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2.5-閑話 たまごの話 後

 パタパタと嵐の様に、もしくは元ウサギの様に。

 ピョンピョン喜んでその場で跳ねるレインの姿に皆が笑う。


 あの子の周りは何時も明るい。

 私の悩み等何処吹く風と追いやってしまう。


 今から悩んでも仕方無い。

 確かにそうなのだが、過去の事柄のせいで不安はある。あるが、何となくあの子なら文字通吹き飛ばしてしまいそうだ。


「竜王様~、ここらでシート敷いてお茶にしましょ~!」


 早く蜂蜜を堪能したいのか、早速シートをバスケットから取り出して居る彼女を見て、メイド達も皆が微笑ましそうに笑う。

 マルティン等口許を隠してクスクス笑って居る。

 ベルは早くも食べたくてウロウロしっぱなしだ。


「マルティン」


「何ですか御主人様」


「レインにプロポーズしようとした時、わざと邪魔したな?」


「当たり前です。まだ御嬢様は幼く早すぎます」


 眼下の攻防を繰り広げ様としたら距離を開けられた。

 チッ。


「チッ、じゃ無いですよ御主人様。御嬢様はまだ適齢期前ですからね?そんなに結婚したいなら、今から婚約すれば良いでは無いですか」


 呆れた様に呟く執事に、私はそれだっ!と拳を握る。


「マルティン、お前は天才かっ!」


「…御主人様はアホですね」


「その毒舌は聞かなかった事にしておく。兎に角婚約か、うむ…婚約って何をするのだ?」


「…………」


「いや、すまん。私はそう言った事柄に関わった事が無くてな、その、婚約と言う名前は聞いた事はあるのだが、その手の話は詳しくは知らないから…」


 確かに御主人様は今迄御嬢様一筋で数千年生きてきたのだ。

 しかも殆ど俗世から離れたグリンウッドの木々の中で、ほぼ今までの生涯を守護竜として。

 だからと言って、この乙女みたいに手をゴソゴソして照れて居るのは頂けない。それでなくても今は大人の姿ではなく、御嬢様に合わせた年齢の姿になり、美少年となっている。


 …私はそっちの趣味はありませんからね。


 と呟くマルティンは、背後に居た最近入った新人の羊獣人、アンジーに向かって、


「竜王×腹黒執事of腹黒執事×竜王萌えるかも、と言う気色悪い発言は止めて下さいね?今後聞こえたら減給対象にしますよ?」


 と脅しを掛けてる。

 主人では無いのに減給ってお前…

 (腹黒執事と自覚してるのかと言うのはこの際放置)

 等と言えば、ニヤリと口許に人の悪い笑みを称え、


「御主人様も御嬢様以外は嫌でしょう?」


「確かに」


 レインなら、レイン相手ならどんな変な噂でも構わんぞ?


 既に尻に敷かれてるとか

 レインの顔色伺ってるとか

 レインに呼ばれると即返事とか

 レインに対して即抱き付くとか


 ………即押し倒すとか………


「紛うことなき事実じゃないですか」


 って呆れるなマルティン。

 事実だがなっ!

 お陰で最近はベル迄心配して、あまり二人っきりにしてくれないぞ?滅多に二人っきりに慣れないのに、やっとの事で二人っきりになったと思ったら、押し倒した拍子に合間に割って入って来るのだ。

 キスも落ち着いて出来んっ!


「それは自業自得です」


 って、それは言ったら終わりだマルティン。

 そこ、溜め息をつくな。

 呆れた眼差しで見るなっ!

 分かっている、彼女を見ると堪えきれないのだっ。

 解るか?何千年もだぞ?ずっと待ちに待った彼女だ。

 やっとの思いで生きている彼女をこの手で…


「御主人様、ゴニョゴニョとそんなウブな話されても気持ち悪いですから。そう言う反応は御嬢様の前だけにして下さい。長年の付き合いでも耐えきれませんから。と、そうそう。先程の話ですが、婚約ならこの国ですと普通は口約束ですが、記念に何かを贈ると言うのはありますね。街に行って何か記念の品を御嬢様にいかがですか?」


「…むぅ」


「後ろ見た方がいいですよ?」


 む?

 マルティンに言われて振り返ると、真っ赤な顔をしたレインがプルプルと…んんん?何だ?何を震えてるのだ?手に何かを持って居る?


「あ、あのぅ、これ、今朝オットーに私でも出来るものありませんかって。それで、その、教えて貰って、あの、あのっ」


 レインが手に持って居るのは…何だ?パン?クロワッサン?


