始まり。
「………やっと、会える」
ひらり、ひらり舞う満開の大桜。
その切れ目から差し込む温かな光に目を細めた。
太陽を見つめながら、言葉を紡ぐ。愛しそうに、大切に、その言葉を。
「――――――――エリカ、エリカってば!」
「……、え?あぁ、ごめん、聞いてなかった…」
大声で叫べば、上の空の彼女はようやく意識を傾けた。
彼女の様子に友人は、何年分の幸せが一気に抜けていくであろう深い溜息をつく。
「…いいよ、友情にヒビ入ったから」
「ご、ごめんなさい!…で、どうしたの…?」
「…今日ね、転入生来るんだってーうちのクラスに!」
「へぇ…、こんな時期外れに…?珍しいね」
「だしょ!?しかも、オトコノコ、だって~♪」
きゃーwwと喜びを全身で表現する友人に、彼女…白川エリカは微笑んだ。
可愛らしい、というか…とりあえず素直だなぁ、とその後苦笑い。
それに気付いた友人がエリカを小突いて、直後入ってきた担任により話は中断された。
「もう知っている奴もいると思うが、うちのクラスに転入生が来ることになった!黒森、入れ」
担任が、扉の向こうにいるであろう転入生に呼びかけた。
それに応えて、ドアが開け放たれる。
入ってきた少年に、女子生徒達(エリカ以外)は感嘆の溜息を洩らした。
「某事情で引っ越してきました、黒森夜でーす。よろしく」
夜、と名乗った少年は、絶世、と言ってもいいほど整った顔立ちをしていた。
制服の下に着込んだパーカー、耳にはめている紅と蒼の石のピアス、彼の放つ雰囲気全てが彼を惹きたてている様だ。
何より威圧感のある、切れ長な目に宝石のような異彩の深紅の瞳。
エリカは吸い込まれたかのように彼に見惚れていた。
「じゃ、黒森は白川の隣に座ってくれ」
「うぇーい」
唖然とした表情のエリカをよそに、夜は着席する。
そして夜はエリカを見ると、笑みを浮かべた。すごく、すごく、優しい笑顔を。
「よろしくな、白川…何だっけ」
「あ………えと、え……エリカ、」
「じゃあ、エリカ。これからよろしくな」
「よろしく……夜、くん」
「くん付けじゃなくていいから。気軽に夜って呼んでくれ」
「う、ん。よろしく、夜」
おう、と言う彼の顔は、本当に優しい笑みを浮かべていた。