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009 おとこのこってこーゆーのすきなんだよね

  ふと目を覚ますと隣にエミが全裸で寝ていた。この事実を頭で理解するまで数分を要してしまった。


「一体全体どうしたってんだ……」


  ゆっくりと昨日の記憶を辿ってみる。


 ・ゴブリン狩り

 ・北沢高陽率いる5人組との遭遇

 ・集団リンチ

 ・おっさんに助太刀される


 なるほど、思い出してきた。確か宿に送ってくれる的なことをおっさんに言われたはず。でもなぜ裸?


  確かにこの部屋はベッドは1つだけしか無いため、ここ最近はエミと一緒に寝ていた。最初は「奴隷なのにベッドで寝るなんてとんでもないです」みたいな事を一生懸命伝えてきたエミも俺の「怪我人が安静にしてないと俺の治療の意味がない」という言葉に納得して寝るようになった。


  しかし、いつも服は着せていた。治療後は体を拭いて着替えさせてやり、俺は理性を抑え込むためになるべく端の方に離れて寝るようにしていた。


 それなのに。エミは裸でなおかつ距離、限りなく0に近い。控えめで可愛らしい胸部を遮るものもなく、嫌でも視界に入ってくる。


  え? 目線を逸らせばいいって? 寝違えて首を動かせないんだなこれが全く。やれやれなんだぜ。


  何が言いたいかと聞かれると「俺の理性がヤバイ」ということなんです、はい。


「はょぅ……ぃます。しゅ…じ……さま」


「っ!?」


  いつの間にかエミは目を覚まし俺のことを見つめてくる。いやらしい目線をしていたことはバレているだろう。こういう時はまず謝ることが肝心だ。一度宙に舞ってそのまま土下座する。


「おはよう、エミ。まず勝手にエミの裸を見てしまったことは謝る。ごめんね。でも起きたらこの状態だったわけで目の前にエミがいたわけであって決して最初から見ようと思っていたわけじゃないんだ。偶然こういう事になっただけなんだ。信じてくれ」


 ここぞとばかりの早口で俺の意思を伝達する。

 やっぱりエールの言った通りアナウンサー目指すべきだったかも。


「……ちがぅ…です。わたし…が……」


「え?」


  エミがこの状況について説明してくれた。


 どうやら怪我をした俺がおっさんに運ばれてきて、ベッドに寝かせてくれたらしい。


 その際、服は破れていたのでエミが処理して体を拭いてくれて、着るものもなかったため布団とエミ自身の体温で温めようとしてくれたらしい。


「ありがとうな。エミの一生懸命な気持ちは凄く嬉しいよ」


「ぁりがと……ぃます」


「ごめんな。体拭かせるなんて嫌な仕事やらしてしまって。でもほんとにありがとうな」


「ぃつも……拭いてくれて……ぅれし…ので……ごしゅ……さまにも……うれし……なって頂きたくて」


 何この天使。ぐうかわすぎやしないか。


「そっか。こんなに可愛らしい女の子に体を拭いてもらう経験なんてそうそう無いからラッキーだったわけだな!」


「か、かわいぃ……?」


  エミは顔を真っ赤にして目を逸らした。どうやら照れているらしい。非常に可愛らしい。


「それに……しゅじ…さまの体なら……いつでも……拭いてあげ……ぃくら…ぃ」


「え? なんだって?」


「んでも……ぃです」


  エミがボソッと何かを呟いたが、よく聞き取れなかった。



 ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎



「あいつらのせいで服がボロボロだよ」


  無事だった下着の上に鎧を装備。流石にパンイチで街に出れば社会的に抹殺されることくらいはわかっている。俺は新しい服を買いに行くことにした。服がないとこれから先不便だろうし。


「エミ!俺は新しい服買ってくるから」


「わたし…も……行きたい……です」


 エミが珍しく自ら外に出ることを志願した。俺的にはもっと休養してほしいところだ。


「そうか?服見るだけどけど……一緒に行くか!」


 でも女の子のお願いは断れないのが男というもの。致し方なし。


「は……い」


 一応差別対象になっているダークエルフのエミにはフードを深く被せ、目立たないような姿にさせる。


「これで目立たないだろう」


「わざわざありがとうございます」


 準備万端。宿を後にする。


 外に出たはいいが、ふとある可能性に気づく。


(クラスメートと鉢合わせした時の対処法を考えてなかった……。エミを危険に晒すわけにもいかないし、危なくなったらすぐ逃げれるように意識してないと)


