会いたい。3
「竜の兄貴!」
フローが叫ぶ最中、咄嗟に避けて身に纏わらせて居る浄化の水をウルフ達に向かって一斉に放出する。途端絶叫を上げながらウルフの身体から黒煙を上げて徐々に溶け出して行く。
『ほう、愚弟の属性のが優位かの』
ミトラ姉上が咄嗟に風で支援を掛け、此方に溶けた黒煙が向かない様に上空へと空気の流れを作り上げて行く。黒煙は上空に上がるにつれ、徐々に周囲に溶け込み黒い色が透明なモノへと変化していく。
恐らく私の浄化の水の作用のせいで消えていったのであろう。
「竜の兄貴、俺ちょっと不向きみたいだ」
此方に寄って来たフローがけん制や倒すだけなら出来るけど、魔物が纏っている穢れを浄化するのは無理だと告げる。
「分かった、始末は此方でやる」
「頼む」
『それでは妾は風を操るのじゃ。これ、妾の子供達、聞いとるかの?倒したら浄化の為に竜の愚弟までもって来てくれんかの』
「「「「「はーいミトラ様~!」」」」」
次々に屠って行く作業なような工程が出来上がって来ている最中、レノは目付きが自分でも悪くなっていくのを自覚する。
む…ヒネモスの奴…
物凄く不愉快な事に私のウサギにヒネモスが触れた気がする。
否、これは確実に抱き起こしたか?
くそ、ヒネモスめ。その役目を交代しろぉっ!
"助け起こして貰ったんだからね。"
ウサギの叱咤する声が聞こえ沈黙する。
分かっている。
分かっているのだが嫉妬する。
だが嫉妬するのはお門違い。
ヒネモスは忠実にウサギを守っているだけだ。
ぐっと堪えて耐える。
しかし、マルティンめ。何を思ってヒネモスを控えさせているのだ。
ヒネモスは確かに悪い奴では無いし、どちらかと言えば忠実な所がある。だが彼奴の生まれが関係して拗れる可能性もある。一族入りして長いとはいえ、元は王国の血を引いている…和の国の二代位先代国王の息子。その為に長い間公に顔出しをするのを避けていた。
人族だから、既に亡くなって長いからもう良いと思ったのだろうか。
それともそろそろ顔出しさせて置こうと言う考慮だろうか。
この辺り帰ってから聞いた方が良さそうだな。
それにダークエルフ達の動向も聞かねばならない。
ヒネモスはダークエルフと人族とのハーフな為に色々と面倒な事もある。
後程ダークエルフ達の里に顔出しした方が良かろう。
…やることが多いな。
ふと右手の指輪に目を向ける。
この指輪は持ち主の魔力を吸収すると対に作ってある指輪を填めている相手に思いを伝える事が出来る。…こんなに詳細に出来るようになるとは思って無かったがな
ファンダムに住むまだ年若いクラフトマスターに上質な細工を頼んだ際に『対になっている指輪を使って相手に思いを伝えられないか?』と頼んだら、「任せて下さいっ!」と即答され、僅か二日で仕上げて来た。
まさかこんなに早く作れるとは思って居なかったが、手に取ってみてみると元は無骨な品だったのだが(何せ私の竜の鱗を渡したからな)見事な装飾を施された魔剛竜金へと様変わり感心した。その分代金を弾もうとしたのだが、「こんな貴重な品を使って作らせて貰って、そのうえ代金等!」と言われたが何とかごり押しでも支払おうとしたら、「それなら作っている最中に出た粉を下さい」と言われて困惑をした。
竜の鱗等私が少し我慢すればまた生えて来るし、材料の金属であるミスリルは偶々持っていた品だ。
ほぼ無料と言っていい。
本来なら高価な品をきちんと購入して贈りたかったが、はっきり言って手持ちのが品質が良かったし世間でも高価な品であった。それに効果も高い品だから尚更手持ちにしたのだが、それではと作り手として良い職人を選んだのだが、それまでタダ同然とは一寸困ってしまう。
「竜王様はもしかしてご存じ無いかも知れませんが、竜王様が渡して頂いた鱗は一枚だけでも軽く城が3~4程建つ程なんです。しかも昨今更に貴重さが増してます。知ってますか?ドワーフの国では竜の鱗の粉があればほんの少しで金塊が買えますよ」
ぶ。
と言う事は、作っている最中に出た粉だけでも高額だったと言うことか?成る程。
金銭に困ったら売ろう。
ってそうじゃなくてだな…
「兎に角、それ以上は頂けませんし頂く訳にもいきません。これ以上は貰い過ぎですからね!?」
キッパリ断られてしまい仕方なしに諦めた。
だが、出来れば今後も何かしらの品を制作して貰おうと思っている。
腕がいい職人とはこれからも縁は続けたいからな。
しかし性能が良すぎるな、この指輪。改良しすぎたか?
『愚弟~~~っ!』
目の前に怒りで顔を強張らせたミトラ姉上の顔がっ!?
