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第3話 フォンとシルトとパーティーの盃

前回のあらすじ:主人公の強さはまさしく昼間の行灯のよう

 しばらく眠気に耐えながら竜の番をしていたが、やっぱり全力で『暗夜の帳』を発動した時の眠気は筆舌に尽くしがたい。舌を噛み、唇を噛み、爪を腕の肉に食い込ませても船を漕ぐほどに、眠い。


「シルト、後ロープの打ち込み頼む……。ちょっと疲れが……」


 眠気でほぼ行動不能に陥った俺の代わりに、村にあった一番強度のあるロープで飛竜を拘束して、地面に杭を打ち込んでおいてもらう。

 以前仲間だった数少ない俺と同じ加護を持っていた魔女・リースは「そんな反動ない」って言っていたが、それでも現に眠くなるのは俺の術習得の未熟さが原因なのか?


「駄目だな。考え事すると余計眠くなる……」


 迂闊に考え事をし出したせいで更に眠気が増したが、何とか舌を噛んで耐える。口の中に仄かな血の香りが漂うが、ここで迂闊に寝落ちしようものなら飛竜の夜食になりかねない。


「本当に飛竜を峰打ちで気絶させるなんて、ちょっとカッコイイじゃん……」

「そんなことよりシルトは怪我してないか?」

「そ、そんなこと!? ……私は別に怪我なんかしてないわ。ら――フォンさんのおかげで」


 シルトの蒲公英色の髪は月下に栄える。銀光の中で攻撃性やからかい精神が抜けた彼女は、俺とそう変わらない年頃の、年相応の女の子に見えた。腰に佩いたショートソードがなければだけど。


「いやいや、シルトもナイスアシストだったよ」

「無理に褒めてくれなくても効いてなかったことは自覚してるから」

「それでもありがとう」


 本当の勇者クージスなら光を捻じ曲げて作った分身で陽動し、人の枠を超えた身体能力で本当に殴って終わらせていただろうが、俺ではシルトの援護なしでは為し得なかったのだ。素直に礼は言っておく。


「フォンさんって、もしかして闇術も使えるの?」

「いや、俺は水と雷の『二重属性』だ」

「そっか、ならよかった。一瞬月明りに照らされたフォンさんの髪が黒く見えたからさ」


 どうやら術発動の瞬間飛竜の頭で目隠し出来ていなかったらしい。これは失策だった。


「は、はは……。そんな訳ないだろ……?」

「だよね。もし本当に闇属性の加護持ちだったら警務部隊呼ばなきゃいけないところだったし」


 ……一応今のミトラードでは闇属性の加護が法に違反してはいないが、もしバレたら私刑は免れないな、これ。とりあえず闇属性の加護に付加される『精神攻撃耐性』を動員して無表情を貫くことにした。


☆☆


 船を漕いだり起きたりを繰り返しながら待つことしばらく、馬3頭に荷台を引かせて例の貴族の家の従者たちがやって来た。みんな着ているものがところどころ焦げたり土埃で汚れているあたり、彼らも頑張ったんだろう。

 そこまでさせるなら竜なんて飼うなと言いたいけど、職務に忠実な方々の前で言うのははばかられたからやめておいた。


「報酬の方はギルド経由でお願いします。この度は大変ご迷惑をおかけしました」


 おそらくは貴族家の執事と見られるフォーマルな衣装に身を包んだ初老の男性は、そう言い頭を下げて飛竜を荷台に乗せて帰って行ったが、眠気が抜けない俺はほとんど何も聞いていなかった。

 眠りこけたまま荷馬車で運ばれていく飛竜の姿は、何故だか哀愁に満ちていた。


「これで終わりか。じゃあ現地解散で」

「そうだ、これからギルドに戻って私とフォンさんで一杯やりません?」


 ギルドに於いて共に1つの卓を囲み飲み交わすという行為は、生死を共にするパーティーの血の通いを意味するものだ。

 シルトがこの急造助っ人をそれだけの相手だったと思ってくれるのは嬉しいが、俺にはその杯を受ける権利がない。だって思いっ切り隠し事したままだし。


「せっかくのお誘いだけど、辞退させてもらうよ」

「えーなんでさー!」

「その……。卓を囲む相手は勇者と決めてるからな」


 最もその勇者も特定の個人ではない。勇者でさえあればクージス以外の奴でも問題はない。大事なのは俺と一緒に魔王を討伐してくれる相手だ。


「そんなに勇者が良いんですか? 今の勇者は全員男性だって聞いたんですけど?」

「ああ、屈強な勇者でなければ俺の望みは果たせない――ん? なんでシルトはプルプルしてるんだ?」


 何か気に障ることでも言っただろうか?


「落伍者の同性愛者あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 酷い誤解もあったものだと思うが、もう叫ぶ気力もわかなかったので俺は木陰に入って闇術で姿を闇と同化して寝ることにした。

 その夜、俺は夢の中で同性愛者と化したクージスとラフタに揃って追い回される夢を見た。熱く、苦しく、痛く鮮明な地獄を拝める酷い淫夢もあったものだ。


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