012 貴方に出会うまで
残酷な表現が含まれます。ロリエミが苦しむシーンが嫌な人は読み飛ばして下さい。
一応後書きで読みたくない人用にまとめ書いときます。
いつからか私は両親と共に檻の中に居ました。
それでも毎日言葉を教えてくれたりお話をしてくれるパパとママのいるその空間は幸せでした。
パパとママはいつも優しいし、知らない人がご飯を持ってきてくれるし、いつも2人は私にご飯を分けてくれました。檻の中の生活が当たり前だったので辛いこともありませんでした。
ある日いつものように知らない人が訪ねてきました。そして檻の扉を開けて私だけを呼びました。
「こっちに来るんだ」
パパとママは泣きながら私に抱きついてきました。そして「こんなことになるなんて思ってなかった。産んでしまってごめんなさい。私達のことを恨んでいいのよ」と言ってきました。
なぜ2人が泣いているのかわかりませんでした。だって私は幸せだったから。何不自由なく生活できて、ずっと家族で過ごせて、ご飯が食べれて、本当に幸せで埋め尽くされた日々に何も不満はありませんでした。
「産んでくれてありがとう。私はとっても幸せだよ」
思ったことを言っただけなのに2人は更に激しく泣いていました。
「ちょっといってくるね」
知らない人にすぐ戻れると言われていたので何も不安はありませんでした。むしろ檻の外は初めてでワクワクしていました。
帰ったら外の話をパパとママにしてあげよう、そんな事を考えながら知らない人についていきます。
「ここに入れ」
知らない部屋に入れられて見たことない大きなパンの様な入れ物に入りました。
「このカプセルでお前の魔力を吸収する。激痛が走ると思うが気絶だけはするな」
知らない人が去ってから1人になって耳がおかしくなるくらいの大きな音がしました。そして体が焼けるほど熱くなりました。
そして訪れたのは――
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い
ただそれだけ。
頭の中がその言葉でいっぱいになる初めての感覚。喉が張り裂けそうなほど叫んでしまいます。
これが「痛み」だと知ったのはその後パパとママが教えてくれた時でした。
音が止むと知らない人が戻ってきて「今日はここまでだ。よくやったな」と笑ってきました。私は体が痺れて泣いていましたが褒められて嬉しかったのでお礼を言いました。
「ありがとうございます」
褒められた時はお礼をしなきゃダメだってパパとママが言ってました。叫んでしまったからかガラガラの声で申し訳ないと思ったのを覚えています。
檻の中に帰ってくるとパパとママが抱きついてきました。ずっと謝ってきます。
「どうしたの?」
何度も聞いているのにずっと「ごめんね、ごめんね」と言っています。2人が泣いているのは私のせいなのかと思って私も謝ります。
「ごめんなさい。これからはいい子にしてるから泣かないで?」
やっぱりダメです。2人は泣いたまま。私はこれからも家族で仲良くできるようにもっと『いい子』にしなくちゃと決意を固めました。
何度目でしょうか。
またこの部屋に来てカプセルで魔力を吸収して貰っています。痛くて痛くて辛いけれど絶対に死なないから大丈夫って知らない人は言っていました。
あの日以来毎日この部屋でカプセルの中に入っています。ここの人達は難しい言葉を使うので分かりにくいです。
私に何をしてるのかを聞いたことがあります。
「魔力吸収により限界値を超えたステータスは一時的に負の値になる。その状態を維持すると通常の速度では不可能な能力向上が望める。それに魔力を他国に売って稼げるから」
何故私だけなのか聞いたことがあります。
「この効果は幼少期のダークエルフにしか確認されていない。その対象であるお前は数的な意味でも能力的な意味でも非常に希少価値が高い。お前だけでなく他にも数百人もこの実験の被検体になっている」
いつまで続けるつもりなのか聞いたことがあります。
「成長抑制の薬を投与してるから死ぬまでだ。魔法使用不可の呪いまでかけてるんだ。逃げようなんて考えるなよ」
逃げようなんて思ったことはありません。毎日パパとママに会えるし、少しの間痛いだけだから。
でも、日が経つにつれてカプセルで過ごす時間が長く、家族で過ごす時間は減って行きました。
「体に耐性がついてきたから負の値を保つ時間を徐々に引き伸ばしている」
痛いのが長くなるのは嫌だけど少しでもパパとママに会えるのが楽しみです。別に辛くなんてありません。
それにカプセル内でも栄養の補給や、お手洗いもできるようになっていて、普通に生活ができます。
ただ、痛みが続くだけで。
そんな生活を続けていれば痛みにもある程度慣れてきました。もう、カプセルで過ごす時間の方がずっとずっと長くなっていました。
精神を安定させるために定期的に両親には会えましたけど。
それでも両親との時間は徐々に減っていき――
カプセルで過ごす時間は1ヶ月、家族で過ごす時間は1日。
カプセルで過ごす時間は3ヶ月、家族で過ごす時間は1日。
カプセルで過ごす時間は半年、家族で過ごす時間は1日。
カプセルで過ごす時間は1年、家族で過ごす時間は1日。
カプセルで過ごす時間は2年、家族で過ごす時間は1日。
