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2.5 不機嫌なウサギ3

 …いかんな。


 少し眠い。

 ベットに居るレインを見ると、絵本を開いたままスヤスヤと眠っている。起きていたら少し散歩にでも誘おうとしたが、起こすのは可哀想だしとベットに寄って絵本にしおりを挟み、開いていた本を閉じようとすると、


「港?」


 横に数冊ある絵本等にも海や舟の絵。

 興味あるのか?

 サラサラと流れる前髪を撫でつつ、ここに拉致同然で連れてきてから少し経過した月日を振り返る。

 …全く外に連れ出して居ない。

 和の国の事とエルフの事、オマケにグリンウッドの悪化のせいでモンスターが沸いて来る様になり、それらはこの古城で街に行かない様に塞き止めて居るが何時まで持つか解らない。

 それに場所も場所だからと言うこともあり、外の空気を吸わせたのは情勢が比較的安定していた大統領のパーティーの時のみ。しかもほぼ抱き上げて居たから彼女は自由に動いていない。(先日のホムンクルスの時は敷地内だしな…)国の情勢の事もあるから大統領の様な者達と少しでも繋がりを作って措かねばならぬし…


「これではストレスが貯まる筈だな」


 ふっくらとした柔らかそうな唇に手をかけ、ツンツンとつつくと「ぴ」とか「ぷ」とか、少し前までウサギであった時の様な声が聞こえて来る。

 その声がもっと聞いて居たくてつついていると、イヤイヤと首をふり嫌がられてしまう。仕方無いと今度は唇を人差し指で撫でると、ピクリと肩が震える。いかんいかん、此れでは起こしてしまう。名残惜しいが指を放す。


「もう少し待ってくれ。見習い達が慣れてきたら一緒に街に行こうな?」


 その為に雇ったのだ。

 今はエルフの件が厄介だが、例の妖精の子対策で変装させて出掛けられる位は出来るだろう。


「…問題は私の身長、か?」


 先日リアムに言われた事を思い出す。


「身長でばれるらしいからな…」


 この世界の太古の竜人はどうやら長身らしく、更に自身は身長が高いらしい。マルティン曰く、城下街の男性の平均身長は170~185センチらしく、自分は軽く頭一つ高い。

 さて、どうするか。

 やれなくも無いが抵抗もある。あるがレインと共に出掛けたくもある。


「ふむ…」


 片手を見詰め、徐々に小さく縮む手を凝視する。


「初めて使ってみたが、案外上手く出来るものだな」


 手だけではなく、身長も何もかも縮んだ。

 ベットから降り、縮んだ身長のせいで服がだぶつき動きにくい。

 壁にかかっている姿見を覗くと小さな子供が写る。ライトブルーの瞳に紫色の髪の毛。色彩の変化は無いが、年齢は10歳位だろか。レインよりも少しだけ身長は高い気がする。髪の毛は肩に掛かる位で然程長くはなく、身動きが取りやすく邪魔にはならない。


「力の変化は無いか…」


 身長の変化は慣れるしかないかと思っていると、


「だぁれ?」


 キョトンとした柘榴色の赤い瞳が不安に揺れている。


「ここ、竜王様の御部屋だよ。今は私がいるけど、あの、間違えたなら早く出ていった方がいいよ?」


 おずおずとした感じで述べると、ドアはあっちと指を指してくる。

 少し怯えた状態のレインに近付くと、不安げに瞳が揺れてスススッと後ろに下がる。


「あ、あの、ドアはあっちよ」


 再度指差してあっちに行ってと言う風な態度をとり、壁際に移動して行く。よく見るとプルプルと震えている気がする。


 …これは良くないな。

 ベットに載って側に寄り、


「レ、「やっ!来ないでっ!」」


 パスンッと枕を投げ付けられ、すっかり涙目で震え出すレインに困ったなと思案する。

 何時もの癖で右手で眉間を押さえると、「あれ?」と言う言葉がレインから漏れてくる。

 小首を傾げて「ん、ん~…?」と唸りだし、


「あのぅ、もしかして竜王様?」


「…正解」


 良く分かったなと答えると、「他の人より直ぐに距離を縮めて来たから」とか、「小型版」とか…。


 小型版って何だ…。


「驚かせてすまなかったな」


 と話して頭を撫でると頬をうっすらと染め、ふふっと機嫌の良さそうな笑みを浮かべる。

 ん?何故頬が染まる?やたら顔を見るのは何故だ?子供になったから面白い顔にでもなったのだろうか?普通だと思うのだが。ううむ、謎だ…


「どうして急に子供に?あ、もしかして月齢が関係してるとか?」


「いや、それはないな」


 ーん?何だ?やけにニコニコしてるな?


