2.5 不機嫌なウサギ18
「誕生?」
大精霊が誕生するって聞こえた様な?
『そうじゃ。次の第七番目の土の精霊じゃな。…フローは間に合わなかったのか、それとも態と来なかったのか、じゃな…』
ミトラさんの目が細められ、少しばかり辛そうな面持ちになりました。そう言えば以前、土の精霊さんと火の精霊さんのフローさんは恋人同士だったとか。竜王様みたいな番システムはこの星だと大精霊には五番目迄しかなく、番同士では無かったと聴いた事があります。
『フローはもしかしたら先日の件もあって、ケンネルかカーター、最悪の場合ミサに捕獲され、一時的に此方に来れぬ様な気もしてきたがの…』
何でもフローさん、火の精霊らしいってばらしいのですが、ファンダムで大暴れてしまってボヤ騒ぎと言うか火事を起こしてしまい、只今その代償で街の仕事をさせられて居るとか。
それって、大精霊としてどうなんでしょ。
てか捕獲って、それってどんな扱い?しかも最悪の場合とか。ミサさんって怖い人なのかなぁ。あれ、ミトラさん「ミサに捕まるとか恐ろしい」とブツブツ呟いてる…う、うん、見なかった事にする!と言うかミサさんと言うお名前覚えとく!主に危険と言う意味で…。
チラリと竜王様を見ると、お顔ひきつってますね。あ、マルティンさんも呆れた顔付き。と言うことは二人は面識あるのかな?マミュウさんは表情に出て無いから知らないのかも。
うん、ミサさんは"危険"っと。
それに先程の500年ぶりと言う言葉。
もしかしたらフローさんの誕生に立ち会ってるのかな?
「む、そろそろか。レイン出て来るぞ」
「え」
慌てて土の山を見詰めると、高さは一メートル越えてちょっと私より低い位の高さに迄土が盛り上がり、天辺の辺りの土が下に少し落ちる。
あれ、そう言えば精霊さんって子供の姿で産まれるのかな?それとも大人?竜王様は今は私と同じ位の背丈だから子供位の大きさからかな。それとも赤ちゃんみたいに小さいのかな?まだ人間とか獣人の赤ちゃんって絵本でしか見たこと無いのだけど、どうなんだろう。
うん、何かワクワクする。
可愛いかなー?
それとも土の中からだから格好いい?
でも土の精霊さんって事は土竜さんみたいとか?
気になるっ!
「もう少し下がろうか」
竜王様に手を引かれて後ろに数歩下がります。土の山の天辺から土煙が挙がって来て、ちょっと掛かりそうになったから何だろうけど、竜王様って私に対して過保護だなぁって思って居ると、
『出て来たのじゃ』
にょきっと小さい手が山の上から飛び出て来た。
「器用なタイプか」
「え?」
『土や火はの、誕生した最に真っ先に出て来た身体の一部分でタイプがあるのじゃ。とは言え確実では無いかも知れんのじゃがの』
空中に浮かんで居るミトラさんは少し高めの宙に浮きながら、上空から見詰めて居る。
『竜王、妾は居城があっても土のは大きいからの、育成は出来ぬぞ』
「分かってますよ姉上」
『おまけに精霊界に土のは連れて行けぬ。寿命が縮むのでの』
ん?ミトラさん居城があるのかな?それに精霊界って?前に絵本で読んだ精霊さん達がいっぱい居る世界なのかな?