カプセルで─────家族で────────1日────────────────5年─────家族───────1日────────カプセル───10年─────────50年──────100年─────────200年────300──600年───もう今日が何日目なのかも忘れてしまいました。
そして念願の家族で過ごすことの出来る1日がやってきました。
「おい、今日が休憩日らしいから出てこい」
外から声がかかりました。
また知らない人です。けれどもいつからか、出る度に違う人になっています。白衣はみんな来ているんですけど。
この知らない人も46人目になります。初めの知らない人は元気にしてるでしょうか。カプセルまでご飯を持ってきてくれる優しい人たちです。きっとどこかで休憩しているに決まっています。
「前の人はどうされたんですか?」
「俺たちは人間なんだ。化物の資源が馬鹿にしてんのか?」
「す、すみませんでした」
この時はまだ、人間とダークエルフの寿命が異なることを知らなかった私はなぜ彼が怒っているのか理解していませんでした。
「まぁいい。きちんと働いていたようだしな。こっちだ、ついてこい」
「はい」
白衣の人の後ろを歩きながら、久々のパパとママの再会に胸が高鳴ります。
今日はどんなお話をしようかな。勇者と魔王のお話の続きを聞こうかな。
「入れ」
今回はいつもの檻の中ではありませんでした。白い部屋の中に黒い箱が二つ。その中には目を瞑ったまま動かないパパとママの姿がありました。
──2人はもう居ない──
何となくわかりました。ただ寝てるだけではないと。
「パパとママはどうしちゃったんですか?」
46番目の知らない人に訪ねます。
「約六十年前に死んだらしい。お前はずっとこの研究に貢献してきた。だから普通そのまま処分される筈だが特別にこうやって形だけでも残してやってるらしいぞ」
「ありがとうございます」
私が頑張ったから2人はこんなに立派な箱の中に入れたんだと言われました。
「ありがとうございます」
私は何度もお礼を言います。パパとママに教わった通り、いいことをしてもらったり褒められた時には必ずしなくちゃいけません。
「ありがとうございます」
ふと小さな水溜りがあるのに気が付きました。こんな所にどうしたんでしょう。
「今日はこの部屋で自由にしていいらしい。泣き止んだら用意された飯食べとけ」
泣き止んだら? 自分の頬に手を当てると冷たい筋がある事に気づきます。どうやら水溜りではなく私の涙だったみたいです。
「どうして……」
どうして私は泣いているのか、考えても考えてもわかりませんでした。生き物は必ず死んでしまうとパパもママも言っていました。前回の家族で過ごす1日では2人に「次は会えないかもしれない。そろそろ寿命が来ているからね」と言われていました。
パパとママが死んでしまうことは心の何処かでわかっていました。
それでもふたりの最後は『普通はそのまま処分される筈』だったのに『特別にこうやって形だけでも残して』貰えたのです。本当に感謝の気持ちしかありません。
ご飯を食べて立派な箱の中にいるふたりと川の字になって寝ました。するともう朝になっていました。
「行ってきます、ちゃんといい子にするから安心してね」
2人からの返事はありませんでした。
『ごめんなさい』
部屋を出る時ふたりの声が聞こえた気がします。きっと気のせいですけど。
私はこれから1人で生きていかなければなりません。もっと『いい子』で頑張らないと。
「今日もよろしくお願いします」
知らない人に頭を下げて、薄着に着替えてカプセルに入ります。
――今度はもっと長いんだろうな。
何度も繰り返したこの動作も今回は少し違和感を覚えます。
――何かが足りない。
それが何かは分かりません。カプセルの中で目を瞑ります。いつ吸引されても大丈夫なように深呼吸して準備します。急にくるとびっくりしてしまうので準備が重要なのです。
ヴイイイイイイイィィィィィ
吸引が始まりました。頭が割れそうな痛み。身体が焼けるような痛み。喉が千切れそうな位に声が出てしまいます。今までこんなに痛かったことなんてないのに。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
こんなに痛いのはずっと前の初めての吸引の時以来です。でも今回はその時より痛くて、長い。
『これが終わったらまたパパとママに会える』から『これが終わってももうパパとママに会えない』になるとこんなにも痛くて苦しくて辛くて嫌で泣きたくなるなんて思っていませんでした。
そして思ったことも考えたこともない言葉を。誰かに向かって無意識に口が動きます。
「誰か……たす…け…」
そして何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返したこの行為で初めて“気絶”をしてしまいました。
ずっと前の初めての知らない人が言ってました。
『 このカプセルでお前の魔力を吸収する。激痛が走ると思うが“気絶”だけはするな』
あの人の言った意味がずっとわかりませんでした。どうして気絶だけはダメなのか、ずっと不思議に思っていました。
(……あれ? ここ……どこ?)
