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砂の中の黄金  作者: 木村太郎
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ゆりかごの住人達

人の才能というものは一重に、自己を信じ続ける能力の大きさである。

この才能無くして、何事も大成することは決してない。


人間とは非常に勿体無い生き物だ。


才能に恵まれた人間が、その才能を知覚することなく、一般常識というこの世で最も忌むべき存在に押し流される。


欠陥だらけだ。


自分の中に芽生える、純粋な感動、情熱、執着という大樹の種。

人生でもっとも可能性に富んだ時期に与えられるそれらを、忠実に受け入れ、そのために己の全てを費やせば、何事も大成するはずなのだ。


だが、人生という長すぎる長距離走を愉快にするための分岐点は、そこが分岐点であったと気付けるようになった時にはすでに通り過ぎているものだ。


自分がいる揺り篭のように快適な温室からいち早く飛び出し、

『俺には夢がある』

と大いなる一歩を踏み出して、砂利道をはだしで歩き出さねばならない。


おそらく、揺り篭の住人たちは少年を見て、『なに頑張ってるの』と笑うだろう。


だが、案ずることなど何も無いのだ。


きっと、いち早く揺り篭から抜け出した少年は、自身のいた揺り篭を振り返りもしない。そんな余裕も無い。もはや、もといた場所は意識の外にある。

籠の中の永遠の少年少女たちは、その存在も意にとめてもらえない小さな存在となっている。


時間が経てば経つほど、揺り篭というぬるま湯からは出辛くなる。

『いまさら遅い』

『もう、あいつには追いつけないよ』

そんな感情が、遅ればせながら奮い立ちかけた彼らを打ち砕こうとする。


しかし、日を重ねるごとに

「このままでよいのか」

「何かを変えなくては」

「何か僕に特別な力はないか」

「どうしたらいい」


そんな感情が渦を巻いて己の中で存在感を増してゆく。

そして、その感情に押し出されるように、渾身の力で揺り篭から飛び出す。


そうすると、既に揺り篭という自覚なき心の牢獄から飛び出すことに成功した子供たちの姿が回りにある。


よかったね、

ついにやったぜ


と肩を抱き合って喜ぶ。



ふと視線をむけた果てしなく続くその道の先に、最初に揺り篭から飛び出した少年の姿は無い。


もう二度と、彼と同じ場所にたどり着くことはできまい。

その長い道の先にある感動的な景色や、すばらしい財宝の数々に満ちた新大陸へたどり着くだめの時間は、彼らには残されていない。


そのことに、彼らは気付く。



その瞬間を、人々は絶望と呼ぶ。

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