「何かあればエミを守らなきゃな」


 俺は大事なパートナー――勝手に思っている――を危険から守る決心を口にする。


「ふふ♪」


 久しぶりに外を歩くのが楽しいのかやたらご機嫌なエミを見ていると、そう使命感が湧いてくるのだ。


  こうして見ると最初の頃とは見違えるほどの変化はエミにはあった。


 怪我が治ってからだいぶ明るくなり、自ら俺に話しかけてくるようになった。


 これはいい兆候だと思っている。


 最初出会ったときのあの表情を思い出すと確実に今の方がいい。生き生きとしてそれに毎日が楽しそうだから。


  そんなにエミはいつも頑張ってくれている。ベッドのシーツをしいてくれたり、服を用意してくれたり、知らないこと沢山教えてくれる。


 優しくて、思いやりがあって、頑張り屋。そんな彼女はその人柄に不相応な扱いを受けてきたのだろう。


 今は信頼できるパーティーをつくるため、奴隷として仲間に迎え入れた。だが、いずれは解放し幸せな日々を送ってもらう予定だ。


 しかしまずは――


「なにかプレゼントしてやろうかな……」


  俺の独り言は街の活気溢れる騒ぎ声に吸い込まれて消えた。



 ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎



  俺の服を何着か購入した帰り道。エミが急に立ち止まっていた。どうやらガラスケースの中にある腕輪に夢中になっているようだ。うっとりと眺めている。


 女の子はどこの世界でも綺麗なものが好きらしい。

【全てを見通す目】を発動し、その腕輪を鑑定してみる。


 

 忠誠の腕輪:奴隷が主への忠誠を示す為に装着する腕輪。忠誠心の強さに応じて最大3つまで装着可能。ただし忠誠心が腕輪の個数に伴わない場合、死亡する。3つの『忠誠の腕輪』をつけることは奴隷としての主に対する【絶対忠誠】の誓いである。



【絶対忠誠】:奴隷が主への忠誠を誓った場合得られるスキル。僅かな迷いなく『心』、『体』、『命』を差し出す覚悟を要求される。奴隷が主に助力する際、全ステータスが3倍になる。


  おいおい、付けたら死ぬかもしれない腕輪が欲しいのかよ。いや、エミはその事を知らないでデザインが気に入っただけかも知れない。


  俺はエミに疑問をぶつけてみる。


「エミ、これご欲しいのか? 欲しいものなら金が貯まればいくらでも買ってやるが、これは危ないものらしいよ」


「はぃ……知っています…」


「え!? これの効果知ってるの?」


「はい……有名な腕輪…です。奴隷……【絶対忠誠】の力に憧れる…多いです。3つまでつけれる奴隷は……今でもあまりいないです。それに私には…条件が」


「そりゃそうだよ。『心』、『体』、『命』なんて他人に易々と渡せるもんじゃ無いんだから」


「ご主人…様は他人なんかじゃ……ないです」


「お、おう」


 急に積極的にこられて少し照れてしまう。俺には勿体ないくらい良い奴隷だ。


「もし……条件が揃ったら、装着させてくれませんか?」


「気持ちは嬉しいけど危ないだろ。俺はエミに危険が近づく可能性があるなら、1つでもやめて欲しいな」


「大丈夫です!」



 いつになく強い口調でエミは俺に訴えてきた。


「その時はどうか挑戦させて下さい」


 真剣な目で訴えられるとなんでも許してしまいそうになる。あれだな。俺は尻に敷かれるタイプだ。


「考えとくよ」


 流石にすぐに確約できるような事柄じゃないために一旦保留にした。


「あ、自分のものしか買ってない」


 宿に着いてからエミの服がないことに気づいた。明日はエミの服を買いに行くことにしよう。今日明日と出費が重なるし、そろそろお金稼がなくてはいけないな。

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