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第4話 届かない冒険者階級の壁

前回のあらすじ:依頼は完遂しました

 荷馬車に揺られてミトラードのギルドに戻って来たのはすっかり昼になってからだった。たまにのんびり地上を行くと、地形も無視して飛ぶことが出来る鳥竜のありがたさを再認識するよ。

 既にギルドの依頼を取り扱うカウンターには冒険者たちの列が出来ていた。


「お疲れ様です。随分と早かったですね。飛竜の捕獲なんて2日3日掛かると思いました」


 なお依頼完了した件については領主のお抱え術師に送物風エアシューターで書筒をギルドの方に送ってもらってあるので、受付嬢を務める彼女も知っていた。そうしないと終わった作戦に冒険者たちが集まってくるからな。


「アレが戦い慣れた野生の飛竜種だったらそれくらい掛かったかもしれないけど、所詮は飼い竜だったから。魔力はあっても戦い方が拙くて助かった」

「敵が拙かろうが何だろうが偉業には違いないですよ。今度の査定審査楽しみにしててくださいね」


 受付嬢ちゃんが何か言っているが、それはあくまで一般冒険者の基準だ。俺は勇者パーティーを追い出された身とは言え、俺個人が求める基準は勇者パーティーのそれだ。それでなければ俺の目標である魔王の打倒は出来ない。


「聞けば現場にいた冒険者に援護させて1人で飛ぼうとする竜を落としたそうですね。流石完成した落伍者は成長中の方たちとはレベルが違いますね」

「実力云々は置いておいてその名前で呼ぶの止めてくれないか……」

「じゃあ2つ名を書き換えるほどの功を上げないといけないですね」

「勇者パーティーに参加して、追い出されたことに勝るだけの出来事ってどんなことだろうなぁ……」

「フォンさんの目標だった魔王討伐はどうなんですか? 達成したら爵位も貰えて、王様から領地も頂けちゃいますよ? 正直私個人的には『むぼーなやぼーを持ってるなあ』って感じですけど」

「領地貰って貴族になるというと聞こえはいいけど、実態は魔族の土地のど真ん中にミトラード王国の貴族領として配置されて取り返しに来る他の魔族の迎撃役にされるだけだからな。それに加えて魔王は強い。俺は直接魔王を見たことは昔1回あるだけだが、とても今の俺にも勝てる気がしない。そもそも俺は勇者パーティーを追い出される前に魔王直轄の配下と戦って死に掛けて——勇者たちと居なかったら多分死んでいたから」


 6柱の魔王と7人の勇者というこの世界の目に見える奇跡は、一介の人間が踏み入れられる領域にはいない。1年ちょっと前に俺は実力不足で弾き出されてしまったが、今も同行しているだろう勇者の妹ウィルや光の闘士ラフタ、常闇の魔女リースといった勇者の仲間たちは既に人間の枠から卒業する一歩手前だろう。

 俺も鍛え続ければいつか人の枠を打ち破ることが出来るのだろうか、もしそうでないとしたら、俺は一生掛けても好きだった女の子のたっての希望1つ叶えることが出来ずに死ぬかもしれない。

 もっとも他にやりたいことがないわけだし、精霊様から頂いた人生の歩み方はとりあえず今のところ絶対やりたくないということだけが明らかな状態だ。魔王と刺し違えて死ぬなら言うことなし。別に道に倒れて野晒しになったところで悲しんでくれる人もいない訳だしな。


「それで、依頼はないんですか? どうせ上がらない冒険者査定よりも依頼をくれ」

「あーん、イケずですね」


 茶化すように受付嬢さんは言うが、実際俺の査定は3年前に“上位冒険者相当”のお墨付きであるA級クラスを戴くに至ったが、そこから先には一切進めていないのが現状だ。

 ほぼ能力の似通った最下層のG級と違い、A級の内部に於ける格差は非常に大きい。まして俺が本当に欲しいものはそのA級さえ超えるS級――この世界に7人しかいない人界の勇者と肩を並べる力だ。


「他のA級冒険者の方々はもう少し楽しそうに冒険していますよ?」

「不幸面と楽しくなさそうなのは生まれつきだ」


 冒険者と一口に言っても、その糧食を得る方法は様々だ。日々の依頼を受け報酬を受け取り日々暮らす者。魔物を狩り、勇名を挙げ武で己の身を立てるためのステップにする者。人跡や魔族の城などの跡地を巡り隠された財宝を人の世に取り戻すトレジャーハンター。全てが冒険者ギルドに身を置いている。

 数もそう多くないA級ともなれば王侯貴族から破格の待遇での名指しの依頼なんかもあるらしい。俺が単独ソロ限定で修行ばかりしていたせいか今までそう言った依頼はなかったけどさ。


「そもそもA級レベルが楽しそうなのは冒険者なのに『冒険する必要がないから』でしょう。なんせあいつらほどになれば本当に魔王の現れる戦線にでも赴かない限り苦しい戦いをする必要すらないんだから」

「あいつらって貴方も同じA級ですけどね……。それが冒険者としての正しい生き方だと私は思いますよ。冒険はいつだって命あってのモノです。魔族の王を討つなんてこと、勇者に任せておけばいいんですよ」

「でも、俺には……」


 俺にはあまり時間がない。望む強さに近付けてもいない俺には経験値が足りないのだ。


「とりあえず煤で黒くなった頭と装備を綺麗にして、一度寝てから再度来てください。ギルドの受付としても、目の下にクマ作って帰って来た不眠不休の冒険者に依頼の受諾は認められないですから」

「分かりました。では失礼します。また夕方に来ます」


 カウンターに乗せられた大袋から、中身の1/2に当たる金貨を小袋に詰めてもらい、俺はギルドを後にした。報酬はまあまあな金額だった。飛竜一頭捕獲するだけでこの金額なら、魔族の領土を旅する冒険者たちは皆大富豪になれるだろうな、という程度には平和価格だった。


「じゃあなシルト。また困ったことがあったら呼んでくれ」


 帰り際に同じく報酬を貰いに来ていたシルトに声を掛けたが、返事すら返されずにツーンとそっぽを向かれてしまった。女の子とコミュニケーションを取るって難しいな。


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