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第十八話 明かした真実

 額に当たるひんやりとした感触で、次第に意識が覚醒していく。

 枕や布団の感触から、今寝ている場所が社務所の自室だと分かる。けど、ここに着くまでの記憶が判然としない。

 確か、ドロク村の鉱山でチョトンダを倒したら、不気味な骸骨が現れて……


「ユウー!」


 目を開けてまず飛び込んできたのは、うっすらと涙を浮かべるモモの顔。モモは俺が目覚めたとことに気付くと、いきなり全力で抱き付いてきた。抵抗する間もなく、顔いっぱいに柔らかいものが押し付けられてしまう。


「ようやく起きたのね」


 モモの歓喜と嗚咽が混じったような声の背後から、ルリが安堵した様子でで話し掛けてきた。


「あんた、三日も寝てたのよ」


 ようやく離れてくれたモモの隣に座ったルリは、手に替えの布巾を持っていた。


「そんなにか」


 骸骨を倒した後で鉱山の外へ出てみれば、村を占拠していたアヤカシ達は既にいなかった。二人で村を探索したが村人の所在についての手掛かりは見つけられず、そのまま神社へ帰ってきたとのこと。

 その間、俺はずっと死んだように眠っていたという。


「ユウ、もうだいじょうぶなの? いたくない?」

「ああ、ちょっとだるいけど」


 モモを安心させるために、体を起こして肩を回す。ずっと寝ていたせいであちこち痺れているが、それ以外は特に問題ない。


「大丈夫なら、色々説明して欲しいわね。例えば……あの子のこととか」


 そう言って部屋の入り口を見るルリ、意味深な口調で向けられた視線の先にいたのは、


「まったく、なぜわらわがこんな下等な作業を」


 水を張った桶を両手で運んでいる、影切丸の姿だった。


「か、影切丸さん?」


 夢の中や半透明状態では何度か会っているが、実体のある姿で会うのは初めてだ。


「ユウ、目覚めたのか!」

 

 驚いた様子の影切丸は、思わず水をこぼしそうになっている。バランスを崩した体をモモに支えてもらい、どうにか踏み止まっていた。


「びっくりしたわよ、あんたは急に倒れるし、この子は出てくるしで」

 

 俺が神社に帰ってきてすぐに、影切丸は実体化して出現したという。全く素性の知れない存在だったが、子供の相手に慣れているルリはそれ程驚かずに対応出来たそうだ。

 ルリの口車に乗せられて、影切丸はいつの間にか俺達の手伝いをさせられていた。 


「ここまで運んできてくれて、ありがとな」


 モモの助けがあったとはいえ、男一人を担いで山道を越えるのは相当の負担が掛かっただろう。


「それはこっちのセリフよ、あんたがあいつを倒してくれなかったら、今頃」


 あの骸骨の強さは、明らかに普通のアヤカシを超えていた。あのまま戦っていれば、俺達全員命を落としていただろう。


「影切丸さんも、ありがとう」


 骸骨に勝てたのは、影切丸が力を貸してくれたおかげだ。

 

「そうじゃそうじゃ、もっとわらわを褒めるがよい!」


 礼を言われた影切丸は、腰に手を当てて高笑いを挙げる。両手が離れ落下した桶を、モモが床に落ちる寸前で受け止めていた。 


 と、部屋の隅に見慣れた袴姿が。


「聞こえますか、亡霊さん」


 亡霊さんは顔を俯かせ、所在無さげに佇んでいる。


「……あのときは済まなかった」


 暗い顔のまま答える亡霊さんの声は、重く沈んでいた。


「大丈夫です、もう気にしてませんから。それより、これから亡霊さんのことをルリ達に話しても大丈夫ですか?」


 あのとき起こったことは、ルリも目の前で見ていた。流石に亡霊さんのことまでは分からないだろうけど、違和感は持っている筈だ。


「ユウ?どうかしたの」


 俺のことや亡霊さんのこと、ついでに影切丸のこと。ここまで俺を心配してくれたルリやモモには、話さなきゃいけないよな。


「ルリ、モモ、実は……」


                             ※


 俺の話を聞き終え、二人は対照的な反応を見せた。


「そうだったんだ」


 無邪気な顔で答えたモモは、俺の言ったことをそのまま信じてくれたようだ。 


「ちょっと待って、亡霊さんってのがユウに憑りついてて、この刀が影切丸で、この子は刀の付喪神」

 