頭がガンガンして、視界はぐにゃぐにゃとねじ曲がっています。すると私の周りに知らない人がいっぱいて何やら話しているようです。
「あーまじか。めちゃくちゃイイ素材だったのに」
「過去の資料によると既に2500年は優に超えて使用され続けた良材料のはず」
「ここもこいつが最も稼いでいる。1日で平均30人が1ヶ月頑張るのと同じだけを吐き出すんだから」
「普通初回で気絶して処分なのにすげぇなおい」
「何が楽しくてそんな化物じみた年数を此処で過ごして来たのやら」
「俺らから見てもこの実験は狂ってるって思ったりするけどこいつはもっとおかしいな。金が出るから続けるけど」
「てかなんでたかがダークエルフごときがそんなに生きてるわけ? しかも成長してないし。こいつの担当者は?」
すると46番目の知らない人が部屋に入ってきました。ぼんやりだけどいつもの服装にいつもの声。間違えるはずがありません。
「あー、そいつは延命治療、成長抑制とか莫大な資金を注ぎ込んでるから半永久的に使用する筈だったらしい」
「なんでまた急にダメになったの?」
「そいつは両親と会うためだけにこれまで頑張ってきたらしいんだが、その両親も延命治療に耐えかねて寿命で死んだんだわ。んでそいつ頑張ってるから最初の研究者が『どうか両親と最後の別れまでさせて上げてください』って遺書に残してたらしくてさ。その当時両親まで治療するのを知らなかったらしくてここまで長引いたけどその望みを実現させてやろうって流れになったってとこかな」
「2500年前の遺書がなんでそんなにこの子の措置について影響を与えたの?」
「その遺書に『その子に【精霊の誓】を施した』って残されてたらしくてね。はったりかもしれないけど今となっては調べることも出来ないし保険でさ」
「【精霊の誓】ってなに?」
「え!? 知らないのかよ! 研究者の癖して」
「専門外のことには興味ありませんーだ」
「まぁ、簡単に言うと大昔の約束違えたら死ぬってやつ。こいつには死んでもらっちゃ困るからね。命をもって脅迫してるってわけさ」
「気絶してこの状態じゃ本末転倒な気がするけど」
何の話をしているのでしょうか? 頭に入ってきません。
「よくそんな長い間頑張ったのね。流石に私なら自殺してそう」
「俺もそう思ったんだが成長抑制には精神的なものも含まれるらしいからな、思考回路も子供のままなんだとさ」
「まぁ、どうせ用済みだから処分でいいの?」
「一応最後に確認しとけってさ」
いつもの知らない人が私の顔を覗き込んで話しかけてきます。
「おい、今から言うことに正直に答えろよ。体は動かせるか? 声は出せるか?」
「…………」
「はい」と応えようとしても声が出ません。
「やっぱりダメか。あの遺書さえなければ親に合わせずに済んだし、まだまだ現役だったかも知れねぇのにな」
「もういいぞ、捨てて来い」
ガラガラとベッドが知らない人たちによって動かされます。そして、暗い穴に投げ込まれました。落下していく感覚の中で私は再度気絶してしまいました。
小さい頃のエミは謎の施設に家族ごと監禁され、実験兼魔力の資源のために長い間実験台として利用されてきた。しかし、トラブルから体を壊してしまいゴミ箱(廃棄場所)に捨てられてしまった。
という感じのストーリーです。




