X'mas番外編 湖畔に咲く花
クリスマース♪(*´ω`*)ノ♪
皆さんに良いことがありますように。
そして少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
٩(๑'﹏')و
ドダダダダダダダダッ!
城の四階。
普段余り警護以外の人が居ない廊下に、珍しく黒猫のアドニスがウサギ目掛けてダッシュして来た。
しかも猛ダッシュで。
「ぴゃっ!?アドニス様?」
「嬢ちゃんっ!嬢ちゃんっ!」
そのままビョーンとウサギに飛び付くと、アドニスもといベルの声もニャアアアッと混ざって居る辺り、二人共(一人と一匹)は何やら興奮して居るらしい。
「もうっ、どうしたんですかそんなに興奮して」
ウニャーやらどうしよう!やらと一人でワアワア騒いで居るアドニス(ベル)は、ウサギにしょうがないなぁと呟かれて額にチョップを「てぃっ」と食らった。
「あいたあっ!」
床に蹲ってウニャーやらウニャニャニャニャッやら、やはりベルと混合しているのかも知れない。
「落ち着きました?」
「嬢ちゃん酷いっ」
ベルちゃんの顔してアドニスがあざとく泣き顔をするが、ウサギには効かない。
と言うか黒猫の泣き顔と言うか。開いた口からちょろっと見える舌が意外と桃色だなぁと思ってしまった。
「飛び付いて来たアドニス様のが酷いと思いますよ」
「oh、反論できない」
アドニス、撃沈である。
「それでどうしたんですか?」
確り黒猫ベルの黒いモフモフ毛並みを堪能されつつ、アドニスは「あ、そこも~ちょい強めに撫でて」やら「頭あたま、ふわ~」やら、人間だったらドン引く声を出しつつ、すっかりウサギの撫で具合に骨抜き(?)にされ我に返る。
「うわっ、嬢ちゃんの撫で具合が気持ち良すぎてもう少しで人間辞めるとこだった!」
「アドニス様既に人間辞めて魔王じゃないですか。しかも今はベルちゃんの身体を借りて黒猫姿ですし」
「oh、本日二度目の反論できない頂きました」
(余談だが、もしここでマルティンが居たら「ウサギ様に撫で回される魔王って」と辛口を貰って居ただろう)
「もう。で、どうしたんですか?」
「それなんだけどな」
ふぅ、と少し遠い目をし…
「中庭に行って欲しい」
***
今居る四階の廊下から窓辺に寄るが、此方からは中庭が見えない。
そう言えば以前、中庭が見える場所には窓から見えない様にしていた。
今は一番新しい(とは言え三百年前位前なのだけど)墓以外は全て消え去ってしまい、尚且つ中身…この言い方ちょっと嫌だけど…の私が居るのだからと窓を塞ぎ中庭を見えなく遮らせて居た物を全て取り去り、満遍なく太陽の光が室内に入る様になり、屋敷自体が明るくなったと従者一同皆喜んで居た。
特にマルティンは元墓石が成らんで居た中庭にウサギから請け負った実の成る果物の類いを植え、嬉々として「新たな趣味です」と喜んで育てて居るらしい。アドニスには「庭師にでも為りたかったのか?」と言われ、「いえいえ、趣味が欲しかったので」と言いつつも「どうせなら他にも何か実の成る物でも植えましょうか?」とアドニスに迄聞いて居た。
お蔭で現在、中庭はちょっとした果樹園みたいになっている。
竜王にちなんだ白い蘭も咲き乱れているが、どちらかと言うとウサギ達が好きそうな物が多い。
尚且つ土の精霊であるアニタが力を注いでおり、通常よりも遥かに育成速度が早くなっており、植えて一か月もしない内に幾つか収穫まで出来る様になってしまった。
特に檸檬の木等はあっという間に生い茂り、花が咲いたと思ったら翌日には青々とした小粒の実が実り、今では連日黄色い檸檬の実がたわわに実っている。
アニタ曰く、「おかちぃーな?あたちかげんまちーえた?」と首を捻っていたそうだが、マルティンの仮説を聞いて納得した。
「多分御嬢様とその弟様のお力の影響が関係していると思いますよ」
ウサギの弟は此処には居ないので違う可能性があるしあくまでも仮説ではあるが、ウサギにはまだ理解出来ない力がある。戦闘には向かなくても召喚獣を使えば戦況を変えるだけの力はあるし、またその召喚獣の一匹は異常な程に回復力も高い。
普通であれば是非とも欲しい逸材であろう。
最も国家権力を使ってもそうそう手が出せる輩では無いし、また扱いを間違えればウサギの番相手が容赦しない。
何せこの世界の五番目である原始の精霊竜王なのだから。
彼ならウサギと引き離す事柄を起こせば、その相手もしくは国ごと滅亡させる畏れがある。とは、よく知る執事であるマルティンの話であるし、実際過去にそれっぽい事柄を引き起こした事がある様だ。
この星、この世界が出来てから僅かな時。
女神と精霊女王に竜王にマルティンを残してウサギ達が亡くなり、愛する番を失った喪失や恐怖から狂った竜王に世界が滅亡され掛かったのだから。
その事は教訓として逸話に残る位である。
四階の自室からは中庭が見えないのでサッサと一階に降り、ウサギは一階に居る復旧作業をしているリザートマン達に挨拶をし…