 ルリはまだ内容を受け止めきれていないようで、額に手を当てて考え込んでいる。


「あ、ああ」

「しかもあんたは別の世界の住人で、幼馴染を探してこっちに来たって?」

「うん」

「もしあんた以外が言ってたら、冗談だって聞き流してたわね」


 そう言って、ルリは軽く笑う。 


「その亡霊さんって人と話せる?」

「多分大丈夫だけど」


 ルリの頼みを受け、亡霊さんに体の制御を渡す。


「こうして話すのは初めてだな、ルリ」

「初めましてって訳でもないのよね、何度も一緒に戦ってるんだし」


 俺の体を借りて喋る亡霊さんをまじまじと見て、戸惑いがちに話すルリ。


「何も覚えていないってのは本当なの?」

「ああ、剣を振ること以外は全く」

「でも、あの骸骨には」


 その問いで、亡霊さんの表情が俄に曇った。


「奴を見た途端、心の中に突如憎しみが沸き上がった。が、それ以外はまるで」


 途切れ途切れの言葉で告げる亡霊さんは、自分でも自分の感情が理解できていないようだった。

 それからもルリと亡霊さんの話は続いたが、俺が知っている以上の上方は出てこなかった。

 しかし亡霊さんの人柄は伝わったようで、ルリの警戒心も最初からすれば随分和らいでいた。


 再び亡霊さんから体を戻してもらい、ルリに向き直った、そのとき。


「ふうむ、よくわからん奴じゃなぁ」


 いつの間にか隣に座っていた影切丸が、呑気な口調で呟いていた。


「いや、あなたも十分不思議ですから。あと、普通に実体化出来るんですね」


 厚みのある金色の髪も、白磁のような肌も、現実感を持って存在している。

 最近少しは慣れたと思っていたけど、こんな美少女がすぐ近くにいるとやはり落ち着かない。


「今まではやろうと思っても出来なかったんじゃがな、力が戻り始めておるんじゃろうか」


 影切丸は自分の体を見回しつつ、不思議そうな顔をしていた。


「で、あなたは付喪神なのよね」

「そうじゃ!」


 ルリの問いに、腰に手を当てて大仰に答える影切丸。


「あのとき使った技って、いったい何なの?」

「わしの力をちょこぉっとだけ貸してやっただけじゃ。まあ、あれ以上はユウが持たんじゃろうが」


 影切丸は胸を大きく逸らし、誇らしげに自分の力を話す。


「そういえば、どうして急に味方してくれたんだ?」

「わしは別に人間を許したわけではない。じゃが、こやつは他の人間と少し違う気がしてな」


 影切丸はその宝石のような紅い瞳で、真っ直ぐに見つめてくる。


「キリちゃんも、いっしょにすむの?」

「き、きり?」


 モモに背後から抱きしめられ、影切丸もといキリちゃんは戸惑っていた。しかし、モモの無邪気な好意にほだされたのか、影切丸はむずがゆそうな表情をしながらも為すがままにされていた。


「にしても、別の世界ね」

「やっぱり、信じられない?」


 アヤカシが普通に存在する世界であっても、こことは違う別の世界なんて流石に荒唐無稽だろう。


「ううん、今更ユウが嘘を付く理由もないしね」

「モモもユウをしんじるよ!」


 けれど、ルリやモモは俺を信じてくれるという。


「ありがとう」


 二人の暖かい思いを感じ、思わず頭を下げていた。


「やめてよ、水臭い」

 

 穏やかな笑みを浮かべるルリやモモに釣られて、こちらの顔にも笑顔が浮かぶ。  

 結束を深める俺達の傍で、なんだか話に置いてかれておる……と影切丸が一人黄昏ていた。 

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