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子ウサギは竜王様に甘え倒したい11


「う、そ」



ドアを開けて漏れ聞いてしまった言葉に頭の中は支配されていた。


しぬの?

竜王様しぬの?

何で?


目を擦って俯く。


私、喉が渇いて、ええとそれから、お腹も空いてきて、それで。


順を追って思い出す。

どうしてここに来たっけ?

部屋に誰も居なかったから。だから部屋から出て、そうしたら隣の部屋から声が聞こえて。だから、だから…



「りゅ、おさま」


「うさちゃん、あのね」



女神様の声が聞こえる。



「うそ、だよね?」


「お嬢ちゃん」



アドニス様の声が聞こえる。



「うそ…」


「…」



竜王様からの声だけが聞こえない。

否定でも肯定でもない無言。

それはつまり……………


事実だと言うこと。



「いやぁああ!」





***





走って、走って。

ただ闇雲に走って。

屋敷の中を走り抜けて。

気が付いたらーー禁止されていた屋敷の外にいた。



「う、そ」



屋敷の入り口は遥か後ろにあって。



「やだ、やだ」



少し私が居る後ろには屋敷の門。



「なんで」



私の前には崖があって、



「どうして」



私はネグリジェのままで、



「りゅ、お、さまぁ」



その場に崩れ落ち、



「どうして?」



目の前の光景に戦慄いた。


混乱している今の私には『よくわからない』。

目の前の森が、眼下に拡がる森が全て枯れ落ちて居るということが。あれは確か私が産まれ育ったグリンウッドの筈。竜王様が守護についていた筈の森。それが何故か、この古城の周囲数百メートル先から線で仕切られた様にはっきりと色褪せて枯れている。まるで何かの力が失せた様に。



「竜王様が守護から抜けたせい?」


「違う」



背後から声。

その声に震える。



「どうして」


「元々この世界は崩壊が始まっている。これはその兆候に過ぎない」


「どうして?」


「第七番目土の精霊アニタが亡くなった今、私が居ても居なくても止められぬ」


「…どうして」


「和の国が開戦した。それが切っ掛けで」


「どうして!」


「…」


「どうしてどうしてどうしてどうしてどうして?どうしてなの!」



震えていた私に背後から抱きしめられる。



「泣くな」


「ふ、ぇ…」



その言葉に、私の目から勝手に涙が流れて居ることに気付いた。

でもどうでもいい。私が泣いていようが事態は何一つ変わりはしないのだから。

ファンダムに居る弟は大丈夫だろうか、ファンダム傍に居る仲間達は大丈夫だろうか、産まれたばかりの小さな赤ちゃんウサギ達は大丈夫だろうか?色々頭の中をグルクル回る。

でも、それら全て私を抱きしめて居る竜王様の事の方がとても大事で。

私は酷い。

皆より、会ってまだ間がない竜王様の方が大事なのだから。



「いやです」


「…」


「いなくならないで」


「…」


「『黒ノ浸蝕』は病気ですか?」


「違う」


「教えて、下さい。それは何ですか?」


「……全身に黒い模様が刻まれやがて死に至る。呪いだ」



出来れば教えたくは無かったと呟かれた声に、私の身体がふるりと震える。

呪い。

この世界で五番目の竜王様程の人がその身に受ける呪いってーー…



「治せないのですか」


「出来ない」


「どうして」


「…何度も試したし探した。勿論君の捜索とグリンウッドの守護の合間にだが」


「私より竜王様の命の方が」


「君に会いたかった。呪いなんてどうでもいい」


「でも!」


「呪いを施した相手は昔アドニスと共に封じた。外なる神だ。ここの世界では邪神と呼んでいるが」


「邪神を倒せば」


「アドニスと二人掛かりでやっと封じる事が出来た相手だ。倒すのは私達だけでは無理だろう」


「そんな……」



目の前が真っ暗になる。

魔王であるアドニス様と竜王様の二人掛かりで倒せないなんて。




*** *** ***





「ファラン」


「なぁに、アドニス」



黒猫姿のアドニスの頭部を撫でるとサラサラとした手触りが心地好い。腕の中に大人しくして居るアドニスを見ると、彼も心地好いのか目を細めている。



「なあ、俺、竜王の傍に行ってていいか?」


「それは常にってこと?」


「…うん」



それはつまり、邪神と再び戦うという決意をしたと言うこと。

今はアドニスは本来の力が失せた状態だが、何か目処があるのだろうか。もしかして先日の子かしら?それに『妖精王』の件もある。あと光と闇の精霊の件も。

少しずつ世界の崩壊が始まった途端、今までどうしても集まらなかったパズルのピースが徐々に集まって来る。まるで何か、誰かが引き寄せて居るかの様に。

ーー(ハク)君だったかしら。

グリンウッドの中心部にある都市に居る彼。彼が来た途端色々な事が一気に動き始めた。


死ぬ筈だった竜王の番。

死ぬ筈だった精霊王の器。

生まれ変わる事が出来ない筈だった光と闇。

そして、運命が変わらなければ番に会うこと無く死ぬ筈だったーー竜王。

本来なら『星の乙女』に話を聞きに行くべきでしょうが、彼女には激しく嫌われているから無理ね。



「ふふ、それじゃあどっちが家出したのか分からないわね?」


「うん、ごめん。時々は本体に帰るから。ベルも自由にさせたいし。ベルはさ、嬢ちゃん気に入ってるから俺が居なくても傍にいるつもりらしいし」


「待ってるわアドニス」


「うん、有り難う。ほんと俺いい嫁貰ったよ」


「あら、今頃分かったの?」


「気が付くの遅くてごめん」


「いいのよ」



黒猫姿の夫を撫でながら、寂しくなるわねと思うのは許してね…



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