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不気味な事件

「フルバ先生。今朝の情報紙(ディウルナ)。ご覧になりましたか?」

 毎日発行されるディウルナは、世界の情勢、国内の情勢、そしてカラキムジアで起きた事件や事故などを幅広く伝えている。しかし、ここのところ戦況がますます悪化していて、悲惨な戦争の話題が毎日一面を飾っている。忙しい中で目にするには憂鬱すぎる記事が多いので、疲れている時には遠ざけてしまうことも多い。

「いいえ。昨日帰りが遅かったから、朝起きるのが遅くなってしまって。エミリアを託児院に預けて慌てて出てきたのよ」

 フルバの娘エミリアは、すでに3歳になっていた。

「これです」

 秘書の一人がそういいながら、うす黄色い紙の束を持ってきてフルバの前に拡げた。

「何?」

「先週、戦勝記念公園内の池に人顔の魚がいるらしいって話題になっていたじゃないですか?」

「えぇ。覚えているわ」

 研究室内では、いつもさまざまな話題が飛び交っていて、それが、忙しくてあまりディウルナを読めないフルバの貴重な情報源となってもいた。

「目撃者があまりにも多いんで、警吏本部が調査に乗り出すとかなんとか」

 そう言いながら、フルバは、入れてもらったばかりの紅茶を口に運ぶ。

「それがですよ。昨日ついに、捕獲されたらしいんですよ」

「あら、やだ。捕獲っていうか、死体が見つかっただけでしょ? それもなんか半分腐っていてどうとかって」

 もう一人の秘書が話に加わる。

「でも、捕まったことは確かでしょ。確かに、死んでいたって言うのは残念だけど、ちゃんと顔は人間ぽい感じだったって……」

「その話題が、ここに出ているんですけど、先生はこの顔、人間の顔に見えますか? 私は見えないと思うんですけど」

 どうやら、秘書二人の意見の相違の仲裁に、求められたらしい。

 フルバは苦笑いを浮かべつつ、拡げられた新聞に眼を落とした。


【カラキムジア市内で相次ぐ不定放浪人の不審死】


 フルバの眼が、別の記事の上で止まった。


【ここ数ヶ月のうちに、何者かに殺されたと思われる不定放浪人は8人にもおよび、まだ多数の人が行方不明になっているようである。警吏本部が捜査に乗り出したが、身寄りが無く、住所が不定の不定放浪人の足取りを追跡する捜査は難航し……】


「フルバ先生」

 フルバの思考は、秘書の声で中断された。

「そっちじゃなくて、ここに出ています」

 彼女の長い指が、人顔魚捕獲の記事を指す。

「あぁ、そうね。それはだいたいわかったわ。それよりもこの事件について、何か知っている?」

 2人が同じような角度で左右から紙面を覗き込んだ。

「知ってますけど、あんまり詳しくは知りません」

「襲われているのは不定放浪人ばかりだし、一応気をつけてはいますけど、あんまり話題にはなりませんよね」

「大学も、1ヶ月前くらいに、早めに帰るようにとか、一人で帰らないようにとか通達を出して以来特に何も言っていませんし。フルバ先生が知らないってことは、王宮内でもそれほど問題になっていないってことですよね?」

 数ヶ月のうちに、人が8人も死んでいれば大きな事件として伝えられてもいいはずだが、確かにフルバも、今初めて知った。

「不定放浪人同士の縄張り争いじゃないかっていう話もありますよね。あの地区の不定放浪人って、だいたい、外国から流れてきた人達の集まりですよね。なんか、喧嘩が絶えないみたいだし」

 二人の話を聞きながら、フルバはもう一度紙面に視線を落とした。

 なぜか、心がゾワゾワとした。

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