2.5 不機嫌なウサギ26
ひゃぁあああっ
もう悲鳴しか出せないよっ!
もっとも舌を噛みそうだから口は開けないけども!
大きな、とは言っても竜化前は子供の姿のせいか、最初に会った時よりも小振りな姿の少し幼い竜王様は、背中に私と護衛のリアムさんに魔法の先生のザジさん(と言ってもザジ先生は飛竜族特有の羽根を広げ、少し宙に浮いている)を乗せ、ウィングダス上空を首都に向け移動中。
そんな私の回りには、小さな精霊のアレイスタちゃんとルーナちゃんが付かず離れずついて来る。
竜王様の足元には民家の屋根の上を風の様に疾走しているアンバーさんと料理長の隻眼のオットーさん、最初竜王様が躊躇したマミュウさんが着いて来ている。
竜王様がマミュウさんになぜ躊躇したかと言うと、マルティンさんの件が気になったみたい。最近マミュウさんとマルティンさん、何とか恋人になったらしく竜王様としてはそんな二人を引き離すのが戸惑われた様だけど、マミュウさんが頑として私付きのメイドで、その仕事に誇りがありますからと私からはなれる事を嫌がった。それならば決して無理はするなと固く約束させてたけども。
アンバーさんの肩に、屋根の上を走り抜けて居る人達に風の支援魔法を掛けて速度アップと疲労軽減の魔法を掛け、支援をしている黒猫のベルちゃんが乗っている。
ベルちゃんは先程一時的にアドニス様になり、「この数は俺だけでは裁ききれない」と、竜王様に援軍を頼んだ。確かに古城から見ただけだと分かり難かったけれど、こうして上空から見下ろすと良く分かる。何と言ってもモンスター達がグリンウッドから埋め尽くす様に犇めいて徐々に進軍して来ている。一体何時の間にこんなに集結して来たのだろうか?
まるで何処からか移転して来たか、湧いて来たみたい。
おかしい。
小首を傾げてグリンウッドの前方を見るが、モンスター達の犇めいて居る姿しか見えない。その先が暗闇のせいか、視界が遮られて居るせいか、全く判断が出来ない。
アドニス様は私の知らないうちに黒猫のベルちゃんでは無く、本体の姿で首都である隣街に来ており、大統領官邸周囲に潜伏していたとのこと。
「隠密で大統領秘書官のクロウ暗殺するかと思ったから、マルティンに頼んで少数精鋭で来たのに、まさか大軍で押し寄せて来るとはなぁ。まんまとしてやられたわ~」と、相変わらず何処か軽い口調で述べ、竜王様に援軍を頼みつつ必ずベルちゃんを連れて来る様に頼んでいた。何でもベルちゃん一匹だけでも竜王様の10/1クラスの威力になるからとか。
ベルちゃん凄いねっ!
…対比がアドニス様じゃないのは何故なのかな?とはちょっと思ったけど、それは後で知ることになった。
時々眼下の暗がりで閃光が光ると、アンバーさん達の後方に沢山の人形である以前私が襲われたホムンクルスが倒れ伏して居る辺り、かなりの数が町中に潜んで居るのだろう。
と言うかあのホムンクルス、この争いが終わったら後始末大変かも知れない。以前は中の核を壊して居たけど、複数のホムンクルスの核が入って居る部分と思われる場所が跡形も無く破壊されており、部品がバラバラと屋根に散らばっている。
「竜王様、水道橋の周囲が」
上空から古城から城下町迄伸びている橋ーー…街を守る様に立てられて居る水道橋の目前には大量のモンスターや人形が群れをなし、ウィングダス国の古城があるアルトグレイと首都であるアンリミテッドに襲い掛からんと次々と湧いて向かって来ている。
その数凡そ数千万。
ぼそっと呟いたザジ先生の声で数が分かったが、数の桁が今だ理解しにくいウサギにとっては"兎に角沢山"である。
『国をもぎ取りに来たか』
独りごちる竜王様は呆れた様に眼下を眺め、
『ザジにリアム、隣街の大統領官邸は見えるか?もしくは大量の人や何かが争って居る姿は確認出来るか?』
竜化した竜王様の言葉に目が良いリアムさんは「はい」と頷き、
「隣街の外れで抗争している様です。恐らく其処がアドニス様が居るかと」
と言った途端、眼下のアルトグレイや隣街の首都から一斉に犬?セントバーナードやシベリアンハスキーにパピオン、ドーベルマンにチワワ等のワンちゃん達がそれぞれ後ろ足二本で立ち、手には各種様々な武器を手にして家々から飛び出して来た。
