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宇宙人ってホントにいる…の? ―2030年、人類降伏と地球政府の選択―  作者: 羅刹夜叉


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5/30

名古屋消失、その夕刻のこと

――その日、私は職場の食堂で少し早めに夕食を済ませ、研究室に戻ってから、

さきほど行ったコンピュータシミュレーションの結果を眺めていた。

量子誤差補正のパラメータをいくつか変えて再計算してみるべきか――

そんなことを考えながら、ディスプレイに表示されたグラフに

赤い補助線を引いていたときだ。


20時頃だったろうか。ノックもなく扉が開き、同僚の関口が顔をのぞかせた。


「篠原さん、ニュースサイト、ご覧になってますか?

なんだか、名古屋が大変なことになってるみたいですよ」


「名古屋?」


仕事を中断された不快感が一瞬だけ胸をかすめたが、私は慎重にシミュレーション画面を閉じ、

ブラウザを立ち上げた。見慣れたニュースサイトの画面いっぱいに、赤字の速報が

重なるように表示されていた。


――名古屋北部で、大規模な爆発らしき現象が観測されました。

周辺地域との通信が広範囲で途絶しています。


“現象”という言葉が妙に引っかかった。しかし記事を読んでも、爆発の原因はおろか、

その規模も死傷者数も一切書かれていない。


しばらく画面を眺めていると、SNSの断片的な関連記事がいくつか目に入った。

どれも途中で途切れ、内容は判然としない。タイムラインには、焦りとも不安とも

つかない声が流れていた。


「名古屋の親戚と連絡とれん。どうなってんの?」

「テレビが一斉に同じテンションで話してるの、逆に怖い」

「実況中の名古屋ユーチューバー、急に配信切れた」


ただ、驚くべきはその後だった。


「……ロンドンでも同じ? オーストラリアでも?」


世界の複数箇所で、ほぼ同時に同じ「現象」、

――一瞬、「世界同時多発テロ」という言葉が頭に浮かんだが、すぐに打ち消した。

「ふん、馬鹿馬鹿しい……」


だけど――昨日、合衆国大統領が、「地球外からの脅威に断固として立ち向かう」と

世界一斉放送で宣言したばかりだ。


「まさかな……」


苦い気持ちを吐き出すようにため息をついた。関口も私の表情を見て、曖昧にうなずく。


「ただの事故ならいいんですけどね。でも、事故にしては……」


そこから先の言葉は、彼の喉で消えた。


深夜、永田町の首相官邸で緊急記者会見が開かれた。私は休憩室のテレビモニターを

何となく眺めていた。


官房長官は、淡々とした口調で原稿を読み上げ始めた。


「えー……このたび名古屋市北部で発生しました爆発事案について、

現在情報収集中でございますが、まだ確定的な情報は得ておりません。

一部には『地球外生物なる者たちによる核攻撃』といった噂もあるようですが、

根も葉もない偽情報に惑わされることなく、冷静に、

通常どおりの生活を送っていただくようお願い申し上げます」


記者が手を挙げる。


「官房長官、それは『宇宙からの攻撃』ではないのですか?根も葉もないとおっしゃってますが。」


「えー……現時点では、そのような断定的な表現を用いる段階ではないと考えております」


「核爆発なのですか?」


「そのような事実は確認されておりません。ただ……その……被害の状況から、

きわめて大規模なエネルギー現象が発生したと推定しています」


記者席には緊張が漂っていたが、どこか追及に力が入っていないようにも見えた。

スタジオに切り替わったキャスターの声は、わずかに震えていた。


私は会見を最後まで見る気になれず、研究室へ戻ろうと立ち上がった。


こういう大事件は、政治家や軍の仕事だ。私が見たところで何かできるわけでもない。


……そう思うことにした。


翌朝研究室に入ると、名古屋方面出身の後輩・加藤が上司に頭を下げていた。


「しばらく仕事を休んで、様子を見に行きたいんです」


私は声をかけた。


「加藤。お前、出身どこだっけ?」


「豊橋です」


「豊橋って名古屋から少し東京寄りだったよな?

新幹線はどうだ?」


「ええ……JRに問い合わせたら、浜松までは動いてるみたいで。

浜松まで行ければ、あとは何とか……」


そこまで言ったところで、加藤の声が細くなった。


「名古屋からこっち、20キロくらいの範囲は……線路が、めちゃくちゃらしいんです。

今朝、母と電話がつながりまして……

『西の空に物凄い閃光が走って、真昼みたいに明るくなった』と……」


彼は唇を噛み、言葉を止めた。


私はゆっくりとうなずいた。


「……大丈夫だ。豊橋はきっと無事だよ。お母さん一人暮らしだったよな?

仕事のことは気にするな。だけど……無理すんなよ」


「ありがとうございます……」


加藤は震える手で鞄をまとめ、研究室を出ていった。


静かになった部屋で、私はパソコンに向かい直した。


だが……ディスプレイに映るグラフの赤線が、なぜか昨日よりも滲んで見えた。


疲れているだけだろう。そう思うことにした。

名古屋消失によって、物語は世界の出来事から、

一気に主人公・篠原の手の届く日常へと近づいてきました。

それでも篠原は、まだ自分の生活を続けようとしています。

その足元に生まれた小さな違和感が、この先

どう広がっていくのか――見守っていただければ嬉しいです。

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