2.5 不機嫌なウサギ8
はぁ~…
何だか溜め息が聞こえます。
何でしょ?ん~?と思って目を醒ますと、目の前に美少年。
心臓に悪っ!
いや、竜王様だってのは判ってますけど、でも何故溜め息?というよりは吐息?竜王様?顔が赤い?
「可愛い…手が出せない…」
朝から不穏な言ってますよ竜王様!駄目でしょっ!
「御早う御座います?」
はい、何故か疑問系です。うん、竜王様何してるの?
「御早う」
で、じーと私を見下ろして居る。
添い寝してたからお互い隣り合わせで寝てたと思うのだけど、この構図って私ベットに押し倒されてません?
何で竜王様朝から私に覆い被さってるの?
「レイン」
「はい」
「御免、限界」
「え?」
ええっ!?まさかまた私朝から押し倒されてされちゃうの?!
ぎゅっと目を閉じてドキドキしつつ、どうやって逃げよう?と思っていたら、ぽてんと私の胸元に竜王様の頭が乗っかってきて、そのまま停止。
…竜王、様?
何だか呼吸が早い?あれ、さっきより顔が赤いし苦しそう?
「竜王様?」
額を触ったら熱いって熱!?
わっわっ!
どうしようとワタワタしてたら、コロンと竜王様横に転がって、辛そうに………
「べ、ベルちゃんいるっ!?」
見当たらないので慌てて声を出したら、ベットの下から黒猫の姿が飛び出して来て、にゃあ!と鳴く。
「ベルちゃん誰か呼んできて!竜王様が熱いの!熱あるみたい!」
***
『むぅ、珍しい事もあるもんじゃの』
面白いがの、と。クツクツと笑う精霊女王で竜王様の御姉さん、ミトラさんが御見舞いに来てくれました。何でも、『竜王の気配が一気に薄くなったので見に来たのじゃが、息災かの?』と言った具合に。
『大方可愛いうさちゃんにのぼせて気でも失ったかと思うたが、似たような物じゃったのじゃ』
今度はぷくくくくと笑い、ベットで寝ている竜王様の横に飛んで行き、
『魔力欠乏症か、何を仕出かしたのやら。のう、マルティン、御主は知ってるのじゃな?』
クスクスとずっと笑って居る横で、マルティンさんは昨夜伴って来た私の魔法のザジ先生と一緒に何かを煮詰めてます。これ、なんだろう?ちなみに場所は竜王様の部屋の中何ですけど、魔石と宝玉を幾つか出していてって、中身の魔力?を鍋の中に入れて行ってます。確か宝玉って高価な物だったような気がするのだけど。
…初めて見ました。
でも魔石の方が好きかな。竜王様の瞳の色と同じで、ライトブルーの色彩は光が当たると輝いて綺麗。じっと魔石を眺めていたら、マルティンさんが此方を見て居ます。…何でしょ?
「マルティンさん?」って言ったら目を細めて来て、「何でもありませんよ」って。
でも何だか嬉しそう?
「さて、出来ました」
ザジ先生がコップに何かを入れていて、近くに寄って覗いて見たら薄い青い液体の匂いの無い液体?
「これは魔法薬で、魔力を使いすぎた人向けの即効性の魔力回復薬ですよ」
何でも竜王様、昨夜魔力を使いすぎてしまったのに未だに継続的に魔力を使って居るから、中々回復しなくて。その為に魔力欠乏症の症状が出てるって…
「恐らく子供体型になった為に大人の時の様に魔力が回復しにくく、その癖グリンウッドの方に継続的に魔力を使って居るから回復しにくいのでしょうね」
無茶をし過ぎです、と呆れてブツブツ文句を言うマルティンさんは困惑した表情で此方を見てくる。
…うん?
「では私はこれで」
と、ザジ先生が後程また授業で会いましょうねと部屋を去って行き、マミュウさんは私の部屋に授業の支度と掃除をしに行ってしまい。
…んんん?何か作為的な気がするんだけど?
『うさちゃん、妾は何かあったら不味いかも知れぬから、ここに居るからの』
気にせずとも良いのじゃと言われ、「ん?」となります。
「御嬢様」
「はい?」
「御主人様起こしても起きなかったら…お願いします」
はい?
ん~?
