2.5 彼女の事は任せろ
今回は『異世界転生したのはいいけど、この身体俺のでは無いようです!』の絡みが多目。
その為少し解説。
ミサ→ファンダムに居る姉御肌の薬師。主人公の姉(?)
ハク→ミサの弟(???)で『異世界~…』の主人公。
モチ→ハクがテイムした白兎。本編主人公のウサギ(レイン)の弟。
ファンダム→グリンウッドの中央にある様々な種族が集まって出来た街。モンスターが住む森に囲まれて居る為、襲撃が多い。剣聖が守護しているので有名。
『それは悪かったのぅお二方。では遠慮無く猿芝居は止めて、飢える子の為に、エルフに拐われた我が子の為に餌にありつくかのぅ』
縦横無尽に張り巡らされた白い蜘蛛の糸が突如大量に竜王・フロー・ベルの上に降り落ち、沫や蜘蛛の糸に辛め取られるかと思った時、1メートル程上空で全ての糸がフローの火炎で焼き尽くされる。
それと共に、先程竜王の背後で爆炎が上がったが、その場所から奇妙な悲鳴にも似た音がしたかと思うと、数匹の蜘蛛が焼け死んで床にボタボタと落ちる。
途端、蜘蛛女ーー…アルケニーの顔色が青く変わり、般若に変わる。
「フロー、お前"一酸化炭素"が増えても平気か?」
「へ?」
「この様な換気等出来ぬ場所だ。あまり火炎で熱すると不完全燃焼等した場合、空気中に一酸化炭素が増えて中毒を引き起こす。私は平気だが、お前には無理だろう?」
「う…」
太古の第一から第五迄、大精霊は一般には不老不死と呼ばれている。だがその下である第六から第十(第十一)は当てはまらない。アニタを見ていたので不老では在るようだが、代々代替わりをする火の精霊は目の前に居る竜王の様に不死では無い。
本来なら…以前フローは女神が嘆いていたのを偶々聞いたのだが、邪神に介入されなければ全員不老不死になっていた筈だと、酒を片手にアドニス相手に愚痴を溢していた。
「折角冥界から持って来たのに、偽物を掴まされていたなんて」
「お陰でミサの弟を殺してしまった。ミサは私を殺したい程怨んで居る」
等と次々に涙ながらに盛らしていた。
ミサとは恐らくファンダムの薬師の事だろう。
(と言う事は、ミサとその弟に何かしら関係があると言う事なのだろうか?)
「だったらどうする竜の兄ィ?」
言い終わらぬうちに周囲の壁と言う壁に水の層、1メートル程の厚みで現れ覆い尽くし、壁に潜んでいた蜘蛛ーー蜘蛛にしては巨大な身体を持つ者や、1メートルの大きさはある蜘蛛達が次々と水の層に飲み込まれ、フローが気が付くと洞窟内が一気に水で埋る。
「ちょっ…!」
息、息がっ!
慌ててフローが手で口と鼻を覆い竜王を見るが、竜王の周囲には巨大なシャボン玉の様なモノで覆われて濡れて居ない。
よく見ると己れも同じくシャボン玉の様なモノで覆われており、一切濡れて居ない。口から手を退け息をしてみると普通に吸うことが出来ている。
そして一番驚く事は、蜘蛛女…アルケニーの子供らしい蜘蛛達が自分達の周囲を巨大な渦を幾つか作ってグルグルと飲み込まれて廻っている。
「まるで巨大な洗濯機の様だなぁ」等と、黒猫のベルから漏らされた。どうやら今のベルの中身はアドニスらしい。
「兄貴、これ」
「私達には影響を及ばさない様にした」
見るとアルケニーが腕に自身の子である巨大な蜘蛛を一匹抱え、必死に岩に張り付いていたが、力尽きたのか子ごと水の渦に飲み込まれていった。
* * *
「圧巻の一言に尽きるなぁ」
黒猫ベルの身体を借りたアドニスがポツンと呟く。
何時ものアドニスならば此処で竜ちゃん遣り過ぎとか苦言を述べたりもするのだが、今日に限って何処か虚ろだ。
恐らく自身の身体も同時に動かして居るのだろう。
アドニスは同時並行の並列処理が出来なかった筈。嘘か真かは解らないが、個の性質が強く、本来ならアドニスとベルで処理をワケる事が出来る筈だったのだが、アドニス側の性質が強く、またベルは従順に従う達らしく上手く行くようで、逆に噛み合わずに上手くいかなかったと言う。
だからなのか、アドニスの本体を動かして居ると、アドニスとベルどちらも表情が【虚ろ】になる。
勿論アドニスがベルの方に入り込まなければその様にはならないのだが。
フローはじっと己れの手を見詰める。
自身は燃やす事は得意だ。元々火の精霊と言う事もある。だがこの現状はどうだ?
