アンビバレンツ(自作)
こちらは女性向けの恋愛小説です。
男性同士の恋愛等に不快感を持たれる方は閲覧の際注意して下さい。
出来れば普通の恋をしたかった。
見つめる事すら許されず、胸に息づく大切な想いを閉じ込めて。
深く、深く。
俺の手の届かぬ心の底に沈めてしまおう。
そうしてどれくらい経っただろう。
未だ消えずに溶けずに膨れ続ける、俺の恋心。
「壊れたい」
誰にともなく小さく呟く。
「勉強のし過ぎじゃねェの?」
彼はからかうように笑った。夕焼けが眩しい初秋の陽射し。
俺は茜に染まった彼のYシャツを見つめていた。
「付き合おっか?」
「…え」
ビックリして目を見開いてしまった俺を不思議そうに見る彼。
「息抜き」
……。
「いや…」
次の言葉が継げなくて、不自然に視線をさ迷わせる。
自然に。
彼の前では普通に。
落ち着いて、深呼吸をしよう。
「何か悩み?」心配そうに瞳を伏せて、俺の胸の中をかき混ぜる。
…壊れたい。
彼を見ても何を言われても何も感じないように。
億が一胸の奥底に閉じ込めた想いが破裂してしまっても何も感じないように。
バラバラに千切れてしまっても構わないから。
「悩みなんて無い」
顔の筋肉を上手く動かす。
「ダルいだけだから」
ニコニコと笑う度に胸がシクシクと痛む。でも、オレが上手に笑う度に彼は不機嫌になって。
「最近いっつもそうだよな」
と吐き捨てる。
彼に嫌われる程嬉しくなる。
自分自身から彼を守っている気になって、誇らしく錯覚する。
彼から遠ざかるということは、彼を守るということだ。
その為なら俺は、自分なんてひと欠片も残らず消し飛んでも構わないと思う。
「たまには遊びに行こ」彼は俺のYシャツの裾を二三度引っ張る。
こうなると今度は俺の中の閉じこまった部分が主張して困る。
嬉しくなって困る。
胸の中がグチャグチャになって、頑強な意思は呆気ない程簡単に決壊する。
だから壊れてほしいのに。
それだけただ望んでいるのに。
下手な笑顔で惹き付ける彼を、どうしても好きになってしまうから。
パンパンに膨れ上がった想いを今日もまた、深く、深く押し込めるのだ。
珍しく女性向け。
片恋が一番美しい時期ですね。