表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

プロローグ

 キールの王都マロニアにある王城は、キール王の居城だ。

 マロニアの街を見下ろす高台に建つ城は、一方が切り立った崖に面し自然の要塞となっている。中央のクリスタルタワーを、サファイア、ルビー、シトリン、アゲートの4つのウイングが囲むシンメトリー構造で、その4隅に円形の塔を持つ。均整のとれた美しい城は、戦後の復興のシンボルとして、国民に愛されてきた。また、城の周囲に周囲には、騎士堂、礼拝堂、騎士練武場、騎士達の居住棟など27の建物が聳える。

 王のプライベートスペースであるクリスタルウイングには、中庭に面したサンルームがある。ガラス張りの天井から、柔らかな午後の陽が室内にぬくもりを振りまいていた。

 リサフォンティーヌは、ラズベリー色のドレスの上に深紫色の上着を羽織り、ソファーに深く腰掛けている。

 向かいの席には、70歳を超えていると思われる白髪の老婆。

 表紙がすり切れて読めなくなっている本が3冊と、紺色の表紙のノートが何冊かテーブルの上に拡げられていた。

「それでは、そなたが彼に薬草学の知識を与えたと」

 リサは膝の上に拡げたノートの文字を眼で追いながら、カチャリと音を立てて、手にしていたティーカップをソーサーに戻した。二人きりの室内には、その他の一切の音がない。

 深く息を吐き、目の前の老婆が静かに口を開いた。

「アラン閣下から、不老不死の薬とされたあの液体の鑑定を依頼された時から、もしかするとそうかもしれないという懸念はありました。細胞周期を自由にコントロールする術は、あの頃から彼の興味のひとつでしたから」

「確か、あの時に利用されていたのは、ギョリュウサイコウとミシバロッキ」

「それにファージの残骸です。私が教えた、古典的な手法のひとつです」

「ではフルバは、あれをあえてウキレイの街に持ち込んだのは、そなたへの挑戦状だと?」

 今は、ウキレイの街で宿屋の女主人をしているフルバだが、若くしてドレイファス王国の王宮専属医薬師(リミエディスタ)を務めていたほどの優秀な医薬師だ。カラキムジア大学で教鞭も執っていた。

「私にではありません」

 小さく首を振って、フルバの視線が、まっすぐに目の前の王に向けられた。年齢からは想像もつかないほどに強い力が、その瞳に満たされていた。

 悲しみ、哀れみ、怒り、恐れ。ありとあらゆる感情の色が浮かんでは消える。

 フルバ・ドゥースは、一言一言を噛み締めるように言葉を続けた。

「私にではありません。私の仕えたドレイファスに、そして……私が忠誠を誓った、このキールに」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