マルティンさんが「お薬ですよ」と竜王様を起こして居るけど起きず。うん、何となく察して来たかな~…
トトッと竜王様のベットに寄って寝ている竜王様の首の下に枕とクッションを入れて高くし、次に顎をつかんで鼻を摘まむ。その隙にスプーンでお薬を1匙掬い、口が息を吸うために開いたら1匙分口の奥、喉の辺りに流す。…うん、飲んだね。
マルティンさん「御嬢様なかなか非道」って云われたけど、この方が早いじゃない。
多分口移しでやらせようとしてたんじゃ無いかな~って思うけど、お薬口にしたくないもんっ!苦かったら嫌!
ヒョイヒョイと何度か口に運んで行くと、竜王様の目が開いた。
「起きた?」
「…ん、ああ」
少し声が枯れてるな~でもお薬を1匙分掬って、「お薬です、飲んで下さい」って「あ~ん」って入れて行くと、文句言わずに飲んでくれる。全部飲み終り、竜王様の額に触ってまだ熱いなぁって思っていたら、マルティンさんが「お水飲みますか?」と聞いてコップを寄越してくれた。
それをじっと見詰める竜王様。
「やってしまった……」
ん?何が?と思ったら、コップの中の水が凍ってる。
「子供の時以来だ」
何でも小さい時、よく周囲の水を凍られてしまって困ってしまったとの事。水の竜王なのに氷らせるとは、と子供の頃によくマルティンに文句を言われたよと苦笑している。「でもまあ、魔力が少し回復してきたと言うことなのだろうな」と、言ってまた目を閉じます。
「少し寝る。…皆有り難う」
***
音を立てず、静かに部屋を去って行く後ろ姿を僅かに開けた薄目で眺めてつつ、竜王は長く吐息を吐く。
「…マルティン報告を」
「体調は宜しいので?」
「構わん」
では、とお茶等が入ったカートの真ん中にある引き出しから封書を取り出し、マルティンは部屋中に結界を施す。そして封書に魔力が籠った封印が施されて居る為、手を翳し封を切る。途端に部屋中に何かが割れた音が大反響を起こし、その様子を見て居た竜王が疲れた顔をする。
「嫌な封印だな、耳が痛い」
「今はコレが一番安全なんですよ」
御嬢様が間違って開いてしまっても大きな音がするだけですしと言われ、成る程と納得をする。
「次の封印は別の遣り方になるでしょうから、多少耳が痛くても我慢して下さい」
確かに毎回違う封印が施されて居る。
大した情報が入って無くても毎回常に魔法による封印が施されており、これは三百年位前から変わって居ない。
書類を取り出し、中をざっと見たマルティンは内容を読んでいく。
「和の国の戦争が激化し、周辺国を巻き込んで居るのは以前話ましたが、同時に疫病が発生して居ます。またグリンウッドと同じ様に周囲の木々や草花が枯れ始め、グリンウッドとはまた違った現象が表れて居るようです」
「続けてくれ」
「黒点が発生しております」
「黒点?」
「黒い斑点の様な物が植物に付くと一晩で枯れ落ちます。その黒点が和の国を中心にし、周辺国に漏れ出しているようです」
「その言い方だと故意にしていると聞こえるが」
「恐らくは」
「症状は私の【黒ノ浸蝕】に似て居る、と」
「…はい。まだ人体に被害は上がっておりませんが、恐らくはそうでしょう」
成る程、と、竜王は目を閉じる。
「マルティンはどう思う」
「確実に裏に邪神が居るでしょうね。ですが少し…」
其処でマルティンが考え込んでしまい、竜王が口を開く。
「誘い、か?」
「いえ、どちらかと言うと背後には邪神が居るのは確実ですが、間接的では無いかと。恐らく直接的に関与しているのはエルフでは無いかと推測されます」
「証拠は」
「調べて居る最中ですが、行く先々でエルフの影がちらつきます。まだ尻尾を付かんで居ませんが、恐らくエルフの長が関与して居るでしょう」
「あの狸か」
はい。と一言言い、マルティンは封書に書類を仕舞う。
「燃やすか?」
「いえ、この程度なら支障はありません。それより御主人様、御嬢様の件ですが」
「…構わん。姉上が来ているから少し位、敷地内ならば大丈夫だろう」
どうせレインに付いて行ってるだろう?と述べると、その通りと言う返答が来る。
「それより和の国の戦争次第では…」
恐らくこの国、ウィングダスと開戦するだろう。
それも周辺国家を取り込み、近いうちに…。
本来ならミトラさんはゲストキャラだった筈なのですが、やたら出番が…




