餌、ではないの?
グルルルルルッ
牙のお兄さん、ずっと唸ってる。
喉の奥から出てくる声が悔しそうでいて、不快そうにしてる。
あまり唸って欲しく無いな。
空気が痺れる様になるし、それにーー私にはこの魔力はきつい。
潰れそうになる。
それは、私がこの中で一番弱いから…
餌、だものね………
猫耳の御姉さんが未だに私の身を守る様に抱き締めているから、大丈夫だよって伝わるようにポンポンと触れると、やっと離してくれた。
ふと気になってドアの方を見ると、白髪が混じったおじさんがドアに背を預けて胸に片手を当てている。呼吸が少し荒い。
顔色は相変わらず青いけど、先程よりは良いみたい。
大丈夫なのかな?
じっと見ていると、大丈夫ですよと小声で教えてくれた。
それよりはと、おじさんは未だに唸っている牙のお兄さんに視線を向ける。
「ご主人様、そろそろお控え下さい。御嬢様に障ります」
「!!」
バッ!と牙のお兄さんは此方を向いて、途端に部屋から魔力が消えていった。
やっと一息がつける。
ほっと喉を撫で下ろすと、牙のお兄さんが近付いて来た。
そのまま私の前に屈んで、
「すまない大丈夫か?何処か痛くないか?」
「大丈夫、です」
牙のお兄さんを見返すと、チラチラと私の額に視線が来てる。
…気になるのかな。
さっきの男の子がキスしてた所。
もしかして変になってるとかかなぁ?
赤くなってたらヤダなぁ。
そう思って居たら、
「少しいいか?」
「はい?」
「触れていいか?」
「え?」
「ダメか?」
「えーと…」
少し戸惑って居ると、お預けを喰らったみたいな顔をしてる。
…何だか、弟思い出した。
ふふ、少し似てる。
ウサギ耳があったらきっと、弟みたいにションボリと耳が項垂れるかしら?
想像したら可愛いく思える。
勿論竜形体だと可愛く無いから今のエルフさんみたいな姿のままのがいいな、きっとーー面白いかも。
想像しちゃってフフって笑ってしまったら、牙のお兄さんの頬がうっすらと赤くなる。
その姿が可愛く感じて、再度「ダメか?」と聞かれたので「いいですよ」と答える。
なんでしょ?
まるで壊れ物を扱うように、そっと優しく抱えられて。
私のキスをされた額を牙のお兄さんの手で拭いてーー同じ場所にキスされた。
「あ…」
「消毒」
クスリと牙のお兄さんは笑って、私は多分真っ赤になってると思う。
気が付いたら部屋から猫耳の御姉さんと白髪が混じったおじさんが居なくなってた。
それならー…
抱えられているから多分、牙のお兄さんには少ししか顔を見られて居ないと思うけど、でもこれ以上見られ無い様にお兄さんの背中におずおずと腕を回して少し甘えてみた。
途端に聞こえる鼓動。
結構早い……?
「ちょっとヤバそうだ…すまない」
と言って牙のお兄さん離れちゃった。
………残念。
もっと鼓動聞いてたかったな。
でもお兄さんお顔どころかお耳も首も真っ赤ッか。
うん、やっぱり牙のお兄さん可愛い。
ふふって笑い掛けたら、その場でふるふると悶えて「悶え死ぬ…」って言ってた。
うーん?
私、餌扱いじゃないのかな?
竜のお兄さんにとって、私、女の子として見てくれるのかな?
そうだといいな…。
餌、もう少し甘えたかったなぁ。
□■□□■□
ドサーーーッ(大量の砂糖吐き出し)