私が絵本で見た精霊さんの世界では、精霊王と精霊女王が二人で仲良く精霊界を納めていて、時々訪れる精霊さん達が『異邦人』と呼んでいるこの星の人を何とか元の世界に戻すお話だった。
でもその世界では入る事は出来ても出る事は出来ないと言うお話で、精霊王が女王と異邦人と三人で苦労して此方の世界の扉を開き、そうして異邦人は帰って行った。
ただし精霊王の死を知らずに。
異邦人を帰すにはとてつもない力が必要で、精霊王は気に入った異邦人を帰してやりたいし、女王が好きだから女王には負担を掛けない様に全てを担い、そうして力を使い果たしたーーと言うお話。
子供用の絵本にしてはやけにお話が具体的で、シビアな感じがしたから詳細に覚えている。
そう言えばミトラさんって精霊女王だったよね…
ミトラさんを見ると、『うさちゃんは連れて行っても大丈夫じゃがの、入ったら最後出れぬから駄目じゃの』と。
「出れないの?」
『竜王とも会えないかも知れぬぞ?』
ーーそれは嫌。
竜王様と繋いで居る手にグッと力強く握られ、我に返る。ちらりと竜王様を見ると、目を合わせた途端にフルフルと頭を振って居る。
うん、大丈夫行かないから。
『そもそも精霊界とこの世界との根源が違うからの。我等精霊は何ともなく束縛されずに出入り自由なんじゃ。まぁうさちゃんには関係ないじゃろうから気にせず、安心して欲しいのじゃ』
ふんっとふんぞり返って答えるミトラさんは、もしかしたら精霊界があまり好きでは無いのかな?と思える。
少なくともあの絵本の話が【本当】ならだけどね。
「何だかフラグみたいでやだなぁ」
ってアドニス様、余計な事言わないっ!
「ならアドニス様が行っちゃえば?」
ぷくっと頬を膨らませて言うと、
「えーヤダ」
って私だって嫌ですよ。
『妾もアドニスが来たら煩いから嫌じゃ』
「うわ、ひどっ!」
『そもそも女神が煩いから行かせんぞ?』
その言葉にアドニス様が嬉しそうに笑います。うん、安定の賑か担当夫婦ですね。
「ぴ、うにゅ~…」
ん?あれ?土山からひょっこりと小さなお顔が覗いてる?此方を見て瞳をぱちぱちと瞬きをし、口をあけて大きな欠伸を一つ。
わぁ、ちっさい!
人間の赤ちゃんってこんな感じかなぁ?
お手手ちいさ~ぃ!お顔もちっちゃい!可愛いぃ!
こっちを見てから頭を振って土や埃を落とし、「んしょんしょ」と土から出て来た。
「かわい…」
あ、マルティンさんがおもむろに何処から出して来たのか、はたまた持って来て居たのか、タオルケットを取り出して「う~ん」と唸ってる???
「マルティンさん?」
タオル掛けないの?
「いやぁ、困りましたね。私だと拒否されてます。フロー様やアニタ様に、前の方々なら拒否されなかったのですが。今回初めてですかね、こんなに拒否られたのは。マミュウはどうですか?動けます?」
「私も駄目みたいです。前に進めません」
タオルを持ったまま「困りましたね」と言うマルティンさんに私はミトラさんを見ると、「妾は最初のファーストコンタクトは干渉できぬのでの~」とのこと。
「私も最初は無理だ。属性が違うから反発する」
竜王様はそう言って上空を仰ぎ見て、
「土の精霊達頼む」
「「「「「はーい!」」」」」
きゃあきゃあ言いながら楽しそうに小さな精霊さん達が、生まれたての土の精霊の赤ちゃんの元に飛んで行こうとしたら、
「やぁ!まーまー!」
て、えええええええ!?「まま!まま!」と言って私に飛び込んで来たぁ!?
「え、嬢ちゃん産んだ?」
ごふっ!と拭いた竜王様は兎も角、「あ~兎に角ファーストコンタクトは出来たし、やっと動けましたねぇ」って他人事みたいに言うマルティンさんって!
『ほう?うさちゃんを選んだか。良かったの~土の娘っ子』
ほくほくした顔でミトラさんは言うけど、何か違っ!
「いやいやいや、選んだって何ですか~っ!?」
展開が遅くてすいません(;^_^A
尚、フローの火事騒ぎはまだ『異世界転生したのはいいけど、この身体俺のでは無いようです!』には書ききって居ない部分です。その為展開が違くなってしまう恐れがあるので、大雑把に表現しております。




