年功序列】の対象は無機物も含めてくれ。
リズミカルな会話を終えると説明の続きに入る。
「いいかい。転移っていうのはある一点と一点を結びつける、つまり空間座標を把握できる段階まで持ってくことができさえすれば後は魔力でどうにかなる。だけど空中操作は常に三次元的な動きを脳内でイメージしつつ、風なんかの突発的な障害にも対処できる【高速思考】や【並列思考】が前提となる。んでもって水なんかだとそれに加えて形状維持のために莫大な魔力を消費し続けるんだ。どっちが上級だなんて考えりゃわかるだろう?」
今の説明は理解しやすかった。エミも納得した様子だ。
「今日のこれが上達すれば、自分や他人を空中操作してロマンチックに空の散歩なんてこともできるよ」
「かっけぇ」
夢溢れる、空間魔法。
エミもだらしなくニヤニヤしながら「えへ、ご主人様と空中デート······えへへ」なんて妄想に浸ってしまっている。
まぁ、エミを喜ばす為にも一丁頑張りますか。
――その晩夜遅くまで女性の喘ぎ声が部屋に響き渡ったという。
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「レベルIVになってる······」
翌朝ステータスを確認しながら1日1レベルという驚異の成長速度に俺、エミ、ピデアルは唖然としていた。
いや、まさか連日で上がるとは。このまま行けば明日で最高位まで届くんですけど?!
「ご主人様······素敵! 抱いてくださいっ!」
叫びながらタックルしてくるエミの起動をを空間魔法によりずらして床にダイブさせる。
「っげ?! っ痛いですよ!」
「毎晩抱いてるだろう。エミはもっとお淑やかになるべきだ。最初の頃のキャラはどうした! キャラ変わってから行くとこまで行っちゃってるぞ!」
「私はご主人様に告白された時から後悔だけはしない生き方をしようと決心したんです。ご主人様に対してはいつでも全力です」
「それは奴隷としてどうなんだ?!」
積極的で元気な女の子もいいけど、大人しかったエミも良かったなぁ。
「どうして昔を懐かしむような目をしてるんですか!?そんなに今の私がお気に召しませんか?!」
少し涙目になって訊ねてくるエミ。
いや、涙目のエミも十二分に可愛いけどね?
また傷つけるのも怖いので一応フォローしておく。
「そんなことはない! 何時でもどんなエミでもずっと大好きに決まってるだろ。あの時の誓のキスはそんな生半可なものじゃないのは俺達が一番わかってるはずだろ?!」
「ご主人様、私も変わらぬ愛を永遠に誓います」
「エミ······」
「ご主人様······」
ふたりで手を取り合って見つめ合っていると、ふと違和感を感じた。何かが足りない。
そうだ。いつもはピデアルが横槍を入れてくるのにどうしたんだ?
アイテムポーチを確認するといない。また勝手に出てきてるのか。許可したのは俺なんだけど。
辺りを探すと部屋の隅の方で何やら呟く本がいた。
「こりゃぁ才能の塊だよ。アタシが育てれば最強になる、ぐへへ。鍛え上げた暁にはアタシの夢の一つや二つ叶えてくれるかも、ぐへへへへ。しかも歴代で最強の魔法剣士を育てたのはアタシだと言いふらして優越感に浸れる、うししし」
何やら企まれてるご様子。
夢とか言っていたがお世話になってるんだしできることなら叶えてやりたいと思考していると
「今日からゴブリン狩りは一時的に中断だよ」
ピデアルからまさかの実践練習待ったなしがかかった。
「どうしてですか?! 私とご主人様の共同作業を奪う真似なんかして······酷い」
たかだかゴブリン狩りをそこまで重く受け止められていたのか。ちょっと怖いぞ。
「大丈夫だよ! そんなチンケなことよりもっと派手なことだからね。今日は自身の転移の練習を森の奥でしようと思う。転移後のマスターを受け止めるのは願ってもない役得だろう?」
「わかりました。早速説明して下さい。それから朝食をとって森へ出かけましょう」
態度変わるの早?!
本当にゴブリン刈りを止めるとは――エミの掌返しに面食らいつつ、俺はピデアルに質問した。
「ピデアルの特訓方法は連続しても効果が薄いんじゃなかったか?」
「それはないね。アタシは確信したんだ。マスターには魔法の才能がある。前教えてくれたマスターの故郷では魔法の概念がなかったはず······なのにイメージを掴むのが早すぎる。これはきっと神から与えられた才能に違いないよ」
さいですか······魔法少女と一緒に魔法で敵をやっつけたり、魔法少女と一緒に困っている人を魔法で助けたり魔法少女と一緒に魔法で競い合うようなライバルになったり、魔法少女と(ry――するのを暇な時妄想してたからとか恥ずかしくて絶対に暴露してはならないと震える。
「こうなったら剣術は後回しだ! 先ずは上級の魔法使いになってもらうよ!」
ピデアルは高らかに宣言した。
魔法の練習ばかりだとお金が貯まらない。俺達の生活は大丈夫なのだろうか。
この時はまだ、俺が次に宿に帰ってくる頃にはピデアルの目標に達することになるなんて知る由はなかった。
僕もご都合主義の世界に生まれたいです。