密室で火を振るえば一酸化炭素が増えて危険。
街で火炎を纏えば火事発生。
竜の兄貴を見習って、もっと火を上手く使える様にしなければっ。
火の性質や本質を見極めれば、竜の兄貴の様に縦横無尽に使える筈。…前火の精霊がそうだったと聞くし、修行積まねば。努力は苦手だけど、もっとやらないと今のままだとまたミトラ姉にまた叱咤されてしまうし、何よりファンダムに居るチビッ子ーーハクとそのテイムされた白兎であるモチに負けるのは癪に触る。
負けねぇ。
先ずは目の前で悠然と佇む竜の兄貴が一目置く相手にならないと!
「ふ~ん」
場違いな声がアドニスから上がり、フローが黒猫に目を向ける。
どうやらアドニスは本体で誰かと話して居るらしい。時折黒猫の頭がコクコクと上下に動く。
「竜ちゃん戦場把握。あっちは気にしなくていいから、嬢ちゃんに集中して」
「わかった。向こうの魔力止めて良いか?」
「うん。グリンウッドに流してる魔力止めて大丈夫。一時的に引き受けるから。てか竜ちゃん、グリンウッドはもう竜ちゃんの手を離した方がいいよ?竜ちゃんが魔力を流さなくても大丈夫な様に嫁と調整するから。あ、えーと嬢ちゃんベルが凄く気にしてるから、俺から言うの変だけど頼むわ」
「わかった、魔力は今切った。でも調整が済むまで時折は補佐する。私にとっても彼女にとってもあの森は大事な思い出があるからな。ベル気遣い感謝する。彼女の事は任せろ」
今度はベルに戻ったのか、"にゃ~"と少し甲高い猫の声が上がる。
『…は、流石じゃ。私の事など露程も思わぬか』
おきに召しましたら…
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↓おまけのマルティンの小話はこの下です↓
そのきゅう。
数日後。遊具の設置をしに来た業者達一行に混ざり、またしても大統領御一行、パウル達がやって来た。
「暇なのですか貴方は」
「挨拶もそこそこにソレって相変わらず辛辣だなぁ、竜王の執事は」
「竜王の執事ではなく、マルティンです」
「遊具持って来た。何処に設置したらいいんだ」
スルーされましたね、まあ宜しいですが。
「わぁああっ!凄いですっ」
遊具をパウル達業者が設置し、秘書官のクロウが設計図通りに設置しているか確認をし、補佐官改めグリッドがノホホンと眺めて居ると(グリッドは何をしに来たのかと聞いたら、休日だから大統領に誘われたので護衛兼遊びに来たと言ってましたよ………)、御嬢様が聞き付けたのか、一階から顔を出してキラキラした瞳で作業を見詰めて居ます。
「おう、嬢ちゃん。久し振り」
パウルが手を振ると、御嬢様が一生懸命御返しに元気に手をふってます。
…御主人様、御嬢様の横に居たのですね。
「可愛い、可愛い、凄く可愛いっ!」
と、元気一杯の御嬢様を見て悶絶してる姿は……相変わらずデスネ。
「オイ、お前の御主人様、相変わらず残念仕様だな」
それ、言わないで下さい。




