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第十一話 家具達の反乱


 普段は平穏そのものといった様子の村の中が、今は戦場もかくやといった様相を呈していた。

 四方巣全てを囲んだ敵が、次々と襲い掛かってくる。


「ああもう、どうして帰って早々こんなことに!」


 ルリは愚痴を零しながらも、迫りくる敵を式神を並べて作った壁で押し留める。

 すかさずモモの拳が、集まった敵の群れを吹き飛ばしていた。


「ユウお兄ちゃん、そっちに行ったよ」


 モモの一撃から漏れた敵に、刀を構えた亡霊さんが相対する。


 緊迫した戦いの中、俺は不意に叫んでいた。

 

 何で。


「何で箪笥が襲ってくるんだよ!」


 色あせた茶色の箪笥が、尖った四隅を武器のように扱って突撃してくる。その後方には、脚を棍棒のように振り回す机の姿が。

 周囲に目をやれば、襖や障子に燭台や座椅子が見える。大きなものでは、文机や飾り棚も自由に暴れまわっていた。

 俺達が戦っていたのは、動く家具だったのだ。


「ユウ?」


 突如叫んだ俺を、亡霊さんが驚いた顔で見ていた。素っ頓狂な光景の違和感に耐えきれなくなってしまったのだが、今俺が叫んだところでどうしようもない。


「ごめん、亡霊さん」


 そもそも、何がどうなってこんなことになったんだっけ……


                          ※

 

 家具達との戦いから、一時間ほど前。

 ヒトウバンの家を出立し、もう少しで村に着こうかというとき、村の入り口に人が集まっているのが見えた。

 村人達はお祭りなどで集まっている様子ではなく、どことなく不穏な気配がしている。

 何かあったのだろうか?


「どうかしたんですか?」

「おお、丁度いいところに」


 村人達に近づいて話し掛ければ、見知った顔の老人が俺達へ話しかけてきた。


「実は、わしらは村から追い出されてしまったんじゃ」


 老人は村の方向を寂しげに見ながら、がっくりと肩を落とす。 


「急に動き出した家具に襲われた!?」


 不可思議な現象が始まったのは、今朝のこと。突如家具達が動き出し、所有者の住民に襲い掛かったという。しかも、村全体で全く同時に。

 一斉に暴れ出した家具達の勢いに押され、村人達は抵抗することも出来ずに全員村から叩き出されてしまったそうだ。


「信じ難い話じゃが、これはまことじゃ。お前さんも村に入ってみれば分かる」


 確かに信じられないような話だが、老人の言葉に嘘は感じられない。状況を確かめるため、俺達は村の中へ入ることにした。


                                     ※


 それから先は、あっという間の出来事だった。

 村に入った俺達へ、家具の群れが一気に殺到した。数十は軽く超える物量に押されて、俺達は一瞬で包囲されてしまっていた。 


 と、襲い掛かる家具の群れを捌いていたモモが、何かに気付いたように呟いた。


「みんなのものだし、なるべくこわさないようにしないと」


 モモの言う通り、こうして戦っている家具達だって元は村の住民のものだ。この騒動が終わった時のことを考えれば、軽々しく破壊していいものではない。

 実際俺達はここまでの戦闘でいくつか家具を破壊しており、周囲には木材の破片が飛び散っていた。

 

「亡霊さん、出来るだけみねうちでお願いします」

「む……承知した」


 家具を守ってくれとの頼みに渋々頷いた亡霊さんは明らかに戦い辛そうにしていて、剣技に精細さが欠け始めていた。


「そんなこと言ったって、手加減できる量じゃないわよ」


 こちらの奮戦に全く怯むことなく、家具達は次々と襲い掛かってくる。家具は壊される恐怖を感じないのだろうか? 

