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餌、じゃなかったみたいです

 起きた時に牙のお兄さんーー…ええと、竜王様が唸って居たのと同じ様な状態になってます。

 理由は、あの、その、ええと…



「私は君を餌だとは思って居ない」



 じっとライトブルーの瞳で、私の目を見て話してくれました。


 何故牙のお兄さん、竜王様がこう言って居るかと言うとーー…



「だから言ったじゃないか、ちゃんと口にして言わないと誤解してる可能性があるって」



 今は黒猫さんの身体を借りているアドニス様がこう竜王様に言いました。

 何でも、三百年程昔にアドニス様は竜王様に借りが出来たとかで、時々借りを返したくて来ることがあるのだとか(今回はアドニス様の奥様が原因なので様子見に来てるらしいですが)。



「そう、だな…」


「そうじゃなくてもお前は口下手なんだから、態度だけではなくちゃんと言わないと伝わらないぞ?」



 無言で頷いて居る竜王様を見ていると、大きな子供に黒猫さんが諭して居る様に見えます。

 最もこの部屋の中で子供なのは私だけなのですが。


 その私ですが、混乱しています。


 だって、私ただのウサギですよ?

 今は確かに人間の子供の姿になってますけど、元は子ウサギなのです。

 それが、あの…

 そっと黒猫さんになっているアドニス様を見ると、「あ」って言う顔をして、そそくさと窓辺にあるバルコニーへと去って行きました。でも心配らしく、ちらり、と猫耳が開いている窓の隙間から見えてます。