「りゅーおーさまっ」


 うぉっ!?

 …………押し倒された?


「わ~っ!初めて成功っ!」


 何だ?私をベットの上に押し倒し、やけに機嫌良くしているが?

 そのまま胸元にレインが頭を乗せてきて、猫だったらゴロゴロと喉を鳴らす勢いで甘えて来るが、はて?


「うん?」


 どうしたんだ?と問うと、


「何時も急に飛び付いても微動だにしなかったから嬉しくて!」


「…もしかして何時も押し倒してみたかったとか?」


「うんっ!」


 そのままゴロゴロと擦り寄ってくる子猫みたいなレインの頭を撫でつつ、


「帰宅した時とか飛び付いて来るのは押し倒してみたかったからか?」


 すると、私の前でプクッと頬を膨らませ、


「違いますぅ~っ!あれは、その…嬉しくてつい…」


 ゴニョゴニョゴニョと小さく何かを呟くと、急に「あのぅ」ともじもじとしてくる。

 何だ?


「ちょっとベットから降りて立ってくれませんか?」


「別に構わんが」


 降りて立つと服のだぶつきが気になり、裾を折り畳んで袖を捲る。それらをしている間にレインは横に立ってニコニコしている。

 はて?と思っていると、「えへへ~♪」と言って私の首に抱きしめて密着し、擦り寄ってくる。

 …何なんだこの凶悪な可愛さは。堪らないではないかっ!


「身長あまり変わりませんね、年齢も同じくらい?」


「そうだな」


「え~と、どうして急に子供の姿に?」


 キョトンとした顔をして抱き締めている形のレインは目が酷く嬉しそうで、もしかして悪戯でも思いついたか?と思っていると、「ていっ!」と掛け声と共に、私の耳を掴もうと手をのばしてきた。

 予想通りの行動だったので難なく避け、その手を掴むと途端にプクッと頬を膨らませ、「え~っ」と抗議の声を上げてくる。


「こら、え~ではない」


「う~!」


 悪戯っ子め。

 うっかり弱点がバレてから時々狙っているのを知ってはいたが、もしかして抱き付いて隙をついたのか?と問うたら目が動揺して泳ぐ泳ぐ。わかりやすすぎるぞ。


「次やったら悪戯し返すぞ」


「ひゃうっ!」


 そうびくつくでない。

 結構傷付くぞ…


「それは兎も角。先程の質問に答えるが、変装しようかと思ってな」


 そこで私は先程思っていた事柄を述べる。雇ったばかりの見習い達がもう少し修練し、事態に慣れてきたら一緒に街に行こうかと思って居ると告げると、キラキラした期待に満ちた瞳で見詰められる。


「街に行けるの!?」


「ああ、もう少ししたらな」


「竜王様も一緒に?」


「そうだ」


 わぁああっ!!やったーっ!と元気よく跳び跳ねて抱き付いてくるレインを抱き止め、あ~…そうか、今は無理があるか。

 抱き止める事が出来ずにレインと共に床に尻餅を着いてしまい、共に吹き出す。「失敗したな」と言えば嬉しそうに笑い、


「子供だからですか?」


「恐らく。体格差と慣れもあるかもな」


 クスクス愉しそうに笑う君に、つられて笑う自分。

 知らなかった。

 こうして君と共に過ごす時間は、凄く嬉しくて楽しいものだな。

 やっと、手にいれた……


「ふむ、よし。レイン」


「はい?」


 立ち上がり、今だ尻餅を着いたまま床に座って居るレインに手を貸して立たせ、


「外に散歩に行こうか」


「え」


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