「ん、あれ?子供?」
小さいリザートマン達に気が付いた。
ウサギが気が付くと小さな子供も気が付いたらしく、バイバイとちっちゃな手を広げて振ってくれる。
水かきが付いたリザートマンの子供の手が可愛い。
「今丁度クリスマスシーズンだからなぁ、明日から休みに入るから迎えに来たんだろーな」
アドニスが足元から教えてくれる。
「クリスマスシーズン?」
「ああ、流石にマルティンが御休みを与えてたからね~」
「…?」
「ん?嬢ちゃんもしかしてクリスマス知らない?」
「う~んと」
「ありゃりゃ、こりゃ教えるの忘れてたな」
ザジも教えて無かったのかなこれは、と呟かれた事柄にウサギは宙を見て、
「明日から世間では祝日に入るとは聞きましたが…」
「ザジ、嬢ちゃんが知ってるモノとして話した口かぁ」
「アドニス様、クリスマスって何ですか?」
「詳細に言うと違うだろうけど、簡単に言うとだな、クリスマスってーのはサンタクロースって言う聖人のオッサン、あ~イヤお爺さんかな?が夜、いい子にしてる子供達に御褒美をあげるっつー日だな」
本来なら別世界の祝いの日なのだが、アドニスがこの世界に移転してきた時には既にそう伝わって居た。どうやら他の移転者がこの世界に伝えたモノらしい。地域によりかなり酷いのもあった様だが(独り身酒浸りの日とか、リア充撲殺の日とか、肉祭りに酒祭りの日とか等)、アドニスは一般的な事を教えた。
「御褒美?」
「ま、プレゼントだな」
「うん」
「でな、そーゆー日だから家族で御馳走囲んでお祝いしたり、大事な人と一緒に過ごしたりってするんだ」
「大事な人…」
「家族や恋人に夫婦とかだな。人によっては友達や親友もあるしペット何てのもある」
「うん」
「で、だ」
「うん?」
「だからこそ嬢ちゃんに今中庭に行って欲しいんだ」
リザートマン達が居る現場から離れ、玄関へと向かう最中。
アドニスは中庭側を向いてウサギに問う。
「彼奴の毎年の習慣をそろそろ撤回してやってくれ」
***
さわさわと風が靡く。
中庭にある唯一残った墓の前で佇む。
左手にはグリンウッドの湖畔に咲く花や、あの日に散った彼女の周囲にあった花と同じ種類の花を手に持つ。
そう言えば蓮華草の花はあの場には無かったな、等と思い摘んで来ようかとも思ったが思い止まった。
蓮華草を好きな彼女は生きて居る。
その彼女はこの下には居ないのだ。
それは竜王に取ってはとてつもなく幸せな事であり、目の前の墓標の相手には申し訳無い様な気がしてしまう。
「どう思ったら良いのだろうな…」
つい口から出た言葉に自嘲する。
思ってしまっても仕方が無い。
過去に想いを馳せても当時の彼女は戻って来ないし、今は彼女は生きて居る。
「踏ん切りが付かない私は愚かだな」
手に持って居た花を墓の前に置く。
愛している相手はこの中に居ない。
でも長年の、毎年この時期になるとこの場所に無意識に足を運んでしまう。
暗い。
実に暗い性格だと思う。
生きて居る彼女が居るのだから、生きて居る彼女を大事にしたい。だが失った彼女もまた、大事なのだ。
例え僅かな語らいしか持てなかった相手でも。
それ所か亡くなって居る姿しか知らない相手でも。
ふと背後に気配を感じ、俯いて居た頭を上げ後ろを向く。
「レノ」
目線が合うとふわっと軟らかく微笑む彼女の顔。
その彼女の視線がチラリと下を向き、また私に向き直る。
「私は其処に居ないよ」
「…ああ」
すると彼女…ウサギはううーんと唸り、
「私はここ」
トンッと自分の胸に手を置き、
「レノの目の前」
そして微笑む。
「…大好きなレノの側」
うっすらと頬に朱が付き、私を見詰める。
「約束したよね」
彼女は1歩前に出て私の横に並び、
「淋しかったら私はずっと傍に居ます」
そのままコテンと甘える様にウサギの頭を私の肩に乗せる。
「淋しそうに見えたか」
「凄く」
「そうか…」
チラリと視界の端には黒猫の姿。
心配を掛けてしまった様だ。
「どうやらアドニスに心配を掛けてしまった様だな」
「ええ、すごーく心配してましたよ」
「その様だな」
チョロリと動く黒猫の尻尾はピンッと立ち、上機嫌な様を見せている。
「ウサギ」
「はい」
「今日はずっと側に居てくれ」
「淋しいの?」
「ああ、凄く、な」
重なる二人に黒猫はヤレヤレと吐息を吐き、あの桃色空間に当てられる前にその場を後にする。
嫁に逢いたくなった~!と言う声が聞こえた様な気がし、レノとウサギは苦笑する。
「部屋に帰るか」
「うん」
「ウサギ」
「うん?」
「夜、いいか?」
真っ赤になり俯いて恥ずかしそうにしてモジモジしているウサギに気を良くし、レノはウサギの耳許に囁く。
囁かれた言葉に悶えてプルプルし、ウサギはこっくりと頷いた。
間に合ったーーーッ!
そして相変わらずの佐藤さんいらっしゃい。
(・ω・`)
前半はお笑いだった様な気もしますが。
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m(__)m