 まあそもそも、家具が意思を持つこと自体おかしいんだけど。


「このままじゃきりがない、一旦退こう。この現象が起こった原因を突き止めなきゃ」


 戦い続けていてもらちが明かない、全ての家具を倒す前にこちらの体力が尽きてしまう。

 そう考え、亡霊さんに撤退を提案する。


「悔しいが、退くぞ」

「わかった!」


 亡霊さんの合図を受けたモモが、両拳を思い切り地面に叩き付ける。周囲に土煙が舞い、それに紛れて俺達は村の外へ逃げ出した。


 村人達が集まっている場所で、現象の原因について聞いてみる。

 最近村で変わったことはなかったか、何か妙なものを見なかったか等々。


「そう言えば、昨日神社で妙な音を聞いたとか言ってたような」


 数人目の村人の話では、息子が何かを知っているかもしれないという 


 その村人に頼み、息子から話を聞かせてもらうことに。その子は、神社でルリといつも遊んでいる子の一人だった。


「神社に行ったけど、お姉ちゃんがいなかったからすぐ帰ろうとしたんだ。そしたら、お姉ちゃんたちの家から変な音が」

「どんな音?」

「うーん、ぎしぎしとか、がたがたとか。誰もいないはずなのに、おかしいなぁって思ってたんだ」


 少年の話が本当なら、家具の動き出す現象は最初に神社で起こっていた。


「社務所が原因なのかしら?」

「戸締りもしてたし、別に異常は無かったけどなぁ」


 ヒトウバンの元へ向かう前、特に変わった点は無かったはずだ。確かめようにも、神社へ帰るには村を通らなければいけない。

 顔を見合わせる俺とルリを見て、モモが不意に口を開いた。


「とりあえずいってみよう?ここではなしていてもしかたないよ」


 明るいモモの言葉に、俺達の間に漂っていた重い空気が吹き飛んだ。


「って、これはユウのまねだけどね」


 そう言って、モモは照れ臭そうに笑う。


「そうだな、止まっていても状況は変わらない」


 神社に行っても何もないかもだけど、動かなければ何も始まらない。そう判断し、俺達は再び家具が占拠する村の中へと足を踏みいれる。


 再度村へ入ったその瞬間、待ち構えていたかのように家具達が次々と襲い掛かってきた。 


「一気に駆け抜けるわよ!」


 見渡す限り全てを覆い尽くすような家具の中を、全力で走り抜けていく。家具の数は、神社に近づくにつれて増えているように見えた。


 どうにか家具達をやり過ごし、参道へ続く階段へ辿り着いた。

 が、目前に現れた光景を見て思わず足が止まる。目の前の階段は、全て家具によって隙間なく埋められていたのだ。 


「この数、やっぱり神社に何かあるわね」


 そうと分かれば、なんとしても神社へ行かなければ。


「モモ、行けるか?」

「かぐがこわれちゃうかもしれないけど……」


 顔を俯かせ、逡巡する表情を見せるモモ。


「この際仕方ない、騒ぎが終わった後みんなで謝りましょう」


 暫しの沈黙の後、開き直った様子のルリがさっぱりとした顔でモモへ告げた。

 亡霊さんも、それに無言でうなずく。


「……じゃあ、おもいっきりいくよ」


 そう言って、モモは俺達をそれぞれ肩に乗せた。


「せーのっ!」


 高らかな合図と共に、両腕を前方に交差させたモモが全力で階段へ突っ込んでいく。俺達は振り落とされないようにしがみつくので必死だ。

 手加減を止めたモモの突進が、階段に居並ぶ家具を次々と吹き飛ばしていった。モモが神社へ辿り着いてから後ろを振り返って見た光景は、まるで濁流全てを押し流したようだった。


「よくやったわね、モモ」

「えへへ」


 たどり着いた神社の中には、階段で吹き飛ばしたものを上回るほどの家具達が。


「こっからが本番って所ね!」


 モモの肩から降り、気合を入れて式神を周囲に展開させるルリ。亡霊さんも同様に、刀を抜き放って敵を見据えた。

 浮遊しながら周囲を取り囲んだ家具たちが、一斉に俺達へ襲い掛かる――

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