マミュウ決意を固める
「ほら、あーん」
「あーん」
言われるまま、ぱくっとスプーンで出されたごはんをもぐもぐと咀嚼していると、何故か視界の端で首に包帯を巻いた猫耳尻尾な御姉さんのマミュウさんと、スプーンを持った牙のお兄さんがぷるぷるしてます。
何故なんでしょう?
あの後、お腹が空いて「ごはんが食べたいです」と告げたら、持ってきて貰えたのですけど。
(餌の分際でって言われたらどうしようかと思いましたけど)
「御嬢様可愛い過ぎますっ」
いや、そんなに握り拳を作って力説しなくてもいいと思いますよ?ただ食べてるだけですし。
牙のお兄さんはお兄さんで、
「かわいい…」
「う…」
そんなウットリした目で見ないで下さい。
食べにくいですっ
ふいっと横を向いてもぐもぐとしていたら、牙のお兄さんが悲しそうな顔をし始めます。
……困りました。
本当なら以前の様に草花や木の根っ子、木の皮や昆虫(昆虫って言ったらマミュウ御姉さんにダメ!と言われました。何故なんでしょう?幼虫とか凄く美味しいのに)が食べたいのに、人間の身体だからと人間のごはんを用意してくれました。
でも、素手で食べようとしたらダメとマミュウ御姉さんに怒られ、フォークやスプーンを渡されたのだけど、分からなくてじっと見てたら牙のお兄さんが見兼ねたのかな?
今の様にごはんを食べさせてくれたのだけど…えっと、そのー、そんなに見詰め無いで下さい………。
ごはんの咀嚼が終わってごっくんと飲み込んだら、牙のお兄さん何故か猫耳尻尾のマミュウ御姉さんに後頭部をスパーンッと叩かれてました。
何故なんでしょう?
牙のお兄さん、真っ赤で前のめりになって「ヤバイ、私の理性がヤバイ」と呟いてます。
マミュウ御姉さんには「正気に返してくれて有難う」と言ってます。牙のお兄さん、変わった趣向の人なのでしょうか?
…ちょっと、引きます。
「ご主人様、私が代わりましょうか?」
ごほんごほんっとマミュウ御姉さんが咳をしながら言うと、
「いや、私がやる」
真っ赤になったまま牙のお兄さんが断言します。
う、うーん何かちょっと……
私がごはん飲み込む度にその状態で大丈夫なのかなぁ?
「私試してみるよ?」
多分スプーン位なら…
でも先程スプーンのヘラでごはんを潰したら、怒られちゃったんだよね。どうやるんだろ?
「私から食べさせて貰うのは嫌か?」
あ。
まただ。
牙のお兄さん、ションボリしてる。
困ったなぁ…。
チラッと見詰めると、じっと私のこと見てるし………
う~!
ていっ!と牙のお兄さんから無理矢理スプーンを奪って、お皿にあるごはん(スープ)にスプーンを突っ込んで、そのスプーンに付いた汁をペロペロ舐めてたら…
「お、御嬢様ぁっ!!」
ビックリする位大きな声でマミュウ御姉さんに怒られました。
何でぇ?
あ、牙のお兄さん床とお友だちしてる。
「ちょっ、ヤバイ、エロかわい!舌っ!理性もたなっ」
ぷるぷる悶絶してて、ちょっと怖い……
「ご主人様、一先ず頭冷やして来たら如何ですか?」
マミュウ御姉さん、笑顔、その笑顔怖いです。
結局牙のお兄さんは部屋から追い出され、私はマミュウ御姉さんからごはんのマナーを少しづつだけど学びました。
それでも何故牙のお兄さんが変な態度だったのか謎です。
後日マミュウ御姉さんに聞いたら、「大人になったら嫌でもわかります」と遠い目をして言われました。
そう言うモノなのでしょうか?
謎です。
はぁ…。
やっとの思いで御嬢様の食事が終わったマミュウは、疲れの為か人知れず吐息を吐き出す。
ウサギだった御嬢様のマナーには別に仕方がないと思うだけで特に何も無いのですが、問題はご主人様ですね。
御嬢様が咀嚼するだけで悶絶し、熱に浮かされた瞳で見詰めるのは余りにもーー…
確かに可愛い御嬢様ですが、相手はまだ小さな御方ですよ?
多分十歳位ではないでしょうか。余りにも幼すぎます。でも初っぱなから手を出してたご主人様ですからねぇ。せめて段階を踏んで頂けないでしょうか。
いくら番とは言えーーー…
そこでふと、気が付いたのですが。
御嬢様、ご主人様のこと「呼んだ」ことがありません。
確かにご主人様は名前の無い第五番目の原始の水の精霊で竜王ですが、少なくとも私の前で呼んだことはありません。
その前にご主人様が御嬢様に即構って居るからかも知れませんが、ただの一度も呼んでいらっしゃらないのではないでしょうか。
もしかしたら、御嬢様ご主人様のこと何も知らないのではないでしょうか。
出逢ったのはご主人様が竜形体であったことはマルティン様から聞きましたが、ご主人様は御嬢様の前ではただ見詰めてばかり。
ひょっとしたら会話と言う会話をして居ないのではないでしょうか?
大丈夫なのでしょうか…
お食事が終わり、疲れてしまったのか舟を漕ぎ出して居る御嬢様を大事そうに抱え、笑みを浮かべて居るご主人様を見詰め、この先どうするべきかと思案する。
私の血液がこれ以上減らないように死守しつつ、マルティン様と相談して行かないといけませんねと、ひっそりと決意を固めるのであった。