 ちょっと可愛いです。



「あの」



 勇気を出して声を出してみます。

 だって、そんなわけ無いって。

 確かに一度『次生まれ変わったら旦那様は牙のお兄さん、竜王様がいいな』って思いました。でも、だからって…



「私、ウサギです」


「知ってる」



 ゆっくりとした仕草で竜王様は私の前に目線を合わせて屈み、



「今はこんな姿してますが」


「姿なんて関係ない」


 ライトブルーの瞳で私を見詰めて、


「でも」


「それを言ったら私は竜だ」



 確かにそうですけど



「種族が違いすぎます」


「関係ない」



 真っ直ぐに見詰められて、どうしたらいいのかわからなくて。

 私はその竜王様の視線から逃れる様に目線を外し、



「でも」


「好きだ」



 目線を外した私の頬を、竜王様は両手で包み、



「長い間探していた」


「それは(つがい)だからでしょう?」



 先程番とは何なのかと聞きました。

 竜人や一部の古い種族にのみあると言う、対となる相手が決まって居る存在だと。有名な所だと、第三番目の光の精霊様と第四番目の闇の精霊様が番だと言います。

 離れる事が出来ない、魂で呼び合うそれが番だと。

 本来なら産まれて直ぐに呼び合う、そんな存在で出来る筈だったのが、外から来た害悪である邪神によりシステムの改悪がされてしまい…

 その改悪の影響によって、私や竜王様がずっと巡り合え無かったと。



「それだけではない」


「まだ、私達会ったばかりです」


「ああ」


「グリンウッドで私、竜王様の餌になるものだと思ってお腹出して食べて貰おうとして、全てを諦めました」


「…」



 驚いてますね。

 竜王様の目が大きく見開かれています。



「私には弟が居ます。少し前にテイムされて別れました」


「ああ」


「竜王様の餌になったと思って、生きるのは諦めました。けど、せめて弟の名前が知りたくて」


「…ん」


「竜王様から逃れて、せめて弟の名前を知りたいと思って必死でした」


 無言で竜王様は私の頭を優しく撫でてくれます。

 今だと何となくわかります。

 竜王様はあの時私に会えた事が嬉しくて、他が見えて無かったのでは無いでしょうか。

 多分ですが。

 不器用な人なのかも知れませんね。



「私、竜王様のこと知りません。つい先程まで牙のお兄さんって自分の中では呼んでいたくらいです」


「え?」って呟いて驚いてますね。

 だって竜王様のこと知らなかったのです。



「それに、急に知らないこの場所に連れて来られて」


「すまない」


「あと、傷が治っていて、人間になっていてーー竜王様がこの世界の第五番目の原始の水の精霊様で、混乱してます」



 また私の頭を優しく撫でてくれます。

 先程アドニス様は竜王様のこと口下手だって言ってましたが、本当みたいです。苦手らしくて、でも顔を見ると困惑したような、どういったら良いのか考えて居るみたいで。

 口より、竜王様の場合は顔をみたら考えて居る事がわかるような。裏表が無い人のような。


 少し、竜王様のことわかったかも知れません。



「話すの遅れてすまない。私はなんと言うか、昔から喋るのが苦手で」



 少し間があきます。

 恐らくどう話したらいいのか、言葉を選んでるのでしょう。

 小さな声で「ええと」とか「うー」とか、聞こえてきます。


 ふと、窓辺から音が聞こえて来たので目線を向けると、黒猫のアドニス様がピンクの肉球がついた猫の手で「ファイト!」と、竜王様に右腕を振って応援してます。

 竜王様が言葉に詰まって必死になっているのに、ちょっと……笑えます。


 でも、何だかそんな二人を見てたら微笑ましくて。


 私…。


 竜王様は多分アドニス様が心配して来てしまうくらい、いい人(竜?)何だと思います。でも、私意地悪みたいです。

 草食獣なんですけど、その前に女の子みたいです。しかもズルい。

 ごめんなさい竜王様。

 まだ私の心ははっきりわからないのです。

 子供だからかも知れません。

 子ウサギだからかも知れません。

 だからはっきり言います。



「竜王様」


「ん?」


「私、まだ私よくわからないのです。竜王様のこと」


「ん」


「だから好きと言われても、まだわかりません」


「…ああ」


「だから、わかるまで、ええと…」


「待ってる」


「竜王様…」


「私が君を愛していると理解してくれるまで何度だって好きだと伝えるし、君が応えてくれるまでずっと待ってる」



 顔が、私の顔が赤くなったみたいです。

 竜王様がほんわかと柔らかく笑ったので…



「…はい」



 そんな蕩ける様な眼差しで見詰めないで下さい竜王様、は、恥ずかしいです…










「あ、あ、あーあいうえおかきくけこぉ~!ごほんっ」



 いつの間にか竜王様に抱きしめられていて、私も無意識に竜王様の胸に恥ずかしさもあって顔を見られないようにくっついていたら、



「悪いとは思うけどさ、そろそろ入るわ。以外と風が冷たいし寒い!」



 ととっと部屋に入って来たアドニス様が申し訳無さそうに此方を見て、



「竜王、そろそろ離れないと「最初の頃」みたいに理性効かなくなってヤバイんじゃね?また襲うだろお前」



 その言葉を聞いて、竜王様が名残惜しそうに私を離しました。



「あとな、言っとくけど!」



 ビシッ!とアドニス様は竜王様に詰め寄り、黒猫の右手を立て、



「お嬢ちゃんはまだ幼いんだからな!もう少し大人になるまで手を出すんじゃねぇぞ!わかってるのか竜王!」


「わ、わかった」


「おう、忘れんなよ!」



 そんなお二人の言葉を聞きながら名残惜しくて、もう少しだけ竜王様にくっついて居たかったのは秘密です。


これで第一章は終わりです。

……

………


今回恥ずかしくて、死にました。

なんと、何度となく「ぬぉおおっ!恥ずかしい!」「恥ずかしぬ!」と画面を見て消して、書いて、消してを繰り返し、気がついたら二日程かかりました。

子ウサギの中で一番時間掛かってしまいましたね、オソロシイ。

次は少しあまあま~を書いたら、第二章が始まりますが、第一章とは雰囲気がガラリと変わります。いい方に向かえばいいのですが、初の試みとなるために上手くいくとは思えません。が、頑張ります!

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