「ポップオーバーって言うのだそうです、あの、お口に合うか分からないのだけど」


「レインが作ってくれたのか?」


「はいぃ」


「私の為に?」


 真っ赤な顔のままでコクコク頷く様はもう、なんと言うか…っ!


 こら背後、くっそ羨ましって言うなコラ。

 マルティン最近口悪いの拍車掛かりすぎだ。

 悪化し過ぎてるぞ。聞こえてるからな?

 チッって言うなコラ。


 ん、なんだ?お?レインどうした?

 真っ赤な顔で腕組んで?ン?


「エヘヘ~身長同じ位だからやっと腕組み出来ます!」


 本で読んで憧れってたんですって、か、かわい…


 マルティン、分かったから。

 背後から今押し倒したらマミュウの羽交い締め来ますよ?って言うな、脅すな、脅かすな。それ洒落にならんっ!マミュウの体術は名人飛び越えて達人級だから、食らうのは痛いし間接にビキビキ来るし、末恐ろしいのだからなっ!

 金輪際二度と受けたく無いっ!!


 レインに連れて行かれてシートに座って。

 周囲には小さな蒲公英や、種が飛んできたと思われる高山植物の花々が所々に咲いている。これ、後で花冠でも作ったらレイン喜ぶかな?等と思っていたら、ニコニコして居るレインの膝の上には問答無用でベル。

 …威嚇してないか、ベル?

 何故其処でじっとり此方を見る。

 気のせいか目が座ってる様に見えるぞ?


 レインが持って来たバスケットから蜂蜜の瓶を取り出し、半分に切ったポップオーバーに蜂蜜を乗せ、私に向かって……


「竜王様、はい、あーんっ」


 ニッコリ愛くるしい笑顔付で。


「…む?旨いな」


「ほんとう?美味しい?」


「うむ、旨い。もっと無いか?」


 愛くるしい笑顔のレインに此方も満面の笑みを称え、旨いと誉めると更に花が綻ぶかの様な、少しだけ恥じらいのある笑み。

 幸せだ。幸せ過ぎるっ!


「作って良かったぁ~」


 エヘヘ~と笑って頬をうっすらと染め上げ、ぽそっと「いいお嫁さんになれるかなぁ」と小さく言う呟きに、ついレインの両手を取って強く握りしめ、


「レイン」


「はい?」


「結「まだ早いですよ?」マルティン、遮るな!!」


 キョトンとしたレインは瞼を何度かぱちぱちと瞬きをし、「?」と行ったら感じで見詰めて来る。


「婚約しょう」


「………」


「レイン?駄目か?」


「………」


「嫌か?」


「あのぅ、こんにゃく?」


 おっと、そう来るか。

 割と古典的な古い言い方だな、回避の様だが嫌と言う訳では無いよな?チラリと横に居るマルティンを見ると、「ん?」と言う顔付。もしかして、知らないのか?


「婚約だ」


「んん、と~…」


 予想通り、こてんと小首を傾げて「ん~?」といい始めたレインに対し、マミュウが耳元でこそっと、「御嬢様、結婚の約束をしようって事ですよ?」と告げると、



「エエエエエエエエエエエエエエエエーーッ!」



 周囲に大絶叫をあげた。


「ぴ、ぴゃぁあ…」


 両手で顔を隠し、それでも隠しきれて居ない部分が真っ赤に染まって居るレインはすっかり挙動不審になり、口にする言葉は以前の様な「ぴゃぁっ」とか、「ぴぃ」とか、それもしかしてウサギ語?と思う様な事をいい、耳まで真っ赤になりなから俯いて居る。


「嫌か?」


「ひゃぁあ…」


 真っ赤な顔のまま、ぷるぷるし始めたレインに「?」となりながら、言いたい事は全部言っておこうと伝える。


「返事は今で無くてもいい、でも考えて欲しい。私は将来レインと結婚したい。駄目か?」


「ふ、ふにゃぁあ~…」


 って、え?レイン!?

 顔真っ赤にして倒れたっ!!


「はぅ、幸せ過ぎて倒れます~…」


 いや、もう倒れてるからっ!

 大丈夫か!?

 顔から湯気出てないか!?

 抱えると真っ赤に染まって居る顔が更に赤くなったぞ?


「ふにゃぁ…わ、私が竜王と、えへ、えへへ…恥ずかしい~…」


 ぎゅっと抱き締めると、「ぴゃぁっ」と言う声が上がるが嫌がる素振りは無い。

 これは、いいのか?嫌われては無いのは知ってるし、好意を抱いて居るのも知ってるが、受け入れて貰えるのか?


