021 世界を敵に回しても
大金を得て、昇格試験にも見事合格し晴れてEランク冒険者となった俺とエミは朝からそれ相応の行動をとっていた。
「おらっ! おらっ! おりゃあああぁ!!」
そう。新しい可愛いケモミミ奴隷を買いに行くわけでもなく、昨日手に入れた約60万円を使って新しい住居を探しているわけでもない。いや、住居に関しては現実的に無理な話だが。
とどのつまり――今日も今日とてゴブリン狩りだ。
「ってやってる事に変わりも進歩もねぇ……」
実際下級冒険者のランクなんて上がった所で近似すれば変わってないようなもの。薬草も無理してまで昨日に完遂させる必要なんて皆無だったのである。
そして、数ヶ月は優に過ごせる金額を手にしてなおゴブリン狩りをするのには理由があった。それは、1度楽すると俺が真っ当な生活に戻ってこれない自信があるからだ。
よってこれからも、変わらずゴブリン狩りをしていく方針となった。
ゴブリン狩りのノルマを終え、休憩中にエミが提案来てきた。
「ご主人様は固有スキルで力をつけたのでいっそ上のランクを目指してはどうでしょう」
とエミに聞かれたが俺は即座に却下した。
「いや、いきなり目立つと面倒なことになるとは相場が決まってる。焦らず早足くらいでランク上げる。まずは焦らず金を貯めつつスキルの向上を目指すのが最優先だな」
そしてそのついでに俺の転生についても話しておくことにした。いずれは話す案件だし、早い方が良いだろう。
「実は俺はな別の世界、しっくり来ないと思うが凄く遠いところからこの世界に来たんだ。固有スキルを持ってるのもそれが関係している」
この世界では固有スキルを持つ者は少ないらしい。
エミはそれを聞くと驚いた様子もなく聞き返してきた。
「ということはやはりご主人様は迷い人なんでしょうか?」
「迷い人?」
聞き慣れない言葉に思わず聞き返す。
「はい、迷い人は簡単に説明しますと、遥か彼方の未知の領域から召喚されてこの地に舞い降りると言われています。数十年ごとに勇者と呼ばれる者達が王族の血を代償に召喚されていると読んだことがあります」
「え、勇者?」
「はい、人族が他国との戦争で勝つために強力な力を持つ勇者達を使って領土を拡げるのは昔から行われている戦法らしいですよ。確か召喚には二十年は間を開けないと難しいらしく、前回からの時間を考えると今年でも召喚できるはずですし」
「なるほどな、その召喚ってのは何処で行われているんだ?」
「すみません、そこまでは。ただとても大きな帝国だとは書いてありました。ここから遠く離れているかと」
なるほど、それならほかの奴らが勇者として纏まってこっちに移された可能性もあるわけか。
「ところで勇者と迷い人の違いはなんなんだ?」
「はい、勇者は王族によって召喚されますので国からの補助金と王都での安全な生活が保証されるそうです。一方迷い人はその頭角を表し大きな活躍で認められることで勇者として国王に認められるんです」
うわぁ、絶対勇者にはなりたくないな。神もゆっくり過ごしてくれって行ってたし、例え活躍しても面倒事に巻き込まれるのがオチだ。
「話を聞くだけだと俺は迷い人っぽいな」
その言葉を聞くとエミは目を輝かせて「すごい、流石です」なんて呟いている。
「でも俺はランクが上がっても勇者なんかにはなりたくない。これから増えるだろう仲間とエミとゆっくり平穏に暮らしていたいよ」
「ご主人様ならそう言うと思いました。なにせ固有スキルで力を手に入れても傲慢な態度になることなく普段通りなんですから」
「いや、面倒事が嫌なだけ」
「それでも嬉しいです。普通は力を得た人間は豹変するものです。それに私とのこれからを考えて下さっていると知れただけでも私にとっては勇者よりも英雄ですから」
「……そっか、まぁエミが元気になるまではこの生活のままだな。ゆっくり確実に直していこうな」
「ありがとうございます。ご主人様の奴隷になれたことで私の人生の運全てを使い尽くした気分です」
