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天才科学者(3):Eside

エヴァンジェリンさん視点。ちょっと暗め

また研究に没頭していたのか?いい加減、その不規則な生活を改めてくれ。」



「まぶしい」 



「こんな陰気な場所に籠もっているからだ。」



以前、亜空間を捕まえる実験をしている時に偶々流れ込んできた大きな白い物体の研究を始めてどれほど時が流れたかは判らない。だが暗い部屋に突如眩い光と共に現れた友人の言葉によれば、また長い間籠もっていたようだった。




「前に会ってからどれくらい経つ?」 



「3週間……ちなみに、上から来た通達は“もう2週間連絡が取れないから探してこい”だ。」




「それはそれは、ご苦労様だね?ジーク。」



「他人事のように言わないでくれ、エヴァ。」




曰く僕の生存を確認しに来たこの男、ジークフリート・ヴォル・ブレットは僕が今回のように数週間研究に没頭しすぎて外部との連絡を絶った時に、毎度様子を見に来る。



断ったことだって何度もあった。たが、以前本当に一度だけ、栄養失調で死にかけた時があって、それ以来ジークはまるで僕の母親と化してしまったわけである。



まぁ、口にはしないが僕も助かってる部分はあるし、今では慣れたことだ。



「そう言えば、さっきNo.22が倒れていたぞ。」



「え?また故障したのかな?……おかしいな、ちゃんとスケジュール対応強化したはずはのに。」



「対応出来ない程お前の生活が乱れてる証拠だ。」



No.22とは、僕の助手のような働きを備えた機械人形(オートマタ)のことだ。僕は大の人間嫌いで、人間の感情程面倒くさいものほどないと思えてしまうくらい、それはもう大嫌いだ。



以前は人間の家政婦やら助手やら部下やらを付けていたが、集まるのは無駄に女が多く、そして非常にうるさい。僕が原因で刃物沙汰になったことも多々ある。



だから、もうあんなに面倒なのはごめんだと思った。ならばわざわざ人間である必要ないという考えに至り、機械人形を作った。



それ以来僕が他人と関わる事は減ったが、余計な揉め事が減ってくれたのは何よりの成果となった。



「リリィが居た頃が、一番静落ち着いていたな。」



「なに、ジークそれ言っちゃうの?僕に喧嘩売ってる?」



「あ、いや…すまない。故意にではないんだ。」



「いいよ、別に。もうどうでもいいから。終わったことだし。」



ジークがわざと言ったわけじゃないことくらい、長い付き合いがあれば判る。ただ、リリィの名を出されたのが予想外過ぎてつい反抗してしまっただけだ。



リリィは嘗て、僕の妻だった女性(ヒト)だ。お互いにそりが合わなくなってしまったから離婚した。ただ僕が研究に没頭しすぎたのも原因だったが、今はもう何とも思ってない。ジークも時が流れた所為でふと口にしてしまったんだろう。



「それで、用件は?」



「ただ様子を見に来ただけだ。一応、上からは顔を出すよう伝えろとは言われたが…」



「上って誰?総帥?それとも元帥?…あ、元帥って言えばシャーマン見つかったの?もうそろそろ帰還する頃でしょ。」



新しいシャーマンは異世界にいるという予知が、大分昔に出された。僕はその予知とやらの所為でシャーマン探しに参加させられ…つまりは、異世界へ行く方法を探せという仕事を貰った。正直、成功させたくなかった。でも方法が見つかってしまい、元帥を異世界へと送り出したのが半年前。



元々半年を予定にしてたから、そろそろ戻って来てもいい筈。



「……まだだ」



「へぇ?…ま、僕はどうでもいいけどね。異世界人の研究が出来れば。」



ジークの返答は怪しかった。だから、半分確信はあった。シャーマンは既にミストへ来ていると。




***




僕は行動力がある。思ったことは直ぐに口にするタイプの人間だ。



昨日ジークの目が泳いでいたのを怪しんで、行ってみたら案の定シャーマンらしき女がいた。



まだ幼さの残る少女だった。



ジークが教えるのを躊躇ったのがよく解る。こんな、何も知らない無知で無垢な少女に見せたくなかったのだろう。この世界の汚れた部分を。



「じゃあ、ユティ次の質問。」



「はい。」



「ユティは元の世界へ戻りたいの?」



「…いきなり話題変わりましたね。招き猫はもういいんですか?」



「うん。」



ユティを自分の研究室へ招いたのは、 勿論マネキネコやウチュウやら、沢山気になることを聞きたいというのもあった。



だが一番聞きたかったのは返りたいか否か、だ。



「帰りたいですよ?そりゃ。でも今はどうしようもないじゃないですか。私がいなくなれば、このアガルタは墜ちちゃうでしょう?だから、今は我慢します!真名を名乗らなければ帰してくれると、約束してくれましたから。」



そう言って笑う彼女に、私は眉を寄せた。やはり、軍は彼女に具体的なシャーマンの在り方を説明していないようだ。何を成し遂げれば帰れるかとか、何故真名を名乗ってはならないのか、とか。



彼女は本当に疑問を感じないのだろうか。その曖昧な約束に。



「エヴァンジェリンさんって、軍が嫌いなんですか?私の所へ来た時もそうでしたけど、今だって怖い顔をしています。」



「そうかな?……まぁ、嫌いなのは否定しない。憎しみすら感じるよ。」



「…っ!」



「はは、君に話すことじゃなかったね。ただ用心するに越したことはない。君がそんなに奴らを信用したいなら、ジークだけは味方だと思えばいいよ。」



「ジークさんだけ、ですか?」



「彼はきっと、誰よりも君の心境を理解してくれているだろう。でもそれと同じくらい、彼は軍に忠実でもある。」



ユティは首を傾げていた。

解らなくて当然だ。

ジークは滅多に感情を表に出さないし、本音を口にしない。



だが間違いなく、誰よりもジークは今すぐに彼女を帰したい気持ちでいるはずだ。



そんなジークを彼女の教育係に抜擢したボルラロッサもいかれてる。アイツだって、少しはシャーマンに情を沸かせてるだろうに。ジークに対する憎しみの方が強いのか。



「なんだか暗くなってしまったね。気晴らしに歓楽街にでも行こうか?」



「………はい」



少し間を開けて、彼女は小さく頷いた。




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