「レイン」


「はぃぃ」


「婚約してくれるか?」


「はい」


「…本当に?」


「は、はい」


「将来、私と結婚してくれるか?」


「はぃぃ…竜王様とで無いと嫌ですぅ…」


 げふっ。

 最後の最後でレインにカウンター喰らった。

 真っ赤に染まって居るレインの顔が嬉しそうに笑み、そのぷっくりとした唇に触れようとしたら………


 まぁ、周囲には他に人が居たがな。

 だが誰にも邪魔され無かったぞ?

 軽く触れるだけのキスで止まったせいかもだが、何よりレインが心底嬉しそうに頬を染めて居てくれた事が何よりも嬉しい。


「レイン」


「はぃ」


「婚約の記念に何か贈るから、今度街で一緒に探そう?」


「え、い、いいの?」


「ああ、レインに贈りたい」


 ぴゃぁっ!と両手で顔を隠してしまった可愛い婚約者の額にキスを落とし、頭を撫でつつ周囲からニヤニヤした妙な雰囲気を感じ、レインから顔を上げると…


 いや、いいけどな?


 マルティン、どさくさに紛れてマミュウに「私たちも婚約しょうか?」とか、今仕事中だろお前……

 そんな二人を見てるエイミーって、此方は?

 ベル、無視してレインから貰ったポップオーバー食ってるし。イヤに食い意地はってるな、中味アドニスじゃ無いだろうな?

 …アンジー、何故メモってる?何?一言も漏らさず歴史書と言う本によって後世に残す為?いや、残さなくて良いからな……普通に祝ってくれ。

 リアムにキーラはいい子だな。「「御嬢様、竜王様おめでとうございます!」」って、何だか素直なその祝いの言葉、泣けて来たぞ……。



「竜王様」


 腕の中で真っ赤な顔はそのままで、嬉しそうに微笑むレインはそっと私の頬にひとつ可愛いらしいキスを落とし(そのキスに内心悶えたのは秘密だ)、


「なんだ?」


「私、出来たら竜王様と同じ物が欲しいです」


「婚約の記念の品を御揃いでか?」


「はい、あの、駄目ですか?」


「いいや、御揃いにするか」


 だとしたら身に付ける物が良いか、何にしようか。

 やはりアクセサリーの類いかな?ピアス?ネックレス?それともノーマルに指輪か?街に行くのは何時にするか、とか色々考えつつ。


 …私達より先に従者の二人が結婚しそうだな~…と、主人そっちのけにしそうなマルティンが「仕事中でしょうっ!」とマミュウから張り手を喰らう。あいつも尻に敷かれるタイプかと見れば、ニヤニヤと嬉しそうな顔。


「マルティン、お前真性のドM属性だったのか」


「馬鹿な事を言わないで下さい。誰がですか」


「マルティンが」


「いくら主人でも怒りますよ?」


「マミュウに張り手喰らって気色悪くニヤニヤしてるお前に言われたくは無い」


 するとおや?と言う顔。

 おおぅ、無意識か?


「マミュウ相手限定なら目覚めたかも知れません…」


 あ。

 レイン半目だ。これドン引きしたな。

 マミュウも半歩下がったぞ。

 エイミーは苦笑いだ。

 ベルはただ食ってる。…やはり中身アドニスじゃ?

 アンジー妙なもんメモるな。「後世に残すべきでしょうか?」って聞くな。返答出来ん。と言うか、残してどうするんだ?

 リアムにキーラは聞かなかったフリか、スルースキル高くないか?普段から何かしらの訓練してるのか?


 リアムとキーラを見習って、マミュウ限定で変態化しつつある(?)マルティンを生温い眼差しで見詰め、普段の皆の視線の理由が分かった気がすると自覚しつつ…



 城下町行くなら、昔馴染みの鍛冶屋に顔を出すかなぁ…レイン紹介したいしと思う。


 青い空には白い雲。

 太陽が照す世界。

 気持ちいい風が吹き、久々に空の散歩もしたくなって来るがそうなるとレインを置いて行くのは頂けない。

 何時か一緒に空をゆったりと散歩しような?と言えば、「はい!」と言う耳に心地良い返事。


 幸せだな…



 …あれ?たまごの話何処に行っちゃった?

 とか言うレインの声に「?」となったのはまぁ、別の話。


プチ情報←

・ポップオーバー

硬めのシュー生地の様なモノ。二つに切って中にパンの変わりに色々な食材を挟んで食べると旨い。ふわサク食感が癖になる。

・ピース(前に登場)

この場合キルト用語。平和ではない。カットされた布地の一枚のこと。

・ピースワーク

ピースを接ぎ合わせる作業のこと。ピーシングとも言う。





無駄で余計なプチ情報←←


筆者キルト歴そろそろ六年目……

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