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城の大きな扉の前で、黒猫のアドニスは歩を止める。
今居る場所は普段マルティンが結界を多重に敷き、決してウサギに見られない様にしている。
理由は簡単、この重厚且つ大きな黒ずんだ扉の先が問題なのだ。
そう言えばこの城の扉は全て主である竜王の身長に合わせ、平均して2.3メートル程あると聞いた事がある。
執事であるマルティンが唯一失敗したと言って居た事柄だ。
失敗した理由は簡単。
竜王が帽子等被り、少し踵が高めの靴などを履くと当たるのだ、入り口の上層部の部分が。
そのせいで過去に主に恥を掻かせてしまったと、マルティンは目に少しだけ後悔を滲ませて淡々とアドニスに話した。
竜王は身長が高い。
それはこの国で見ても背が高い方であり、もしかしたらこの世で一番背が高いのかも知れない。
竜化しても一番大きな竜であったせいかもしれませんね、と言って昔アドニスが武器で困り、マルティンに認められた時に話した事がある。
そんな昔話を思い出しつつ、アドニスはマルティンが苦労して多重に掛けた結界をいとも簡単に解除し、扉に手を掛けた。
「嬢ちゃん、これがこの城と竜王の隠している秘密だ。この光景を見て、嬢ちゃんが竜王の事を受け入れるかどうか、覚悟があるかどうか考えて欲しい」
そう言って、アドニスは目の前の扉を開放しーー
「これは…」
ウサギは絶句した。
言葉が出ない。
扉の先に広がる無数の墓と言う名の石の羅列。
数十、否、数百を越えて居るかも知れない。
奥に目をやると長方形の石が風化し、崩れかかり墓か何か判りにくい物もある。
「私、の…」
比較的新しい墓標が目に付き、其処までふらふらと歩む。
その間アドニスはぽつりと「窓ガラスが塞がれていた原因は、この中庭が理由だよ」と告げる。
掃除をしたのか、他の墓標よりも比較的新しい墓には、他の墓には無い花束が置かれて居る。そしてその墓に並ぶ様な同じ石で出来た墓々。
「その墓は一番最後の墓であり、俺と竜王が出会った頃に作った墓だそうだ」
ひとつ前のウサギの墓。
年数を見ると、305年程前だ。
「この前迄は最低でも二、三十年に1度は嬢ちゃんは産まれ代わって竜王に会いに来ていたらしい。…もっとも既に事切れて居たらしいが」
説明しにくいのだろう、アドニスは扉を開けてからウサギと目を合わせない。
「大半は嬢ちゃんのだが、弟や家族のもあると聞いた」
墓石に名前が記載されているのは持ち物等に名前が明記してあった為と言われ、確認する。
レイン
ほぼ記載されている私らしき者の名前はこの文字のみ。
時折レインと並んである名前は弟のだろうか。
スコール
フレイ
ライト
……
様々な名前がある。
恐らく弟の名前は固定して居なかったのだろう。
その辺りも亡き両親らしいと言えばらしい。
それでも比較的スコールの名前が多目なのは、姉であるレインに合わせてなのかも知れない。
そして、父と母の名前。
これに関しては多彩だ。
アメーミア
キラ
雲英
ラドー
ブルネイ
…
時折和の国の様な文字が入って居るが、キラと言う名が多い。
何か意味があるのだろうか?
「マルティンに聞いたんだがな、此処にある墓はほぼ朽ちないんだと。最初竜王が魔術を使ったのかと思ったらしいが違うらしい」
サクサクと敷き詰められた芝生の上をアドニスは先に歩き、ウサギを振り返る。
「嬢ちゃんの力がこの地に満ちて居るのが原因だと。…なぁ、何故だ?何故死んでいる筈の嬢ちゃんの力が此処に集まって満ちて居るんだ?」
キラがやたら多いのは、吉良吉田駅←
と言うのは違って、ぶっちゃけ何となくです。
今のところ特に意味はありません。
多分(笑)




