口角を上げて髭をピーンと伸ばし
side.レノ
「うわああああんっ!嬢ちゃん竜ちゃんひさしぶりぃいいいい!」
ギャンギャン鳴きながら真っ黒い弾丸、黒猫のアドニスがダーンッ!と言う音を立ててレノに抱き着き、もとい体当たりをしに行った。それを難なくヒラリと躱すと案の定「ふぎゃぁ」と言う声とガンッと言う音。
「竜ちゃんのいけず…」
部屋の壁には激突したのか、黒猫のアドニスがシクシクと泣き真似(?)をしながら床に伸びて居た。
「きゅ~」
ウサギの召喚獣のみーちゃんに頭をナデナデされながら、これぐらいなら治療など要らんとレノに一刀両断されてしまったアドニスは、
「数日ぶりに会えたのに酷いわっ!」
と、どこぞの女か?と言わんばかりの台詞を履いている。
しかもノリノリで。
「それは何かの物真似か?」
「そ!城下町で新しく出来た最新式の劇場での演目の一場面だぜ~♪」
「という事はやっと出来たのだな」
レノとアドニスの二人でうんうんと頷いて居る最中、ウサギだけがキョトンとして二人の会話を見て居るが会話の腰を折って聞いて良いのかどうか戸惑って居るらしく、キョトキョトと首をふって両名の顔を見ている。
「ご主人様、アドニス様」
マルティンが壁に執事として立ちながらもコホンと咳をして促す。
「あ~ごめん、嬢ちゃんは知らなかったよな。先日の襲撃で街の建物があちこち壊れたり崩れたりしたんで危険なんでね、其処の住人に話して移って貰って別の土地に家を建てて住まわせたんだけど、前に住んでた跡地に劇場を建てたんだよ。皆の娯楽用にね」
その際襲撃で職を失った者を従業員として雇って建物を建てたりしていたのだが、その建物が完成し、今度は有志を募って演目を催す俳優等も臨時で募集し始めたとの事。
「元々は旅芸人が細々と演目を各地で披露していたのだが、今回念願の劇場が出来上がったからな。住民も娯楽が増えた事によって少しずつ先日の事柄に何時までも心を傷めずに済むようになるだろうし」
演目を見て心に余裕が出来ると良いなとレノは呟く。
「それにグリンウッド周囲の各部族の村はほぼ壊滅的になってしまった所があるからね~。今回の件で出稼ぎに来ている者も居るし、孤児やスラム化を防ぐ為にも復興支援等には力を入れないとダメだしね」
アドニスがうんうんと首をふって言うと、やっとウサギが声を発する。
「すらむ?」
「ああ。孤児や無職のモノ等が街中を彷徨ってしまう様に為る、すると人数が増えると犯罪が増える様に為る。そしてそう言った者は街の外れやあまり治安の良くない場所に住まいを作ってしまい、やがてその場所が貧民街と呼ばれる犯罪者の巣窟の様な場所を作ってしまうのだ」
「ケースにもよるけどね~。で、竜ちゃん達はそう言ったのを防ぎたいのさ」
ん~?とコテンと小首を傾げて聞いて居るウサギはイマイチ飲み込めないのか、少し思案顔をして話を聞いて居る。
ちなみに話して居る黒猫のアドニスの横には未だみーちゃんが居て、アドニスの頭をよしよしよしよしとまだ撫でて居る。もしかしたら撫でるのが楽しいのかも知れない。
「あ、そこちょっと掻いて」等とアドニスが注文している辺り、既にもう人間捨ててるだろ。とレノは呟きそうになるが、既に人間から逸脱して魔王だったと思い当たって沈黙してしまう。
最も今は誰がどう見ても黒猫の姿なのだが。
「それがどうして劇へ繋がるの?」
「まず街の復興をする。とすると、人は合間に休憩や楽しみが欲しくなる。何時も働いてばかりだと疲れてしまうだろう?」
「うん」
「そして…うむ、そうだな。例えばウサギなら時折蜂蜜が欲しくなるだろう?」
「うん!」
にこ、と笑う顔にレノは微笑ましくなって抱き締めたくなるが、そこは堪えて話を続ける。
「他の人もそうなのだ。ただこの場合は娯楽なのだがな」
「娯楽…」
「そそ、嬢ちゃん楽しい事だよ」
「劇って楽しいの?」
見た事ないからわかんないですと言うウサギにアドニスはニヤリンと黒猫の口角を上げて髭をピーンと伸ばし、
「フフフフ~なーんとアドニスちゃん!この後劇場見に行こうと思ってチケット貰って来てるんだよね。丁度三枚あるし、一緒にいかね?」
「え、でも私がこの部屋から出ちゃうと皆が戻って来れなくなっちゃうし」
「そうだぞアドニス。ウサギがここから動くことは出来ん」
「いやいや、それが出来ちゃうんだな~」
ニマニマとアドニスが笑い―…
「エトナ神聖国とカタルシス大国の両者の使者から友好にと進呈されたホムンクルス、良かったら使ってみねぇ?」
久し振りのアドニス成分を(笑)
彼が一人居ると台詞が多くなる(^^;
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