ほんっと、誰~っ!
「さて、警備の皆さん。ここに寝転んでいるお騒がせを起こした人達をしょっ引いて下さい。罪状は、リアムここに」
「は!」
廊下にウサギの護衛で付いて来て居たリアムさんが何やら幾つかの資料を持ち出し、大統領達に突き出して居る。と言うより、あの資料何処から出したんだろ。リアムさんの隣に控えているキーラさんかな?封書はもって控えているけど。
でもな~今空間から出て来た様な気がするんだよね。
相変わらずマルティン様の側近は不可思議な事柄が多いなぁって思うんだけど、誰も突っ込まないって事は既に慣れっこなのだろうか。
もしかしてコレが通常だったりって、流石にソレは無いよね、ね、ね?
周囲を見たけど、誰もかれもスルー。
それ所じゃないって事なのかなぁ。
等と思っていたら、「なんと」「まさか」とか大統領達が資料を見ながら声に出しているけど、何が書いているんだろう。
簡単な憶測でしか判断出来ないけど、兎に角悪事が発覚したのだろう。
肝心の何の悪事だか分からないのがモヤモヤするけどね。
ウサギの方を見るとすっきりした!と言う顔をしてニコニコして居る。
うん、相変わらず可愛い。
周囲のダンシー(男子)達の視線は彼女に釘付けだね!
おっと、ヒューカちゃんを見てる男子も居たよ。
私、私は居ないのかっ
余ってますよ~在庫セールですよ~特売中ですよ~等と声高々に言えないけど、私にも視線を寄越せや男子どもっ!…うん、予想通り誰も居ませんでしたー。自称美少女ミウちゃん改名して微妙少女ミウちゃんにしようかしら、虚しい。誰も突っ込まないから更に虚しい。とは言え心の中で考えているだけだから誰も突っ込めないんだけどね。
お兄ちゃん微妙な顔付きでこっち見ないでっ
小さなお子様な私だけど、おまけに縦にも横にも(横は一部分ね!)一向に育たないお子様だけど結構傷つくんだからね。
「また下らない事考えてるだろ」って余計だよ!
事実だけにね!
会場内に居る警備の人達が一斉に動き出し、倒れている人達をお手てにお縄にして連れ出して行く。と同時に数名気絶から復帰した者が居たけど、真紅の赤い目を煌々と魔力を宿して睨み付けるマルティン様には誰も逆らえなかった。
と言うより文句を言う前にまた気を失った。
マルティン様無双って誰かが言ったけど、正しくその通りだと思った。
+++
side.アドニス
先程会場内で騒ぎを起こし一部失神した人々を引き連れて、警備員達は一先ず館内の一室に魔法等も使って厳重に閉じ込めてから外に応援を呼んで来ようと連絡を取り合う。
倒れた人数が多い為に一応医師も呼ばないと為らないからでもあるが、マルティンと大統領からの指示もあったからだ。
「ん、ん、ん~成程ねぇ」
その喧騒の外で一人の漆黒の影の様な小さなモノが足元をチョロチョロと動く。
尻尾は真っ黒、姿も真っ黒。
おまけにゆらゆらと尻尾は左右に動く。
上機嫌な時なら天にピーンと真っすぐに向かって居るのだが、少し不機嫌なのかそれとも何か思案しているのか、ゆらゆらと揺れて居る。
「警備は扉前に三人と、外に五人。成程成程」
うんうんと黒い漆黒――黒猫のアドニスはポテポテと廊下から窓のカギを開けて小首を傾げる。
「あ~やっべ、マルティンの感当たってら」
ぼそっと呟く先に見えるはヤバそうな雰囲気の街の空。
徐々に曇っていく空色に吐息が出る。
「…俺、今回ばかりは守れる自信がちょっとない。身体の数が足りないんだよなぁ」
黒猫の一体のみだとちょーっとキツイんだよな、とブツブツ呟いて嬢ちゃんだけ守るのは駄目かな?と言った後に空間に向かって「な~ご~」と鳴く。
すると黒猫の前に数名の人々、色々な人種のマルティンの一族達が何処からか現れる。
「はーい、ご苦労様」
なーんと一鳴きしてから相変わらず軽い口調でアドニスが言うと、
「合戦ですか」
「ちょっと大袈裟だねぇ」
「戦ですか」
「やっぱり大袈裟だねぇ」
「情報戦と言うのは」
「無理じゃねーかな」
くいっと黒猫の右手を上げて肉球を相手に見せ、「ほれ空みてみ」と指す方向には徐々に広がる暗黒の闇。
「さて、相手は此方側かそれとも…あ~やっぱコッチだよねぇ」
うんうんと頷き黒猫のアドニスは振り返り、先程騒ぎを起こした人族達が閉じ込められている一室を見詰め、
「来るね。備えて」
すると…
ガガガガガガッ
「うわーやっぱりいぃいい!」
「ちょ、アドニス様!?」
慌ててアドニス達一団は音が鳴った一室に向かおうとすると、
ウサギやマルティン達が居る会場内から悲鳴が上がって来る。
「げ。やっぱ身体が足りん!」
すると一族の一人の中から見知った声がし、アドニスが確認するとメイドの一人であるアンバーがアドニスに向かって声を上げる。
「アドニス様は会場に!向こうへは我らが向かいます!」
「だ、大丈夫?多分そっちが大本だと思うが」
「お任せ下さい!」
――と言うか、早く行くわよっ!
「はい???」と言った瞬間、黒猫のアドニスは見知らぬ女性に強引に引っ手繰られ、ふわりと空中に浮く。
「ほら猫のままだと鎮圧出来ないでしょ!さっさと変身なさい!」
「えええええって言うか誰!?」
「ええい早くせぬか!」
気が付くとドワーフらしき人物まで眉間に皺を寄せながらアドニスを抱えた女性と共に会場へと向かって行く。
いや、ほんっと誰~っ!
アドニスの問いに答えて貰えるのは会場に入った後であった。
マルティン無双(゜-゜*)
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