『来たか』
「ええと?」
飛び出して来た犬ーー…この世界ではクーシーと言う犬の種族で、獣人の彼等は非常に優れた優秀な軍隊にもなり、そのクーシーはこの街の自警団を結成している。その彼等が立ち上がって奇襲に迎え撃って出たのだ。
「お、来た!」
リアムさんが言った方向に顔を向けると、白い統一した短いローブを纏った獣人達が各々杖か、もしくは弓を手にして水道橋迄たどり着くと一斉に構え始める。何故か傍らに花火が入って居る箱が置いてあるのは……多分、いや、恐らく投げ付けるのだろう。
爆発すると聞いたし、かなりの火力なのかも。
(敵も早まった時期に来たのではないかなぁ)
「此方も来た様です」
ザジ先生が言った方向を向くと、空一杯に飛竜族が飛び交い、各々武器やら何かを背負って居る。
『一族全員で来たのか…皆、感謝する』
竜王様の側まで飛んで来ていた飛竜族の人々は竜王様のこの言葉に歓喜し、泣き叫び、咆哮した。
「ウィングダスを守るぞっ!」
「「「「「おうっ!」」」」」
「やるぞっ!」
「「「「「おうっ!」」」」」
「親、子供、女房、恋人達を守るぞっ!」
「「「「「おうっ!」」」」」
「将来の嫁さんもな~!」
「将来の旦那もー!」
とか何とか聞こえて来たのは…うん。
ザジ先生が「すいません、うちの一族団結力が時々変な方向に向かうんです」と呟いたけど、女の人の声で「明明後日結婚式だから今夜中に始末よ!」と聞こえて来ました。
…う、うん。頑張る。
次々と団結して集結し、集まって来る味方を後にし、竜王様はアドニス様の元へ向かう。途中敵が貼ったと思われる結界をザジ先生が崩し、その間に背後の喧騒を振り返る。
ーーまるで絵本で読んだ昔々のおとぎ話の戦争の様。
でもこれは絵本ではない、私の目の前で起こって居る現実だ。
『レイン、今から君にはキツイ事柄を目にする事になる。今更帰れとはもう言えぬが、覚悟はいいか?』
「はい」
覚悟はもうとっくに出来てます。
惨劇等野生のウサギの時に何度も嫌でも目にして来ている。
確かに人とウサギでは違う。
でもーー行かなきゃ駄目。
分かってる、行っても役に立たないって事は。
それでも私の中で膨らむ嫌な予感が一向に消え去らない。
このままこの古城に残るだなんて、嫌な予感が的中してしまうっ!
それに先程聞いたマルティンさんの言葉が耳に残って居る。
「先程御主人様はずっと御嬢様と手を握って居たでしょう?どうやらそれで少し空気中や地下から魔力を補給してたらしいのですが、御嬢様が離れたらどうしてるのか気になって気になって仕方無くて、気も漫ろで上手く制御出来ないらしくて」
それに少し前迄熱があったのですから、魔力欠乏されたらいくら不老とは言えど、マルティンさんとは違い『不死』では無い竜王様が…
怖い。
呪いまで負って居るのに。
子供の等身になって居るのに。
私が死ぬのはいい。
また生まれ変われば良いのだから。
出来れば回避したい案件だけど。
でも竜王様は駄目。
多分死んだらーー今世では2度と会えない。
私の寿命がどれくらいなのか女神様は口にしなかったけど、何故か頭で理解している。竜王様の呪いの寿命とほぼ同じか、それより少しだけ長いだけ。
(恐らく十年も無い…。)
それだけしか時が無いのだから、竜王様は死なせない。
死なせてたまるかっ!
元ウサギの根性みせてやるっ
個人的にザジ先生の一族が好きなので(笑)、出番増やしてみました。本来なら飛竜族はあまり強い種族ではない設定ですが、やらかしそうな気が………
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無関係なあとがき↓
リネージュ2レボリューションだったかな?携帯ゲームが国内で事前登録始まりましたね。
………ドワーフがじいちゃんじゃないっ!
エルフまな板じゃないっ!
ダークエルフ銀髪じゃないっ!?
ヒューマン?ん~…うん。
兎に角ドワーフ!じいちゃん返して!私の癒し!じいちゃんカムバック!!