「はは、ありがとな。嬉しいよ」
そしてクラスメートについても話す。
「俺はな、元いた所では皆から嫌われて居たんだ。毎日とは行かなくてもたまに殴られたりもした。そんな生活の中ここに奴らと放り込まれた」
「そんな、ご主人様のような慈悲に溢れた優しいお方が」
エミは少なからずショックを受けているようだ。
「ま、まぁ向こうでの俺にも非がないわけではない······と思う。で、ここからが本題なんだが」
俺はな最悪の可能性、いや寧ろ事実をエミに伝える。
「この力は迷い人の持つ力の中でも最弱かもしれないんだ。貰える能力にはSからEまでのランクがあって、俺のはそのEなんだ。だから俺のクラスメートに遭遇したら迷わずに逃げること。俺の奴隷ってだけで襲ってくることも無きにしも非ずだからな」
「っく、私にもっと力があれば皆殺しにできるのにっ!!」
エミさんが恐ろしい事を口走った気がしたがきっと気のせいだろう。ここは日本じゃない。ここでは人殺しは結構軽くられている。
そして俺は覚えている限りのクラスメートの名前と特徴をエミに教えた。
「いいか、これは約束だからな。今あった奴らに遭遇したら必ず、迷わずに、全力で、逃げること」
「······わかりました」
悔しそうに了承してくれた。そして俺はエミは俺を見つめ言葉を続けた。
「そうですか······それでも私はご主人様の力が大好きですよ」
「まぁ使い方次第でなんとか·····ってえ?」
思わぬ返答に声が裏返ってしまった。
「私はご主人様の固有スキルが好きです。最強ではなくても最高です!」
「ごめん、よくわからないんだけど」
エミは咳払いして「それはですね」と得意げに続ける。
「ご主人様の固有スキルは大切な人が増える程に強くなり、その人達を守るモノだと思うからです!ご主人様が誰かを好きになって、その人がパーティーに入って、そしてご主人様は危険から私達を守ってくれる。そんな関係を築くための力なんですよ」
「大切な人、ね」
「沢山の人に囲まれて幸せを離さないために力を振るう。それってとっても素敵なことじゃないですか」
「そうだけど、それってエミ以外のパーティーメンバーが相当増える様な言い方だけど……いいのか?」
そう、俺もエミも互いのことを想っている。それなのに他のメンバーが介入してくるのはエミにとってはプラスにならない。
大切な人って男にそんな感情を抱くこともないだろうし。
「あぁ、そういうことですか。私以外の女性に対して特別扱いすることはどうなんだってことですよね?」
「うん、俺はあと数人しか入れないモノかと思ってたよ。それにエミは嫌だろ?パーティー内で恋愛のいざこざが起こるのなんて」
「私はご主人様を愛しています、この気持ちを馬鹿にしてくるような輩は迷いなく殺せるくらい。世界中を敵に回せるくらい……ってダークエルフだから元々か」
「え、あ、はい」
急な愛の告白に戸惑う俺にエミは告げる。まぁ、エミさんの自虐ネタにどう返していいかわかりかねるってこともあるが。
「ご主人様が例えどれだけの女性を愛しても、私に対する気持ちや行為を蔑ろにすることがないくらいにはご主人様、タケト様のこともわかっているつもりです」
タケト様という言葉にドキリとしつつ続く言葉に耳を傾ける。
「それなら多くの愛する人に囲まれたもっともっと幸せなタケト様の側にいられる方が私はもっともっともっと幸せです。そんな幸せを願うならいざこざなんてなんでもありません」
「そ、そうか。まぁ俺の国では一夫多妻制は認められてなかったからな」
「それでも気にせずに幸せを増やしていってくださいね」
「······善処するよ」
俺は苦笑いを浮かべながら了解の返事をした。
この会話の後、エミの俺の呼び方はいつもの「ご主人様」に戻っていた。
これから先、また「タケト様」と呼んでもらえるのだろうか、そうなことを考えながらエミと手を繋いで帰宅した。
生まれて初めての想い人にハーレム宣言をされるとはやはり【異世界】は色々凄い。