「うぉ!?」
『うぉでは無いわ!このポンコツ!』
「あ、姉上っ?」
何だ?と聞こうとした足元には死屍累々の体のウルフが三体程転がっていた。
『お主がぼさっとしとるからじゃ!…危なかったのじゃぞ!』
ぬ…これは。
「すまんかった、つい」
『ここは戦場ぞ?』
ドスッ!と強烈な蹴りをミトラ姉上から喰らい、ゲホッと咳き込む。
姉上にどつかれて死ぬ。
風魔法で強化が入った蹴りでどつかれた胸をさすっていると更に姉上が接近し、
『またうさちゃんかの、色ボケもほどほどにせいっ』
「あ…姉上っ」
ぐぐっと首がっ
これも風魔法か?首、首が。
"ミトラさん居るの?良いなぁ"
いや、良くないからっ
首絞められてるだけ…
「「「ミトラさま~~りゅうお~様がおちる~~~っ」」」
やめて~っと言う姉上の精霊達に救われて何とか落ちそうになった意識を取り戻す。
これ、後で首見た方がいいな。
フローが「ひでぇ…」と呟いて首を指している。恐らく跡が付いているだろう。
『む。やり過ぎたかの、仕方ないのじゃ。次はないぞ?愚弟』
「…すみません」
『だがある程度片付けてしまったからの、愚弟はそこで居れ。これ妾の精霊たち、後始末じゃ。ここにウルフ達を連れてまえれ。罰として愚弟に全て浄化して貰うからの』
「流石に森は戻せませんよ?」
森は私よりアニタのが上手い。
だがアニタはまだ産まれたばかりの赤ん坊。
赤ん坊であるアニタには外の世界、特にグリンウッドは危険でしかない。その為連れて来る事は出来ない。
以前の様に事前に私の"竜王の力"を森に浸透させていればある程度の森は守られ、修復も可能だった。だが今は私の、竜王の手から離れて居る。その為に以前の様には修復は出来ない。
だが多少なら可能だろうか…?
試してみるとしよう。
『清浄化は出来るじゃろ。出来ないとは言わせぬぞ?』
「…わかりました」
有無を言わさない眼差しで睨まれ、仕方ないと納得をする。
戦場で他の事に気を取られた罰だしな。
次何かある時は指輪は指に嵌めるのは止めておこう。
ウサギの事が気になって仕方ないしな。
ネックレスでも購入して首に下げて置くとしよう。
"ばか、余計会いたくなっちゃったよ。"
すまない。コレを片付けないと流石に戻れないな。
目の前に積まれていく不浄な気を放つウルフ達を次々と浄化させて行く。
幾つかフローが浄化の火で焼いて見ているが、やはり地獄の効果かうまく焼く事が出来ない。だが1度私の浄化を施すと簡単に燃やせるらしく、苦もなく死体を火炎で包んで焼き灰と化して大地に還して行く。
"会いたい、会いたいよレノ…"
私も会いたい。好きだウサギ。
作業をしながら伝える。
ん?向こうの林から…
「ご主人っまだ残っていたみたいです!」
キュキュッ!と一鳴きして白い大きな兎…―—ウサギの弟が前に躍り出て先頭に踊り出て来たウルフを粉砕していく。
『-ハクっ!』
「分かってるミトラ!」
ハクと呼ばれた少年が腕を伸ばして幾つもの光魔法でウルフ達の行く手を遮り、壁を作っていく。
そして一角に誘い込み、次々と聖剣達と共に倒して行く。
"うん。私も、レノ好き。愛してる…"
あ、愛してるっ!!
この指輪性能良すぎと思ったが、作って貰って良かった!「愛してる」だなんて、滅多に言われた事ないんだぞ!それをいくら数日会えなかったとは言え、いやもしかして普段面として言えなかったが、こうして会えないことで…って嬉しすぎて堪らんっ
「姉上!聞いてくれ!!ウサギが愛してると伝えて来た!」
『愚弟!喜んでばかり居らんで早う倒さんかーっ!』
「む?あ」
怒涛の様に雪崩れ込んで来たウルフの中に、数体のマウィオングが紛れていた。
咄嗟に右手を上げて雪崩れ込んで来た魔物達に浄化魔法も込めて水流をぶつけると、加減を忘れた為か遥か彼方に豆粒程度にあったファンダムにまでその水流が雪崩れ込んで行った。
フロー「あの街ってつくづく災害に遭いやすい」ってな、前はお前が火災に合わせたのでは無いか。その後はミトラ姉上のアレか。
成程本当だ、あの街は精霊の被害に遭いやすい。
だが咄嗟の手加減無しの水流をぶち込んだせいでどうやら全ての魔物は退治できたらしい。
…皆の目が点になっているが。
すまん。すまん…
『あ、では無いわー!このバカ竜っ竜巻に巻き込んでやるのじゃ~!』
「姉上!やめっ」
怒り狂った姉上が恐いっ
両手に持ち上げる様に魔力の渦を発生させ、次第にその渦が竜巻へと変化し――…
此方に向いてるっ
「すまんウサギっ!また後でっ」
「ミトラ姉、その竜巻で黒い穴攻撃してくれよ」とフローのフォローが入らなければ少し危なかったかもしれぬ。
…戦場では指輪はネックレスに通しておこうと決意した。
竜王編はこれで終了。
そして個人的ですが初の200話越え☆
これからも宜しくお願い致します!
(๑•̀ㅂ•́)و✧
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m(__)m




