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宇宙人ってホントにいる…の? ―2030年、人類降伏と地球政府の選択―  作者: 羅刹夜叉


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7/30

命名:オーバーアーク体

昼休みの食堂。テレビはいつもの連続ドラマを流していた。その画面の下に、

突然、赤い速報テロップが走った。


《速報》

合衆国政府、地球外知的生命体を「オーバーアーク体(Overarch Entity)」と命名。

国内でも呼称を「オーバーアーク」へ統一。


隣のテーブルで別部署の研究員が箸を止めてつぶやく。


「……ついに名前がついちゃったんですね。妙に実感が出るなぁ」


私は曖昧に「そうだな」と返しただけだった。

食後のコーヒーは、いつもより苦味が舌に残った。


名古屋の救援や復旧が始まった一方で、日本政府にも合衆国を経由して

「オーバーアークからの指示」が矢継ぎ早に届いているらしい。

ただ、彼らがどのような姿をしているのか、

どのように指示が下されているのか――相変わらず一切わからない。


その最初の通達が「憲法の改正」だった。政治に興味のない私でも、

新聞に掲載された暫定案の冒頭には思わず目を奪われた。


「日本国民は、オーバーアークによる管轄保護のもと、宇宙秩序の維持に協力し……」


中学や高校の授業で聞きかじったような単語が並ぶが、意味はまるで変わっていた。

主権は国民ではなくオーバーアークに帰属する。


基本的人権には「オーバーアークの許容する範囲内で」と但し書きがつく。


国会議員は今までどおり国民による選挙でえらばれるが、

首相は最終的にはオーバーアークの承認が必要。


国会が制定する法律も、オーバーアークの認可がなければ無効――。


読み終えたとき、不意に「昔の帝国憲法って、こんな感じだったのだろうか」と思った。

国のトップが天皇からオーバーアークに置き換わっただけのようにも見える。

さらに、各国の憲法の上位に「宇宙法」というものが制定されるという。


これはオーバーアークが一方的に提示したもので、地球規模、あるいは

宇宙規模の案件に適用されるらしい。もはや国家という概念は、

文化や地域のまとまりを象徴するだけの存在になる――そんな説明が

淡々と記事に書かれていた。


「まあ……そういうものか」


思わず口をついて出たのはそんな言葉だった。

政治家や経営者にとっては大騒ぎだろうが、私のような一般人には、

日々の生活が急に変わるわけでもない。今は何より、

自分の研究テーマを片付けることの方が重要だ。


ちょうどそのタイミングで、メールに「来月の九州での学会、予定通り開催」と

事務局から連絡が入った。


私はパソコンの前に座り直し、発表スライドの修正作業を再開した。

ほんのわずかに、画面の文字が霞んで見えた気がしたが――疲れているだけだろう。

そう思うことにした。

オーバーアークによる地球支配が、ついに制度の形を取り始めました。

しかし一方で、一般市民の日常にはまだ大きな変化は見られません。

社会の大変革とは、こうして静かに進み、気づいたときには

もう昨日までとは違う世界に立っている――そんなものなのかもしれません。

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